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103話 将来の夢

 冬草 雪(ふゆくさゆき)はいつものように秋風 紅葉(あきかぜもみじ)の部屋でゲームをしていた。

 今日はシューティングゲームで協力プレイをしている。

 なんとか中盤まで進んだところで待ち伏せしていた敵に撃ち込まれて、二人とも倒されてしまった。

「おわぁ! ムズイ!」

「なかなか良かったよ。もうちょっとだったね」

 コントローラーを握ったままひっくり返った冬草。隣にいた秋風が冬草の太ももを叩いて笑う。

 対戦だとほぼ秋風が完勝してしまうため、最近はもっぱらガンシューティングなどで協力プレイをしていた。

 ゲームで熱くなった頭を癒すように秋風がスイーツを持ってくる。

 今日はモンブランだ。

 冬草は美味しそうにモグモグ食べ、その唇をうっとり見つめる秋風。

 食べ終え、紅茶で喉を潤した二人は一息つく。


 すると秋風がガバッと冬草を突然襲って押し倒す。

「ん……」

 深い口づけに冬草の声が漏れる。

 二人はゲームをしてお菓子を食べた後にキスをするという流れがパターン化していた。

 たいがいは気持ち良すぎで冬草が気を失って終了になる。

 しかし、大阪旅行あたりから秋風の積極性が輪をかけて凄くなっている。

 大阪のときもラブホテルへ無理矢理入ろうとして失敗したが、公園で冬草の首筋に吸い付きキスマークをつけていた。

 それからというもの、秋風が求める要求が高くなっているのを冬草は疑問に思っていた。

 決して嫌なわけではないが、冬草には刺激が強すぎる。

 今日も冬草が気が遠くなる手前で口を離すと首筋にキスをしてくる。

「ん…あ、ま、まて……」

 秋風の唇が触れた部分が熱く、感じて冬草が声を出す。

 なんとか止めさせたいが体がいうことを聞かない。秋風の鼻息が素肌をくすぐり、それが身を焦がす。

 やばい…このままだと非常にマズい。

 耳にかぶりつかれて冬草は甘い声を上げた。

 気がつくと上着のボタンに手をかけ、ひとつづつ外している。

 このままじゃダメだ! なんとか理性を呼び起こさせようと、冬草は荒れていた中学時代を思い出す。

 はだけた上着から、(あら)わになった肩に秋風がキスを降らす。

「んん……」

 痺れるような快感に身をよじりながら、冬草はなんとか両手で秋風の両肩をつかむ。

 頑張れあたし! 喧嘩には慣れてるけど、こんな気持ち良すぎなのに負けるな!

 快感に溺れそうな自分を叱咤しつつ両手に力を込めると、気合を入れて秋風を引きはがす。

「うぉおおおおりゃああああああ!!!」

「あんっ!?」

 無理矢理体を起こすと秋風が甘い声で抗議する。

 ハア、ハア、ハアと荒く息をついて冬草はなんとか秋風の誘惑から脱出することに成功した。


 なんで途中で止めたのと、目が怒っている秋風。

 冬草はそんな彼女を真っ直ぐに見つめた。

「どうしたんだよ? 最近少し変だぞ?」

「変じゃないし。そうね、確かに少し焦ってたみたい」

 どうやら続きをする雰囲気ではないので、ガッカリしたように秋風が答える。

「何かあったのか? 一人で抱え込まないで、あたいにも話してくれよ」

「……自分だって抱え込むくせに」

「むぐぐ」

 ムスッと秋風に返され、図星な冬草。

 慌てた冬草が取り繕うように続けた。

「だ、だけど、ちゃんと紅葉には言うようにしてるだろ? か、彼女なんだし」

「そうね。最初の頃と比べると話してくれてるね」

「だろ?」

 秋風が認めると、ぱあっと明るい顔になる冬草。その顔に萌えた秋風は手を出しそうになるのをこらえる。

 どうやら心配してくれてるようだし、変に勘ぐりされて違う解釈をされても困るので秋風は話すことに決めた。


 ふうと息を吐き出し冬草を見据える。

「雪、学校を卒業したらどうするの?」

「えっ!? えっと、就職かな? 親に負担かけたくないし……」

 気まずそうに答える冬草に秋風が微笑む。

「でしょ。それで考えたの。私、母さんの店を継ごうって。そしたら、雪と一緒にできるし、ママさんも働きに来てくれれば一石二鳥でしょ?」

「いや、大学はどうするんだよ?」

「大学卒業してからの方がいいかなと少し考えたことはあるけど、あまり学歴関係ないし。それよりも職歴と腕が重要だと思うから。今でも母さんの手伝いをしているから、そこそこ出来るけど、それじゃダメ。もっと上を目指していきたいの。それで、卒業したらフランスで修行するつもり」

