10話 勉強しよう!
放課後の部室。
夏野 空と倉井 最中が先に来ていて話していた。
「えー! 月夜部長の家に泊まったの! ずるーーいーー!」
「たまたま、偶然なんで……」
「一緒にお風呂に入って、一緒にご飯食べて、一緒にふとんで寝たんでしょ! いいなぁ~~~~~~!」
「その言い方だと変に思われるから…」
「でも、そうじゃん! わ~ん、わたしも傘忘れよ!」
先日、倉井が葵 月夜の家にお泊まりしたのを夏野が羨ましがっていた。
今日は最初から来ていた顧問の岡山みどりはキャピキャピしている2人を見て、女子高生だわと思いながらお菓子を口に運んでいた。
そこに葵が部室に入ってきた。
「すまない! 委員会が思ったよりも長引いて…って、なんで空君はわたしを睨んでいるんだい?」
「自分の胸に聞いてください」
「?」
夏野の嫌みに葵は素直に胸へと視線を落とした。
「違いますから! もういいです!」
長机をバン! と叩いた夏野が突っ込む。みどり先生は笑って見ていた。
3人揃ったところで部活動を開始した。
先日、大阪梅田地下街をタブレットで見て、この地域にも地下街がないか探そうと決めていた。
「これを見てください月夜部長。わたし発見したんですけど……」
夏野がカバンから紙を取り出そうとすると、つられて幾つかの紙がパラパラと床に落ちた。
「おっと、大丈夫か……い?」
思わず1枚を拾った葵が紙面を見て固まった。それはテスト用紙のようで、右上に42点の赤い文字が躍っていた。
「……空君」
「はい、なんですか? その紙を返してもらえませんか?」
夏野が手を伸ばすが、葵はテスト用紙を握ったまま微動だにしない。
あれ? 思ったより月夜先輩が深刻な顔をしていることに夏野は気がついた。
「空君。そういえば中間テストだったね。他の答案はどこかな?」
「えっ!? 今、必要ですか?」
「充分必要だよ。さ、早く出してくれ! ついでに最中君も!」
いつもと違った雰囲気にのまれ、しぶしぶ夏野は残りのテスト用紙を出した。倉井もカバンから取り出し葵に渡す。
2人の答案を一通り見た葵はため息をつく。
「最中君の平均60点付近なのは地底生活もあるだろうからわかる。だが、空君! どれも赤点ギリギリじゃないか!」
「えっ。いいと思いますけど…」
夏野はとまどう。だんだんよくない方向に行きそうなのに感づいた。
「駄目だよ空君。今度の小テストまでは部活動は中止して勉強するよ! このままだと君たちの進学にも関わるし、今のうちにやったほうが後々楽だよ!」
「「ええぇーーー!」」
夏野と倉井はいっせいに叫んだ!
「ちょ! そんなこと言いますけど月夜部長はどうなんですか!?」
なんとか勉強を回避するため、夏野は問う。
すると見ていたみどり先生が笑いながら教えてくれた。
「あなたたち知らないの? 葵さんは学年トップなのよ。全国模試でも5本指に入るぐらいだから優秀よね」
「うそ~~~~~~!」
夏野は口をあんぐりと開いて葵を見る。彼女は自慢するどころか照れて窓の外を眺めていた。
観念したのか倉井はイスに座り、教科書を机の上に出してノートを開く。
楽しい部活の時間が…夏野はガックリと肩を落として倉井に続いた。
しかたなく勉強を教えてもらう夏野と倉井。
意外と葵の説明はわかりやすく、夏野たちがわかるまで根気よく教えてくれた。
そこで夏野は気がついてしまった。
教えてもらうときって顔が近い! いつもの部活よりも密着できる気がして楽しい!
だが、それ以上に勉強が苦痛だった。もう頭が爆発しそうだ。
1時間ほど勉強して休憩になった。葵が言うには根を詰めたところで頭に入らないそうだ。
皆でみどり先生の持ってきたお菓子をつまんで休む。
知恵熱でぐったりしている夏野と倉井に葵が声をかける。
「あと20分休憩したら続きをするから」
「えーー! まだ続けるんですか!」
驚いた夏野が体を起こした。さっき長くやっても頭に入らないっていったじゃん! との言葉を飲み込んで。
葵は優しく、そんな夏野をなだめる。
「そう言わないでくれよ空君。30分だけだからさ」
「むう。わかりました……」
夏野は答えると再びぐったりと机にもたれた。そのとき夏野は閃いた! これって良い口実じゃない!?
ガバッと起き上がった夏野が葵に詰め寄る。
「もっと教えてください! そんなわけで月夜部長のお宅で勉強会をしましょう!」
「なんだって!?」
驚いた葵が後ずさる。どうして部室じゃ駄目なのか混乱する。
「なにそれ面白そう。私も行きたい! 手伝うからいいでしょ?」
「なんで、ミドリちゃんまで!?」
それまで黙って見ていたみどり先生も参加してきて葵はわけがわからなくなる。
「あなたは知らないかもしれないけど、職員室で噂になってたのよね。それを確かめに行くわ!」
「どんな噂なんですか!?」
「まーまー。日取りは任せてっ! 顧問としてがんばっちゃう!」
キラリンと笑顔でみどり先生が宣言する。
「はぁ……お母さまには合宿って言っておくか」
あきらめた葵が妥協した。
「やった! わたしもがんばりますっ!」
両手を握って夏野が喜ぶ。
その姿をみて葵は本当に勉強する気はあるのかと疑問が渦巻いた。