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106 洞窟に行こう!

「うっ、うっうっ、うっ……」

 ジャージに着替えた葵 月夜(あおいつきよ)が泣きながら川で自分のパンツを洗っている。

「元気出してくださいよー。ほんのちょっとシミになったぐらいじゃないですかー。ドンマイです!」

「うっうう…情けない……」

 隣にいる夏野 空(なつのそら)が月夜を励ましているがまだ泣いていた。もう高校三年生なのにお漏らしなんて…。しかも大っきい方を。

 情けないやら恥ずかしいやらで月夜は周りに会わせる顔がない。

 汚れが落ちた濡れているパンツを冷たい手で絞ろうとしたが上手く力が出ない。それを見た夏野がパンツを月夜の手から奪うと水を絞り出す。

「ほら! きれいになったじゃないですか! これで証拠隠滅です!」

「そ、そうだな。後は私の記憶を消せば完全だ。うむ。今日は何もなかったはずだ」

 夏野が嬉しそうにキレイになったパンツを広げて見せ、月夜もいくぶん明るさを取り戻したようだ。

 返してもらおうと月夜がパンツに手を伸ばすと夏野が避ける。

「……」

 無言で見つめる月夜に夏野はハタと気がついた。

 どうやら無意識に月夜のお宝パンツを我が物にしようとしていたようだ。しかも本人の前で。

 ヤバイと感じた夏野は、エヘヘと愛想笑いで誤魔化しながら月夜へパンツを返す。

 月夜は夏野の謎な行動にいぶかしむ。……そういえば風邪のとき、タンスの前で冬草と夏野の二人が何かしていたのを思い出した。

 ニュースで女性の下着や身に付けている物を集めている犯罪者がつかまったとよく聞くが、まさか空君も…?

