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102話 顔見せに来たよ!

 駅近くにある喫茶店。そこは葵 月夜(あおいつきよ)がバイトで通う場所。

 主に土日はフルタイムで働いており、ちょっとした看板娘になっていた。

 学校を卒業してバイトを辞め、工場で働く(あかね)は、伯母のやっているこの喫茶店に久しぶりに訪れていた。

「ちぃーーーーす」

「お、茜先輩! どうしたんですか?」

 茜の挨拶にトレーを持った月夜が笑顔になる。

「ひさしぶりぃ~~。遊びにきたよん!」

 ダブルピースで笑いながら月夜の元に来る茜。すっかり社会人らしくなり、フォーマルなお姉さん的な格好だ。髪も大人しめの茶髪になっていた。

 二人は厨房に入り、茜が叔母さんに挨拶すると話し出す。

 工場に就職したといっても、まだ研修期間のようで本格的に働き始めるのは先のようだ。

 ここ深原(ふかばら)市には大規模なハイテク関連工場がいくつか建っていて、地元の雇用を担っている。

 そんな工場で働く茜はギャルを卒業してアゲアゲお姉さんにチェンジしていた。


 葵は新部員に妹が入ったことや、元生徒会長の秋風 紅葉(あきかぜもみじ)が部員の冬草 雪(ふゆくさゆき)目当てで入部したことを話し、茜は工場での事を話した。

「ふぅ~~ん、なんか賑やかで楽しそ~~。あたしなんてぇ、入社早々合コンばかりだよぉ~。やになるよねぇ~」

「先輩口調かわりました?」

「あ~~、わかるぅ~? あれよねぇ、TOP(てぃーおーぴー)に合わせるってやつ。今はステキなお姉さん目指してるんだぁ」

 なんとも甘い口調で話す茜。今までのギャルとは一体何だったのか? 茜の変わり身の早さに葵は感心していた。

 それに“TOP”ではなく“TPO”だ。どこのトップに合わせるのだろうか。外見はともかく、中身は以前と変わっていない茜に月夜は安心していた。

「そういえばぁ、空ちんはどうしたのぉ~?」

「ん? それなら──」

 茜の質問に答えようとした月夜は言葉の途中で割り込まれた。

「月夜先輩~~! オーダーが…ゲッ!? 茜先輩!!」

「あ!? 空ち~ん! 会いたかったよぉ!」

 トレーを持った夏野 空(なつのそら)の登場に茜は喜び、喫茶店の制服を着ている様子に疑問に思う。

「あれっ? その服?」

 驚いている夏野に代わって月夜が答える。

「うむ。茜先輩が就職してバイトを辞めたから、新しい人を募集していたんだよ。たまたま空君に話したらやる気満々だったんで」

「そんなことよりオーダーです! 早く!」

「う、うむ! わかった」

 話しの途中で夏野がさえぎり月夜にオーダー用紙を渡すと厨房の奥へと押し出した。

 慌てる月夜を送り出した夏野は一息つくと茜を見た。


 卒業式以来の再会にすっかり変わった茜を夏野は驚いていた。

 元々容姿が整っていたこともあり、外見だけを見れば甘えんぼ系ステキお姉さんだ。

 逆に夏野を上から下までジロジロ観察した茜が微笑む。

「ちょー似合うよ空ちん! かっわいい~~!」

「茜先輩に言われても嬉しくないです」

 むすっとする夏野。そんなことは気にしていない茜。これでも社会人としてもまれてきたのだ。

「お姉さん、空ちんをお持ち帰りしちゃいたいっ!」

「は? お弁当じゃないんですから、やめてください」

 迷惑そうな夏野を見て茜は笑う。夏野が勘違いしているからだ。

 寄り添って“お持ち帰り”の意味を(ささや)く。

 すると、みるみる夏野の顔が赤くなる。

「えっ!? なんですかそれ!? 嫌です!!」

 逃げるように後ろに数歩下がった夏野に茜がうししと笑う。

「冗談だよぉ~。ホントはしたいけど無理そうだしぃ。その気があるならするけど~?」

「やる気満々ですよね!?」

 突っ込む夏野に茜がますます笑った。

 そこにオーダーの料理を持ってきた月夜が声をかける。

「楽しそうな所をすまない。空君、これをお願いするよ」

「あ、はい!」

 すかさず夏野が月夜から料理をひったくるように奪うと客席へと逃げるように向かう。

 邪魔が入って、ちぇ~っと茜は残念がった。


 しばらく月夜と雑談した茜は客席へと向かい、空いているテーブルのイスに腰を降ろした。

 店内を見渡すと夏野が他のテーブルで接客している。

 元々ハッキリして明るい性格のためか、笑顔で対応している。すっかり、この喫茶店に馴染んでいるようだ。

 ふと去年の文化祭の事を思い出した茜。

 あのときはメイドをしていたけど、本当に喫茶店のウエイトレスになるとは思っても無かった。

 注文を受けたようで厨房の方へ歩いていく。

 すかさず手を上げた茜が声をかける。

「すいませ~~ん?」

「はい! って!?」

 笑顔で振り返った夏野が茜を見て驚く。てっきり厨房にいたと思っていたからだ。

 慌ててやってくると声を落として聞いてきた。

「なんでここにいるんですか?」

「え? だってお客だしぃ~。注文いいぃ?」

「……どうぞ」

 ぶ然としてペンとメモを用意する夏野。

 ニコッとした茜が夏野の目をじっと見る。

「まずは空ちんの愛が欲しいなぁ。あと笑顔~」

「ふざけんな。ちゃんと注文しろ!」

「ひぇっ!? こ、ココアくださぁい~」

 夏野の豹変にビビる茜。睨まれて普通に注文してしまう。

 ニコリと(うなず)くと夏野はさっさと厨房へ行ってしまった。

 あ~怖。マジな眼力に茜は冷や汗をぬぐう。わかっていたけど夏野は月夜に一途なのだ。

 だからこそ、一緒にいたくてこの喫茶店でバイトを始めたのだろう。

 ワンチャンあるかと思ったけど、あれだけ拒否られると難しい。

 せめて友達からいきたいなぁ。茜は夏野の背中を見ながら思った。


 厨房でオーダーを渡した夏野が茜の叔母さんと料理している月夜に近づく。

「月夜先輩。いつから茜先輩はいたんですか?」

「んん? さっきかな。空君もずいぶんと茜先輩と仲良くなったね」

「違います! 勘違いしないでください!」

「ははは。照れ隠しだね」

 訂正する夏野に笑う月夜。

 オーダーした料理や飲み物を用意すると夏野に渡す。

「よろしくね、空君」

「もう…はい」

 ニコリと受け取ると夏野が客席に向かう。

 奥で見ていた茜の叔母さんが微笑できた。

「ずいぶん慣れたようだね。結構評判いいよ夏野さんは」

「そうでしょうとも。なんていったって地底探検部の部長ですからね」

 誇らしげに言う月夜に叔母さんは笑う。

「あんたも大概だねー」

「意味がわからないですよマスター」

「はぁ…相手がこれだと姪っ子も大変だねぇ」

 苦笑した叔母さんは奥へと引っ込む。

 何故だと月夜は首をかしげ叔母さんを見ていた。

 ちなみに、飲み物を出しに行った夏野は再び茜に絡まれていた。


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