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11話 合宿だ!

 ここが葵 月夜(あおい つきよ)部長の家……。

 顧問の岡山(おかやま)みどり、『地底探検部』部員の夏野 空(なつの そら)倉井 最中(くらい もなか)、夏野の友人、春木 桜(はるき さくら)は並んで見上げている。

 たどり着いた4人は、書院造りの堂々とした風格に圧倒されていた。

 周りの視線を受けて岡山みどりが玄関脇の呼び鈴を押そうとしたとき、ガラガラと玄関の引き戸が開きポニーテールの美少女が今から外出する装いで現れた。

「なに、あんたたち? あ! 最中がいるじゃん!?」

 驚いた葵 海(あおい うみ)が倉井最中を認めると、くるりと身をひるがえして廊下に向かって叫ぶ!

「お姉ちゃーーん! 今度は集団で来たよーーー!」

 ニコッと倉井に手を振って海は皆の横をスタスタと通り過ぎていく。倉井は小さく手を振り返していた。

 見とれていた一行は彼女の姿が消えてから気がついた。

「今の誰?」

 不思議な顔をして春木が倉井に聞く。

「月夜部長の妹の海さん…」

「え!? うそ! ちゃんと挨拶すればよかった!」

 驚いた夏野空が声を上げ、

「姉妹揃って美人って何? 遺伝なの!?」

 春木が(つぶや)く。

 そこへ廊下からジャージ姿の葵 月夜(あおい つきよ)が出て来た。

「みんな早かったね! ん? なんで桜君がいるんだい?」

「あんたのお目付け役。いかがわしいことをしないようにね!」

 ムッとした春木が言うと月夜は苦笑いで答えた。

「ははは、何もしないよ。それに桜君も勉強熱心だね。感心だなぁ」

「えっ!? あたしも!?」

 自分を指でさして驚く春木の肩をニヤニヤしている夏野が叩いた。


 葵月夜に大広間に案内された一行。

 20畳ほどの一角に布団が積まれていて、折り畳みの低い机が出してあった。

「ずいぶん広いお家ね。向こう側はどうなってるの?」

 キョロキョロしていたみどり先生が、反対側の廊下の先を見ながら尋ねる。

「向こうは道場になっていて、お母さまが空手を教えているんだ。わたしもたまに参加しているよ」

「へ~意外ねー。でも由緒ある家みたいね…」

 微笑むみどり先生。皆の荷物を持った月夜は布団の横へ置くと準備を始めた。


 葵月夜が用意していたスケジュールを記した紙をそれぞれに渡す。

 もはや学校の時間割に近い。体育や家庭科などテストのないものは除外してあるようだ。

 あたしもこれをやるの……本気の学力向上合宿に春木は来た事を後悔し始めていた。

 さっそく机に教科書を出して始める。

 今回はみどり先生も手伝うので月夜は負担が少なく済んでホッとしていた。

 しかし、数学の勉強になるとみどり先生は縁側へ座り、お茶を飲みながら外を見ている。

「…ミドリちゃん?」

「私、社会科が専門だから。数学と化学は苦手なの。頑張れ! 葵さん!」

 しれっと逃げたみどり先生にぐぬぬ…と目を向け、しかたないので月夜は1人で3人相手に教え始めた。


 しばらくすると妹の海が外から帰ってきて、大広間にいる月夜たちを見つけると近づいて来る。

「…なにやってんの?」

 低い机に広げられた教科書や参考書を眺め、ついで倉井の隣に座ってふむふむと勉強を見始めた。

「これ…式が合ってないよ。こっちの式の方がいいと思うけど」

「そ、そうなんですか?」

「うん。ほら、試しにやってみなよー」

「は、はい」

 なぜか倉井に教え始めた。

 夏野を教えていた月夜は妹が参加したのが嬉しくて顔をあげるとニコリとする。

 目が合った海は眉を寄せる。と、倉井が黄色い声を上げる。

「できました! 海さん! やりました!」

「でしょー」

 二ヒヒと笑う海は挑発的に姉に向かう。

「ほら! あたし1位だから余裕なの! お姉ちゃんはどうなの?」

「ぐ……さ、3位だ」

 悔しそうに首を振って答える月夜。

 見ていた春木はヒソヒソと夏野に聞く。

「学年3位だったら充分だよね?」

「違うと思う。たぶん全国のだよ」

「は!?」

 あまりのレベルの違いに驚く春木。どんな姉妹なの? 頭良くて美人でなんなの?


 ちょっとした騒ぎに縁側から戻ってきていたみどり先生が海に質問する。

「ところで、あなた高1の教科書がわかるの?」

「もちろん! こんなことじゃ来年も余裕よねー」

 ドヤ顔の海が答えるとみどり先生は、来年はうちの高校にくるのよねこの子……不安が増した。

「こんなお姉ちゃんじゃなくて、海に教えてもらったほうが皆が助かるんだけどなぁー。海は頭いいし、教え方も上手だから……」

 眉を下げた月夜が妹の海に訴える。

「な、なによ…。そんなこと言っても嫌だかんね!」

「同じ部員じゃないか海…。来年は同じ学校になるんだからさ、教えた方がかわいがわれるかも……」

「もぅおおおお! ちょっと、ちょっとだけだからね! ほら、最中たちも教科書開いて!」

 言われて姉妹に注目していた一同はハッとして勉強を再開した。

「それじゃ、わたしは夕飯の支度してきまーす!」

 月夜は立ち上がり、あとを海に任せ、スタスタと台所へと行ってしまった。

 それを見た春木は(つぶや)く、「頭いいけどチョロいな海ちゃん……」

 結局、最後まで海は勉強会に付き合っていた。


 葵月夜の母を交え夕食を楽しんだ一行はお風呂に入った後、再び大広間へ集合した。

 勉強が終わった夏野は浮かれまくっていて、どこにいくにも月夜にべったりくっついていた。

「あ、そうだ! 月夜部長の部屋が見たいです!」

「えっ!? い、いや、そんな人に見せるモノでもないけど」

「いいです、いいですから! 見に行きましょー!」

 月夜の手を引いて夏野が廊下へと出て行く。

 残された3人は布団を敷くとごろりと横になった。

 サッパリしたみどり先生は眼鏡をケースにしまうと楽しそうに笑った。

「はー来て良かった! 今日は楽しかったわー」

「まさか中3に勉強を教えてもらうとは思ってなかったけどねー」

 ぐったりと春木は枕を抱き寄せた。

 学力が倉井と同じぐらいなのが分かって、2人で海に教えてもらっていたのだ。

 クスクスと笑って倉井は天井を見つめた。今日の出来事が頭をまわっている。

「初めてのことだらけで楽しかった……」


 ふと、みどり先生は春木に顔を向ける。

「ねえ、春木さん。いっそのこと部活を変えない?」

「えー。嫌ですよー」

「吹奏楽部は大所帯だからレギュラーとるの大変でしょ?」

「まあ、こっちはこっちで練習あるのみです!」

 ぐっと拳を握る春木にみどり先生は苦笑する。

「あなたがいれば、葵さんのいいストッパーになると思ったんだけど…」

「アレはわたしでも無理。ってか、先生が止めてください!」

「私が無理だからお願いしているのよ」

 互いに目を見ると思わず笑い出す。

 まるで問題児が葵月夜だけみたいな言い方だ。

 みどり先生は、月夜をダシにして高1の春木を部員にしたかったが諦めた。

 興奮した夏野が月夜を連れて戻ってくると、あれこれと春木と倉井を巻き込んで話し始める。

 本当に合宿ね。

 彼女たちの話しを聞きながらみどり先生は楽しそうに目を閉じた。


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