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メドウズ スクール ライブ  作者: 水猫
第一章 田舎編
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和解

しばらくの間、春樹は布団に潜って泣いていたが泣き疲れていつのまにかすやすやと眠ってしまった。そして気づいて起きた時にはもう夕方の3時過ぎだった


春樹は朝ごはんしか食べていなく、お腹が空いていることに気づき、台所へ向かった。そこで奥さんがにっこりと笑いながら昼食の準備をして待っていた


「春樹くん、お目覚めですか?お腹も空いたでしょう?よかったらおあがり」


春樹の目の前には、蕎麦と天ぷらが用意されていた。お昼の残りだろうか?とりあえずお腹が空いていたので春樹は嬉しそうにそれにありついた


奥さんはにっこりと笑っていて春樹に何も聞かなかった。それは春樹にとってただありがたいことであった


そんなこんなで夕方になると安藤さんが帰宅してきた。春樹はなんとなく顔を合わせづらかった。


「ああ、春樹くん、今日はすまなかったね。まあ夏樹には結構きつくいっといたから、とりあえず安心してね。あとさ、もし行きたくなかったら、明日から何日かやすんでもいいからね」


安藤さんが春樹にそう告げると、春樹はとりあえず安心した気持ちになった。何があったのかは具体的に聞こうとしないこの人に春樹は信頼と安堵を寄せていた


そうこうしているうちにあっという間に夜になった。風呂から上がり、台所を見ると奥さんが夕飯の支度をしていない。いったいなにかあったのだろうか?


「春樹くん、お風呂からあがったね。じゃあ夕飯の支度ができてるから居間へどうぞ」


そして居間にいくと、そこには豪勢な大きい桶に入った寿司が用意されていた。かなり高級そうな寿司だ。すごい。これは美味しそうだ。何か祝い事でもあったのだろうか?


「うわあ、すごいご馳走ですね。何かあったんですか?」


「いや、あのさ、今日ね、夏樹が春樹くんに迷惑かけて、それは私の監督不足というか、そういう点があってさ、だから悪いなと思って、だから遠慮なく食べてね」


安藤さんは安藤さんなりに今日のことを気にして春樹に気を使ってくれているようだ。春樹はそれが伝わってきて、なんとなく申し訳ない気持ちにもなった


「そうなんですか。ありがとうございます。はい、では遠慮なくいただきます」


大トロを頬張ると、口の中でとろけるような味がした。すごい、これは美味い。シャリも酢も一級品だ。中学二年生の春樹にとってこんなおいしい寿司を食べたのは初めてだった


「どう?美味しいかい?」


「はい、すっごく美味しいです。こんな美味しいお寿司初めて食べました。ありがとうございます」


春樹が喜んで食べてくれたので安藤さんは嬉しそうににっこりとした。そしてそのまま夕食を食べていると玄関から声がした


「こんばんは。桜田ですが」


安藤さんが玄関まで行くとそこにはあの桜田夏樹の母親らしき人物と兄の海斗ちそしてベソをかきながら一緒にいる夏樹の姿があった


「あれ?桜田さん何かご用ですか?」


「はい、あの、本日は夏樹が大変ご迷惑をかけまして。春樹くんいらっしゃいますか?」


春樹はその様子を後ろから眺めて見ていた。なんだ?家族一同集まって何かあったのか?


春樹は安藤さんによばれ、玄関まで顔を出した。一体なんだ?こんな時間に


「春樹くん、はじめまして。私は桜田夏樹と海斗の母親です。今日は夏樹が春樹くんにとても失礼なことを言ったそうで。ごめんなさい。」


「春樹くん、ごめんね。夏樹がこういう性格だって知ってたけど、俺なにも出来なかった。俺がもっと気をつけてれば」


夏樹の親と海斗が春樹に頭を下げて謝ってくる。そして次に夏樹が泣きながらこう言った


「あ、春樹、今日はごめんね。あたし、あたし、春樹ともっと話したくて仲良くなりたくて。でも無神経すぎたよね。学校にきていきなりあんなこと言われたら嫌な気持ちになったよね。」


春樹はそう言われると、別に苦手だと思っていたこの少女がなんとなく憎めないような気がした。「自業自得」前の学校なら誰もがそう言って誰も春樹を相手にしなかっただろう。けどここではこんな自分のためにわざわざ家族総出で謝りに来てくれる


泣いている夏樹を見て春樹はそのまま前に行き、にっこりと笑ってこう言った。


「別にいいよ。気にしないで。こちらこそわざわざ謝りに来てもらってごめんね。夏樹にも海斗くんにも、おばさんにも、俺が勝手で気を使わせちゃってごめんなさい。わざわざありがとう」


いつもいつも自分ばかり叱られたら怒られたり、人に謝りにいかされていた春樹にとって、わざわざ謝りに来てもらうことが何よりも嬉しかった。前の学校では味わえなかったこの感覚。自分は下の下の人間で誰にも相手にされない。いじめられていた人間から一人の人間として認められることがただただ春樹には嬉しかった


安藤さんと夏樹の母親、海斗はその場面をみて驚いていた。こちらが悪いのに逆に気を使って謝ってくれる?なんという心の広い子なんだろうと。そして夏樹は泣き止み、二人はガッチリと握手をした


「ありがと、春樹。じゃあさ、あたしとこれから仲良くしてくれる?」


「あ、うん、もちろんだよ。明日、学校でよろしくね」


春樹は照れながら夏樹の目を見れずそう答えた。女の子に手を握られるなんて物心ついたとき以来はじめてだった。


こうして春樹と夏樹は和解をし、桜田家はその場を後にして。お土産に菓子折をいただいた。


お寿司を食べ終わって、お風呂に入った後、就寝した。この時春樹はまるで天に登るかのような楽園にいる気持ちになった。人に認めてもらえた、大事にされているということだけ、ただそれだけで嬉しかった。そして明日からまた学校に行くことが楽しみで仕方なくなった。こんな感情は本当に久しぶりだった

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