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1話 地底人が現れた!

 とある地方都市。

 赤茶色に染まり始めた木々に囲まれた市立深原(ふかばら)中学校・高等学校。

 市にある唯一の中高一貫校はそれぞれの施設が隣接して建てられ、広大なグランドを共有していた。

 高等学校側の校舎横には部活用に設置された細長い長屋がある。

 軽鉄骨で造られたプレハブのため、夏は暑く、冬は寒さが身を襲う。ダイレクトに季節を体感できる小屋について不満を持つ各部は一丸となり、生徒会との激しい交渉の末、扇風機1台と毛布3枚をゲットすることに成功していた。

 そんな部室ごとに仕切られた一室へと1学年の夏野 空(なつの そら)は、茶色のカーディガンにカバンを持って短めのスカートをひらひらとなびかせながら廊下を足早に向かって行く。

 夏野は目的の部室前でピタリと足を止めた。

 “地底探検部”と手書きの小さな看板を見ながら息を整え、勢いよくドアを開ける。

「せんぱ~~~い! …あれ?」


 ガランとした8畳ほどの部室には長机と折り畳み椅子、壁側に並ぶカラーボックスラックと扇風機、両手両膝をついて打ちひしがれて肩までかかった茶髪を()らした女生徒がいた。

(あおい)先輩!? どうしたんですか!?」

 驚いた夏野が駆け寄ると女生徒がヨロヨロと立ち上がり顔にかかった髪を手で振り払う。現れたのは美麗で意志の強さを秘めていそうな女性──

「ああ、夏野君か…。見たまえ、この寂しい部室を。3年生だった部長たちが受験のために引退してしまった……」

「えっ!? ってことは?」

「そう、とうとう私たち2人だけになってしまった」

 葵は何もない部室を両手で示す。そこでハッと気がついた夏野は先輩を見る。

「ということは、先輩が部長に!?」

「そういうことだ夏野君! わたくし2年、葵 月夜(あおい つきよ)は、本日をもって自動的に部長に昇進しましたぁ!!」

「わ~~! おめでとうございま~~~す!」

 パチパチと拍手して喜ぶ夏野の両肩を葵がつかむとジッと目を見る。

「ちなみに君が副部長だからね?」

「はいっ! がんばりますっ!」

 気合を入れ、ビシッと敬礼する夏野。思わず葵も「うむ」とか言いながら返礼する。

 だが、葵は肩を落として長机にもたれかかるとため息を出す。

「はぁ~~。夏野君、無邪気に喜んでいる場合じゃないんだよ。今は君と私しかいないんだ……」

「と、いうと?」

 首を傾げる夏野。艶やかなセミロングの黒髪が揺れる。うなだれていた葵はチラリと夏野を確認して状況を理解していないと悟った。

「つまり、部員がたりないんだ。最低でもあと2人! 4人以上いないと“部”としてなりたたないんだ!」

 顔を上げて訴える葵。

 ハッと気がついた夏野は口に手を当てる。

「そんな……。部から同好会へ格下げになったら部室は没収、顧問も無し、活動資金の支給も無し! どうしたらいいんですか!? おやつ代は自腹ってことですか!? せん…部長!」

「いや、おやつは自腹でお願いします。だが、部室がなくなるのはマズい! こんなド田舎で外にほっぽり出されてもみろ! 大自然の脅威の前には女子高生の魔力も通じない……」

