101話 女子会?
放課後の地底探検部。
部室に集まった部員たちと顧問の岡山みどり先生。
長机の中央でイスから立った新部長の夏野 空が皆を見回して宣言した。
「いろいろ提案があるかもしれませんが、今日は女子会をしたいと思いますっ!」
聞いた一同は固まった。それもそのはず部活動とはまるで関係ないからだ。
冬草 雪がツッコミを我慢して喉を鳴らす音を聞きながら、葵 月夜が手を上げる。
夏野はビシッと指をさす。
「はい! 月夜先輩!」
「うむ。あまり言いたくないが、空君。この部には男子はいないのだよ。つまり……」
「つまり?」
ぽかんと夏野が聞き返す。
「つまり、年がら年中女子会をしていることになるんだよ! 我が部は!!! もはや日常茶飯事といいっていいだろう!」
「ええーーーーーっ!!」
驚いて身をよろける夏野。た、確かにそういえば女子しかいなかったと、今さらながら再確認していた。
冬草がまたもツッコミを我慢して喉を鳴らす。
そんな冬草をうっとり見ているのは秋風 紅葉。身を寄せて冬草の隣にピタリとくっついている。
葵の妹、葵 海は倉井 最中とスマホの画面を二人して見て、クスクスと楽しんでいる。
なんとか立ち直った夏野は机を両手で叩いた。
「き、今日は違うんです! そうだ! 恋バナです! 恋バナしましょう!」
「恋バナ?」
首をかしげた月夜。思い当たる節が全くない。しいて言うと……ふと、みどり先生に目を向ける。
部員たちの視線を受けたみどり先生がお菓子の袋に伸びていた手を止める。
「な、なに?」
「そうだ! みどり先生と紫先生って、どこで出会ったんですか?」
なぜか代表で夏野が聞き始める。
顔を赤くしたみどり先生がブツブツと、それは…大学の……せ、先輩、後輩で…サークルが──などゴニョゴニョと恥ずかしそうに語り出す。
よく聞こえない部員たちは顔をしかめた。聞かせたいけど言いたくないような感じのみどり先生。面倒になった夏野は秋風に振った。
「秋風先輩はどうなんですか? いきなり雪先輩と付き合ってたんですけど」
「ん、私? 聞きたいの? いいわ」
指名された秋風はおもむろに冬草の口を隠していたマスクをずらして、その唇に優しく触れる。冬草は真っ赤になって固まった。
「見て、このスッとして艶やか。とても美しい唇でしょ? 十億人に一人の逸材よ。それに切れ長の目、そして綺麗な鼻筋。頬もスッキリしてて、顎のラインも極上でしょ。普段は素敵な髪に隠れてるけど、ほら! かわいい耳。思わずしゃぶりたくなるでしょ? それから首筋の角度も最高! 頭の形も理想的なんだから。それに──」
冬草の顔を持って動かしながら秋風が、どの部位が美しいかを説明していく。あまりの堂々な態度に誰も何も言えなかった。
しかし、夏野は思った。それって、秋風先輩が雪先輩の好きな部分で、馴れ初めじゃないよね? と。
十分ほどして言い足りないながらも熱く語り終えた秋風に、部員たちがパチパチと拍手を送る。冬草に対する知識が無駄に増えた。
そして、真っ赤な冬草は恥ずかしすぎて涙目になっていた。
満足した秋風はお返しとばかりに夏野に質問する。
「そういう夏野さんはどうなの? 意中の相手はいるの?」
「えっつ!? えっと、えっと。あわわわわ……」
予想外の事で慌てた夏野がモゴモゴと頬を染め始めた。口に手を当てた秋風はむふふと笑った。当事者以外は皆知っているからだ。
はわわと取り繕っている夏野に月夜が助け船を出す。
「空君、大丈夫だよ。ここの皆は優しいから、誰が相手でもからかったりしないよ」
「……」
すると凄い目つきで夏野に睨まれる。
「ひっ!」
短い叫びを上げた月夜が、いまだブツブツ言っているみどり先生の背に隠れる。といっても身長があるから、体がはみ出している。
夏野の睨みは、お前だよ! お前が好きなんだよ! と目で訴えかけていたものだ。月夜には全く通じていないようだが。
その様子に秋風は吹き出して爆笑していた。
ひょこっとみどり先生の背中から顔を出した月夜が怖々と夏野に話しかける。
「お、落ち着いてくれ空君。普段はかわいいのに目力がありすぎだよ。え、笑顔でいこうよ?」
すると怖い顔で夏野が迫ってきた。
「…もう一回言ってください!」
「な、なにを?」
「普段は、に続く辺りです!」
「え? ああ、空君がかわいいって事か?」
「ひゃあああーーーーー!」
両手を赤くなった頬に当てて夏野が照れる。機嫌が良くなったようで照れながら、なよなよし始めた。
ここで冬草も吹き出す。秋風と冬草は顔に手を当てて笑いを誤魔化していた。
とりあえず危機を回避した月夜はホッと額の汗をぬぐった。
すると次に意地悪そうな顔で秋風が倉井に目を向けた。
「それじゃあ、倉井さんは?」
「はひっ! ふぇええ!?」
顔を赤くした倉井がおずおずと海を見る。
ハッと気がついた海が席を立った!
「誰!? 誰なの!? ちょっと最中! 誰よ!? この中にいるの!?」
「ふゎああ~」
急な海の剣幕に混乱する倉井。海は眉を寄せて部員たちを睨みつけた。
絶対に許さない! わたし以外の人間が最中の相手になんて許さない! 海は勘違いしたまま決意を固めていた。
そこに月夜が出てきて海を抱きしめる。
「私の目の黒いうちは嫁に出さないぞ! 愛しの妹よ!」
「ぎゃぁああーー! やめてよバカ姉貴! 離して!」
「どこの誰とも知らない馬の骨に、かわいい妹をやるわけにはいかない!!!」
「違うでしょ! 最中のことなんだから! お姉ちゃんは関係ないでしょ!」
なぜか必死の月夜に嫌がる海。葵家の姉妹がギャーギャー騒ぎ出す。
あわわと倉井は二人を止め始めた。しかし、何とも鈍い二人にやっぱり姉妹なんだなと可笑しくなってしまう。
みどり先生はまだブツブツと頬を染めて馴れ初めを語り続け、夏野は嬉しい言葉で有頂天になり、くにゃくにゃしている。
月夜と海が言い合い、倉井が仲裁している光景に秋風は笑った。しかし、部室内はカオス。
ここで初めて冬草が口を開いた。
「お前ら部活する気ねえだろ?」