「ふ、フランス……!?」

 聞いた冬草がポカンと間抜けな顔になる。どうやら現実離れした話しについていけなくなったようだ。

 だが、ようやく理解した冬草がポロポロと涙を流し始めた。

「イヤだ!! せっかく、せっかく一緒にいるのに!」

 言いながら秋風の胸に抱きつく冬草。

 初めて自分のことを好きと言ってくれた人。少々過激だが、いつも愛情を注いでくれる人。甘えてもちゃんと応えてくれる人──

 自分をしっかり持ってて意志の強い、そんな秋風が冬草は手放せなくなっていた。

 泣いている冬草の頭を優しくなでながら、秋風が話す。

「ちゃんと聞いて。別にフランスに移り住むわけじゃないの。二年したら帰ってくるし、それに毎日連絡するから。わかる?」

 (うなず)きながら泣き続ける冬草。秋風は愛おしそうに冬草の頭を抱きしめると耳元で(ささや)く。

「だから日本を離れる前に私を雪に残したい。そして雪に私を刻みたい…。わかった?」

「……うん」

「それにね、私がいない間に浮気したら殺すから。相手を」

「は?」

 驚いた冬草が顔を上げると秋風がニコリとする。顔はにこやかだが目がちっとも笑っていない。

「浮気は許さないから」

「し、しないよ! だいたい、あたいには紅葉しかいないのに!」

 すっかり涙が引いた冬草。急に秋風が恐ろしくなる。

 なんだか今日は気分が上がったり、下がったりで混乱する。一度、頭の中を整理するために帰りたい…冬草はそう思った。

 冬草が固まっていると秋風がそっと指で涙を払い、短くキスをする。

「さっきの続き、しよ?」

「そんな気分じゃねーし! もうちょっと雰囲気とかあんだろ!?」

 文句を言う冬草を無視して秋風が無理矢理押し倒した。


 □


 自身のスイーツ店が入っている施設の改装のため、早く帰れることになった秋風の母は自宅へ向かっていた。

 もう一店舗の方もバイトが上手く回しているから見に行かなくてもよさそうだ。後で連絡して確認はするけれど。

 雪ちゃんは家に来てるのかしら?

 恋人ができてから、娘も変わってきた。

 以前から手伝ってくれているスイーツ作りも、最近は本気で学ぼうと積極的になっている。

 きっと目標ができたからね……昔からそつなくなんでもこなすが、なにか迷っているように見えていた。けれども雪ちゃんと付き合ってから将来を考えたようだ。

 秋風の母は娘からパティシエになりたいと告げられ、フランスで修行したいと希望を出された。

 前から跡を継いで欲しいと考えていた秋風の母。この話しは正に渡りに船だった。

 自分の作った店で娘の紅葉と雪ちゃんが肩を並べている風景を思い浮かべ、秋風の母は楽しそうにクスクスと笑う。

 玄関に入ると、ゴツイ黒一色のジャングルブーツが一足揃えてあった。きっと雪ちゃんね…秋風の母は微笑んだ。


 お茶菓子を持って娘の部屋へ近づくと音が聞こえてきた。

 ドスン、バタン、ゴトン。何かが組み合って争っているかのような響き。

 泥棒!?

 驚き慌てた秋風の母は、娘の部屋のドアを勢いよく開けた!


「嫌だって! そんな気分じゃないって言ってんだろ!」

「大丈夫。勢いって大切だと思う」

「大丈夫じゃねーーよ!」

 上着がはだけてブラが露わになっている冬草が秋風と両手を組み合わせ争っていた。

 どうやら自分の娘が冬草を襲っているようだった。

 ドサッ!

 あんまりな光景に手に持っていたお菓子を落とした秋風の母。

 音に驚いた二人が手を止め、顔を向けた。

「か、母さん!?」

「おわぁあ……」

 声を上げビックリする秋風に慌てて服で胸を隠す冬草。

 眉間に皺を寄せた秋風の母が冷たい目で娘を見下ろす。

「紅葉。ちょっと来なさい」

「はい……」

 母に呼ばれて暗い表情で立ち上がった秋風。そのまま二人は廊下に出ると母の説教が始まった。

 時々漏れ出る声を聞きながら冬草は、今日はないなと服を直しながらホッと胸をなで下ろす。

 しかし、よく聞くとムードを大切にしろだの、互いの気持ちをもっと盛り上げろだのと教えている。説教じゃなくて、恋愛指南だった。

 突っ込みたい気持ちをこらえつつ、親子だなとしみじみ冬草は思った。


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