「せん…部長に魔力なんかあるんですか?」

「いや、違う。モノの例えだ。つまり、ゲジゲジやヘビ、イノシシにクマ。虫や(けもの)が外にはわんさかいるから危険ってことだ!」

「あー! なるほど」

「ちなみに私は虫が嫌いだ! ついでもヘビも! あと、もろもろも!」

 自分の欠点を自慢げに話す葵に夏野は「おーなるほど~」と両手を合わせ(うなず)く。


 再び立ち上がった葵は夏野に向き合う。

「そこで相談なんだが…」

「はい!」

 頼られている感がして思わずいい返事をする夏野。これはイケそうと葵は続ける。

「誰か友達にこの部に入りそうな心当たりはないか?」

 スッと目を逸らす夏野。しかし葵は素早く移動し視線を合わせる。

「……」

「……」

 無言の圧力にたまらず観念した夏野は答えた。

「と、友達はすでに他に入部してて……。あ! せん…部長はどうですか!?」

 とたん、くるりと背を向けた葵は両手を後ろに組んで下手な口笛を吹きだす。

 音程の定まらないドングリコロコロの曲を聞きながら夏野は思った。あ、聞いちゃダメなやつだ……。

 焦った夏野はこの場をどう誤魔化せばいいか思案する…が、何も思いつかなかった。

 ポツンと2人きりの部室に口笛の音だけが響き渡る──


 そこへ部室のドアが開き、落ち着いた身なりの女性が入って来た。ショートカットで端正な顔立ちに眼鏡をかけ、20代前半に見える。

「どうしたの? ずいぶん下手くそな口笛が聞こえたけど」

「ミドリ! もっとやんわりな言い方にしてもらえないか? いくら寛容とはいえ、わたしのハートがビッグバンだ」

 傷ついた表情の葵が訴えるが無視した岡山(おかやま) みどりが返す。

「呼び捨ては止めてね葵さん。せめて“先生”をつけてよ」

「わかったミドリちゃん!」

 良い笑顔で親指を立てる葵。しかめ面のみどり先生は言い返そうと部室を見て惨状に気がついた。

「ちょ! 私の電気ポットは? あ、あとミニ冷蔵庫! マグカップすらないじゃない!! どうなってるの~~!!」

 慌てたみどり先生が葵に詰め寄る。窓際に追い詰められた葵が冷や汗をかきながら言い訳を始めた。

「ち、違う! 断じてわたしではない! きっと先輩がたが引退記念に持って帰ったんだ! 今日、この部室に入った時にはすでに何もない状態だった!」

「はぁー、わかった。せっかくの(いこ)いの場だったのに。後で回収しに行きましょ」

「というか、顧問が積極的にくつろがないでください」

 みどり先生と葵が話している間、夏野は開いたままの部室ドアの外に誰かがいるのに気がついた。

 ツンツンと葵の腕をつつくと夏野は怖々と知らせる。

「部長~、誰か外にいるみたいなんですけどー」

「ん? なんだと!?」

 顔を夏野に向ける葵にハタと気がついたみどり先生がドアに向かって手招きする。

「いけない! あなたのせいですっかり忘れてた! 入って来て、紹介するから!」

 するとドアの影から葵らと同じ制服を着た小柄な女生徒が入って来た。


 彼女はおかっぱ頭に独特な雰囲気をまとって葵たちの前へ進み出ると深々とお辞儀をした。

「初めまして。倉井 最中(くらい もなか)といいます。どうぞお見知りおきを……」

「これはご丁寧に。葵月夜と申します」

「私は夏野空。空ちゃんって呼んでね! 最中ちゃん!」

 かしこまって返す葵とは対照的にフランクに接する夏野。

 ニコニコ笑顔でみどり先生は倉井の後ろから肩を抱いて2人に紹介する。

「彼女、ここに入部することになったから。あと、地底人だから仲良くしてね!」

「「は!?」」

 聞いた葵と夏野は固まり、最中はなぜか照れている。

「ち、ち、ち、ちちちて…」

 葵は倉井に向け震える指をさして言葉が出ない。代わりに夏野が聞いてくる。

「地底人ってあの(・・)地底人ですか?」

「そうよ。それが?」

 こともなげに答えるみどり先生。

 葵はガバッと倉井を捕まえると顔や体のあちこちをさわり始めた。

「ふ、普通だ…。まるで夏野君と変わらないじゃないか!」

「えっと、私たちは地上人とかわらないですよ。少し肌が白いぐらいで」

 嫌な顔をせず葵になすがままの状態で倉井が答える。

「はい! そこまでー!」

 みどり先生が葵を止めて倉井から引きはがす。葵は名残惜しそうな顔をしたが、気を取り直したのかみどり先生に向き合う。

「なぜ彼女がこの部に入るんだ? それにどうして高校に?」

「え? だってココ、地底探検部でしょ? だから地底人について詳しいでしょ。それに倉井さんは留学生的な扱いだから」

「地下からの留学生…。いや、その前に我々は地底都市を探検したいだけであって、地底人についてはからっきし知識がないぞ!」

「まあいいじゃない。友達になってあげてね。私はこれから自分の物を取り返しに行くからー」

 とりつく島もないうちにみどり先生は言うだけいって、さっさと部室を後にしてしまった。

 あの女の興味はどこにあるのかと葵は薄暗い廊下を見て思った。


 再び部室に取り残された3人。

 シン──と静まり返った中、おずおずと倉井が口を開く。

「あの~…」

「よし! 労せず部員が増えたと思えば何のことはない! 最中君が何人でも我々は歓迎するぞ!」

「あ、はい」

「よろしくね~」

 倉井の言葉をさえぎって葵が話しをまとめた。破れかぶれな感じでもある。

 そして夏野は純粋に喜んでいた。部員が増えたから。

 正直、倉井はとんでもない所に連れてこられたんじゃないかと思い始めていた。

 美人な葵先輩は何か怖いし、同級生の空ちゃんは何も考えてなさそうだ。地上人とは一体……。


不定期掲載ですが、まめに更新できればと思います(汗)

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