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108話 登校しよう!

 この日、葵 月夜(あおいつきよ)は妹の(うみ)を玄関前で待っていた。

 高校の制服に身を包んだ月夜は、カバンをさげていつでも登校できる準備が整っている。

 早くこないかなと、ウキウキ気分で月夜がいると玄関の引き戸が、ガラガラと音を立てて開いた。

「なんで待ってるの!?」

 姉の存在に気がついた海が驚いている。

 フフンと余裕そうに月夜が妹に近づく。

「たまには愛しの妹と一緒に学校へ行きたいんだ。最近は最中(もなか)君と二人で先に出ていくから、お姉ちゃんは寂しかったんだよ~」

 急に態度を変えて海にしがみつく月夜。うざったい顔で海は姉を見ていた。

 そう、倉井 最中(くらいもなか)がよく泊まるようになってから、二人は一緒に学校に登校していたのだ。最中と二人きりになりたい海は姉に邪魔されないように先に家を出ていた。

「お願いだよぉ~~。一緒に行こうよ~~」

「ああーー! もう! お姉ちゃん面倒くさい! だいたい部活で会えるし、家にいるでしょ!」

「そんなこと言わないでさぁ~~。海と一緒に行くのが楽しみなんだよ~~~」

 あまりの懇願に海はため息をつくと、姉から離れる。

「しょうがないなー。あんまりごねられると学校に遅刻するから……」

「ありがとう海!!!」

 感極まった月夜は妹をギューーッと抱きしめた。


 家を出て学校へ向かう。

 すっかり見慣れたとはいえ、ギャルの格好の姉と並んで歩いていると場違いな気がしてくる。背が高いし。

 嬉しそうに横にいる姉に海はため息をついた。

 早く妹離れして欲しいと最近は思うようになってきた。母親の言うことには親以上に妹が好きなようで、幼い頃からずっと姉が面倒を見てくれたようだ。

 優しい姉は好きだが、あんまりベッタリされるのも困る。というか、最中といるときに邪魔だ。

 どうしたら自分以外に興味を持ってもらえるかと海は思案する。

 すると、夏野 空(なつのそら)の顔が思い浮かんだ。そうだ! キャンプのとき、姉が好きみたいだとわかったんだ!