 不審に思った月夜がジッと見るとかわいく微笑む夏野。……いや、きっと間違いだ。そう思い直して月夜は首を振って気にしないことにした。

 焦る夏野はニコニコ笑顔で誤魔化し倒している。

 そんな二人は立ち上がると皆のいるところへと戻って行った。


 月夜たちが現れると妹の葵 海(あおいうみ)が何かを手に持ってきた。その後を倉井 最中(くらいもなか)がついてきている。

「お姉ちゃん恥ずかしいでしょ、もう大人なんだから! これ使って! わたしに迷惑かけないで!」

「う、うむ。これは…?」

 渡された物を見た月夜。それは、キャラクターのクマPがプリントされた毛糸の腹巻き。

 お腹を冷やさないようにと妹が配慮してくれたようだ。思わず感動して妹を抱きしめる月夜。

「ありがとう海!! 愛されてお姉ちゃんは嬉しいよ!」

「離せ~! 違うから! わたしに迷惑かかるからでしょ!」

 ぎゅっと抱きしめられて嫌がる海。その姿を見て倉井はクスクス笑う。

 倉井の様子に気がついた海が慌てて子供っぽい腹巻きについて弁明しはじめた。

「た、たまたまリュックの中に腹巻きが入っていただけだから! わたし普段使わないし! 大人だし!」

「ううん。とってもかわいいと思う」

 そんな海に倉井はニコリとする。否定されるかと思っていた海は、逆に好感度が上がったようで頬を染めた。


 こうして復活した月夜を交え、再びバーベキューを部員たちは(にぎ)やか続けた。

 長かったお昼を終えた月夜たち。後片付けをして、洞窟を目指すことになった。

 夏野が先頭に立ち、部員たちを案内する。

 川沿いに上流を目指して歩くこと約五分。切り立った崖にポッカリと穴が開いている。

 あまりの近さに岡山(おかやま) みどり先生は、なんで今まで来なかったのかしら? と不思議がる。

 それを説明するように夏野が冬草 雪(ふゆくさゆき)に話し始めた。

「雪先輩は知らないと思いますけど、この洞窟ってわりと有名なんです。中学生の頃とか、たまに遊びに来てたんですよ」

「へー。紅葉も知ってたのか?」

 聞いた冬草が秋風 紅葉(あきかぜもみじ)に振ると笑みを浮かべて(うなず)く。

「もちろん。薄暗くてヒンヤリしている洞窟の中でシッポリもよくない?」

「よくねーよ!? なんで全部そっちに結びつけるんだよ!?」

 冬草のツッコミに秋風が笑う。聞いていた夏野は本当にやりそうだと思った。


 岩手 紫(いわてむらさき)先生は隣で歩くみどり先生の手をそっと握る。

 驚いて顔を向けるみどり先生に紫先生は微笑む。

 まあ、今日は知っている人だけだからいいかな。そう思ったみどり先生は手を握り返して口元を緩めた。

 二人は楽しそうに部員たちの後ろで握った指を絡めていた。

 洞窟の前に立つ部員たち。

 大人二人が並んだほどの大きさの穴が暗い先に続いている。

 ジャージ姿の月夜がコホンと部員たちに説明した。

「ここは昔、ご先祖様が金を採ろうとして、途中で止めた穴だ。三〜四メートルほど掘って飽きたと記録にはあった。だが、それ以前に地質を調べず適当に穴を開け始めたのは失態だ。さすが、ご先祖。なんとなくわかる」

「へ~。初めて知りました。月夜先輩のご先祖様ってせっかちですね」

 聞いた夏野が感想を言うと月夜は乾いた笑いで肯定していた。

 海が持ってきた懐中電灯で洞窟の中を照らすと、先に突き当たりの岩が現れる。粗く削られたむき出しの岩の表面がゴツゴツと飛び出ていて白と黒の陰影をつけていた。

 部員たちはキャッキャッと穴へと入っていき、全員が隠れる頃には再び入り口に戻って来た。

「短けーーよ! 入った意味がわからねぇよ!?」

 たまらず冬草が叫んだ。


 目的を果たした部員たちは、テントに戻って来た。

 たいした冒険もしていないので全員元気だ。というよりも、食後の散歩を楽しんだ形だ。

 それから先生や部員たちは川遊びや談笑して時を過ごした。やはり自然に囲まれた外では気分が違う。どことなく解放的な雰囲気が漂っていた。

 陽が沈み空が(あかね)色に染まる頃、大型4WDのオフロード車が月夜たちのテントへ近づいて来る。

 プップーー

 クラクションの音に気がついた月夜たちが何事かと顔を向けた。

 テントのそばで車が止まり、ドアが開くと月夜の母が現れる。

「月夜! 忘れ物だよ!」

「お母さま!?」

 驚く月夜にかまわず車の後ろに回り、荷室のドアを開ける。

「海! 最中ちゃん! ちょっと来て!」

 呼ばれた二人は目を合わせて不思議に思いながら向かうと荷物を渡された。

「これは夕食の材料。月夜が忘れてたから持ってきたの。あと、寝袋もいくつか持ってきたから」

「あっ!? そういえば!?」

 聞いた月夜が声を上げる。記憶に蘇るのは準備して冷蔵庫に入れっぱなしの材料たち。

 部員たちもようやく気がつく。そう、昼のバーベキューで持ってきた材料を全て使っていたのを。

 なんだか面倒になってきた冬草は、車に乗せてもらって帰りたいと思った。


 結局、月夜の母も夕食作りに加わり、切り分けた野菜や肉を鍋に入れて炒め始めた。

 そして水を入れて煮込み、カレーのルーを入れる。ご飯は保温容器に入っており、ほっかほかを提供された。

 もはやこれは半分出前なのでは? 冬草のツッコミが喉から出かかる。

 しかし、部員や先生たちは出来上がるのを楽しそうに待っていた。

 その後できあがったカレーを月夜の母も皆に交じってちゃっかり食べて、後片付けをする。

 月夜の母は必要ない物を車に入れるとそのまま自宅へと帰っていった。

 お腹が満たされた部員たちは、日が沈み(あかね)色の空の下でくつろぎ始めた。

 やっと待ち望んでいた(とき)が来た夏野は、はやる気持ちを落ち着かせるために深く深呼吸を繰り返す。

 それを見ていた月夜は、空君は自然が好きなんだなと誤解いしていた。


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