 海はそれとなく姉に夏野の事をアピールしようと画策した。

「そ、そういえば部長の空ってどう思う?」

「どう、とは何かな? 部長は何かと大変だから空君には感謝してるよ」

 妹から夏野の話題を振られ、不思議に思いながらも答える月夜。今まで一度も夏野の話題を切り出した事が無い妹が、どういう風の吹き回しか突然言い始めたからだ。

「そういえば空君とはキャンプのとき、同じテントだったね。海は空君と親交を深めたのかい?」

「う、うん。まーそんなとこ。じゃなくて! お姉ちゃんは空のことどう思うの?」

「どうって、普通に好きだが」

「好きなの!?」

「もちろん。(ゆき)に最中君や紅葉(もみじ)も好きだぞ。なんてったって地底探検部の部員だからね。だが、最上級に海は好きだよ」

 少し照れながら答える姉に海はガッカリした。

 そういう好きじゃないってば! 胸の内で突っ込む。だが、下手に夏野が姉の事を恋愛対象として好きと伝えた場合、ちゃんと受け止めてくれるのか不安があった。

 姉は中学時代にモテまくっていたが、鈍感というか興味がないようで相手がことごとく玉砕していたのを見ていたからだ。

 しかし、夏野の事を思い出すと、彼女が姉に積極的にアピールしているくせに気づかれていない節がある。

 とすれば、まわりからお膳立てした方がいいのかもしれない。

 海は計画を変更した。


 そこに姉が手を差し出してきた。

「なに?」

「手をつなごう妹よ!」

「やだよ! なんで朝からバカ姉貴と手をつながないといけないの!?」

「そんなこと言わないでおくれよ~~。お姉ちゃんは海とスキンシップしたいんだよ~~。近頃は姉妹のふれ合いがなくて寂しいんだよ~~」

「さっきしたじゃん! 勝手に抱きしめてきたし!」

「あれは違うんだよー! 感謝のしるしだよ~~。さ! 我が妹よ!」

「……」

 はてしなく面倒ながらも海は姉の手をとった。

 たとえ手を振り切って逃げ出しても姉の方が足が速い。しかも腕力も上だ。何年も空手から遠ざかっている海には姉は巨大な壁だ。

「嬉しいぞ妹よ! 海の手は小さくて可愛いなぁ」

「うっさい! とっとと学校へ行くよ!」

 嬉しがる姉に恥ずかしがる妹。

 親密な姉妹っぷりな状況が恥ずかしい海はどこか落ち着かない。

 倉井とならずっと手を握ってても物足りないのに姉だと気恥ずかしさの方が勝っている。

 姉と歩きながらも海は倉井の笑顔を思い浮かべていた。


 久しぶりに妹と一緒に学校へ登校できた月夜は上機嫌だ。

 ルンルン気分で授業を受け、あっという間に放課後になった。同じクラスの冬草 雪(ふゆくさゆき)は、そんなニヤケ顔の月夜を気持ち悪そうな目で見ていた。

「あまり聞きたくないけど、気になるから聞くけど何かあったのか?」

「うむ。雪、聞いてくれ。今日は可愛い妹と一緒に学校に来たので嬉しいのだよ。ああ、多元宇宙でもっとも可愛い妹。まさに異次元級の天使だな!」

「…聞かなきゃよかった。だいたい何だよ、多元宇宙って」

 くだらない理由に冬草はどうでもよくなった。

 そこに秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が現れ、三人は部室へと向かった。


 地底探検部の部室前で待ち構えていた海。

 目的の人物の姿が見えるや声をかけた。

「最中~! 空~!」

「海さん!」

 夏野と連れ立って歩いていた倉井が嬉しそうな声を上げる。

 パタパタと小走りで近づく倉井。笑顔の海がお疲れさまと声をかけている。

 なんだろうかと夏野が寄っていくと真面目そうな顔をした海。

「空。ちょっといい? 話したいことがあるんだけど」

「へ!? わたし?」

 思わぬ指名に驚く夏野。そんな夏野をジッと倉井が(うらや)ましそうに注目している。

 そんな倉井に海が手を合わせた。

「最中ごめんね。悪いけど先に部室に行ってもらっていい? ちょっとお姉ちゃんのことで空と話したいから」

「うん、わかった」

「ありがと。後で教えるからごめんね」

 ああ、月夜先輩のことねと納得した倉井が(うなず)き、夏野たちと別れて部室へと入っていく。

 これはどういうことかと不思議がる夏野を人通りの少ない場所へと海が連れて行く。


「月夜先輩の事って何なの海ちゃん?」

 人影のない廊下の隅でたまらず夏野が聞いてくる。

 すると海が真剣な表情を見せた。

「空ってお姉ちゃんの事が好きなんだよね?」

「う、うん」

 直球で聞かれて頬を染める夏野。姉のことを妹に言われ、照れ度がアップする。

「本気で? 軽い気持ちじゃなくて?」

「もちろんずっと本気だよ。だって、す、好きだから一緒にいたいと思って追いかけてるし……」

 なんだか告白する並の恥ずかしさに夏野の顔は真っ赤になる。ここまで言わせる海の目的が謎で夏野は混乱していた。

 海はジッと夏野の目を見て頷く。きっと大丈夫だろうと。

「わかった。わたし応援するから空のこと」

「えっ!? それって!?」

「ちゃんとお姉ちゃんの面倒を見てね? ダメなところが多いから」

 思わぬ海からの応援宣言に夏野の体が軽くなった気がした。

「いいの!?」

「いいもなにも空とお姉ちゃんの問題でしょ? わたしは空を応援して、お姉ちゃんと付き合えばいいと思うよ」

「ふぁああ! ありがとう海ちゃん!!!」

 あまりの嬉しさにガバッと海に抱きつく夏野。

「ち、ちょっと!? やめてってば!? そういうところお姉ちゃんにそっくり!」

「エヘヘ似てるって。エヘヘヘ」

 あまりの嬉しさにだらしない顔の夏野。ホントに大丈夫かなと海は思い始めた。


 落ち着いた夏野は部室に戻り始めた海に聞いてきた。

「どうして応援する気になったの?」

「……いい? これは二人の秘密だからね? 特に最中には黙ってて」

 足を止めた海が夏野に釘を刺す。夏野は首をブンブンと縦に振った。

「お姉ちゃんが邪魔なの。せっかくあたしと最中が二人きりでいるのに間に入ってくるし、最中にあれこれちょっかいかけてくるし、最中も最中でお姉ちゃんの相手するし──と、とにかくお姉ちゃんが空に夢中になればいいの!」

「ああ、なるほど……」

 夏野は理解した。自分の気持ちを思って応援してくれてるわけではないことを。

 どちらかというと倉井とイチャイチャしたいから姉の月夜先輩がうっとしいわけだ。

 確かに消極的理由だが、それでも妹公認になったわけで、これでグッとハードルが下がってきた。何のハードルかわからないが。

 そこでハタと夏野は気がついた。これって海ちゃんは最中ちゃんが好きってことじゃない!?

 思わぬところで両想いを知ってしまった。これって最中ちゃんに言った方がいいのかな? いや、この二人は静観していたほうが良さそうだ。

 頬を染めて説明した海に夏野は笑った。


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