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In to ダークストーリー  作者: ハゲチラシ
第1章 革命第六支部編
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第4話



ゲインズとその娘であるエリーの家で初めて目覚めてから3日が過ぎていた。

スグルはゲインズの家で家事を手伝う合間に、2人にモノの名前から、国の定めた規則(法律のようなもの)、マナーまである程度の一般知識を教えてもらっていた。

この日の夕食は水々しく青々とした野菜がボールに盛られたサラダと厚切りの牛肉の入ったシチューだった。

この世界に来て思ったのは、所々に以前いた日本に酷似、否、全く同じ名前を持った動物や食べ物、物事が多いということだ。

スグルは、この世界のどこかに、自分と同じようにこの世界に飛ばされてきた人間がいる可能性があるのであれば、一度会って話してみたいとおもってはいるが、それは決して元の世界に戻りたいがために話し合い、解決策を見出そうという気持ちからではなかった。


「…戻りたいわけないじゃないか…」


ボソっと呟く。


「んだ?なんって?どうした!食わねぇのかボウズ!うんまいぞ〜」

とゲインズがいつもの人をからかうような調子で自らのスプーンにシチューから厚切りの牛肉を一つ乗せ、スグルの目の前で遊んで見せた。

それを見てふと我に返ったスグルはまだ一口しか食べてないシチューと、自分の手に握られたままだったスプーンに視線を向けて、現状を把握する。


スグルがシチューにまだ口をつけてないのを見て、何かあったのではと気を利かせての事だろう。普段あまり喋らないエリーも


「あまりお口に合わなかったですか?それとも体調が良くないんですか?」


と、心配そうにこちらを見てくるしまつである。

いつも通りのゲインズはおいといて、エリーにここまで心配されてはこちらとしても申し訳ない気持ちになり、どうにか切り抜けなくてはと思い、


「何言ってんだよエリー!元気元気!このシチューめちゃくちゃ美味しいよね!流石エリーの作った料理は最高だよ!」


と言って皿を持ち上げ、握ったスプーンでモリモリとシチューを平らげてしまった。

途中胸のあたりで詰まってしまい、苦しそうな顔でドスドスと胸を叩く姿は滑稽でしかなかった。

それを見てエリーも栗色の綺麗な髪を少し触りながら、なら良かったといつものようにニコリと優しく笑って見せた。


「おいおい、俺の事は無視かよボウズ!悲しい!俺は悲しいぞボウズ!」


と構ってちゃんを発動するゲインズを再び無視してシチューのお代わりをエリーに頼むことにする。

この短い期間で、エリーのゲインズに対する対応、即ち、めんどくさくなったら無視、というテクニックを身につけたのだった。


「そーいえばよボウズ!もう3日も経っちまったけどよ、初めて夜以外の街を見た感想を教えてくれよ!ついつい聞きそびれちまってよ!」


ゲインズは身を乗り出してニコニコとした顔を向けて聞いてきた。

そういえば、とスグルも思い出した。

街を見て、素直に驚いたのは、異世界ものでお約束と言っても過言ではないほどの見事な中世のヨーロッパ風、とでもいうのだろうか、道幅は広く、馬車が3台ほど走れるくらいだろうか、石畳が敷き詰められ、歩いていると果物売りなどが声をかけてくる。毎晩雨なのによく育つものだと思ったが、エリーの話ではどうやら魔術具を使用しての温室栽培しているらしい。

街の人々の格好はとてもシンプルなもので、ゲインズ家でも着用している無地のファンタジー村人感溢れる服装であった。中には黒いマントを着用した者もいたが、そこは個性か、職種が関係するのだろう。

夜は薄っすらと光の灯った豆腐建築の様だった建造物達は木材の柱に石で積み上げられた壁や、レンガの壁など、とても賑やかで栄えた街という印象だった。

正に異世界ファンタジーである。

だがこの感想をそのまま伝えてしまうと、いろいろ質問が多くなりそうで怖かったため、


「凄く栄えていて、綺麗な街だと思ったよ!人も沢山いてビックリした!」


「そうか!そうだろう!なんてったってここはこの俺が愛した街だからな!なぜ愛したか?それはなぁ…」


マズイと感じたが遅かった。この感じはこれから長いやつだ、とゲインズを除いた2人は視線を合わせて呆れた顔をした。

それからゲインズがしゃべり尽くして静かになるまで1、2時間かかっただろうか。

時計は既に良い子は寝る時間になってしまっていた。


…………………………………………………………


ゲインズは既に寝てしまっており、イビキが家の中にビビいていた。食事の片付けが終わり後は寝るだけである。

自分の部屋に戻る前にエリーと少し話をした。


「なぁエリー、思ったんだけどさぁ、ゲインズは料理とか作れないんだね」


少しエリーの表情が暗くなった。


「うん。。お父さんは、お母さんの作ってくれる料理が大好きだったの。お母さんがいなくなった後、何度も練習したんだけど、上手くならなくて、でも私はお母さんとよく台所にいたから、お父さんより上手に作れるの、それで…」


今にも泣き出しそうになるエリーの様子を見て、マズいことを聞いてしまったと思い、慌ててしまい、なにかいい言葉を、とあたふたするが思いつかない。


「気にしないで、私は大丈夫だから」

と、スグルの様子に気がついたのか少し頬を伝った涙を指ですくいながら、少し笑ってみせた。


何も言えなかった、自分の無力感とエリーへの申し訳なさで胸がいっぱいになってしまった。

なんと言えばよかったのだろうか。

複雑な表情のまま、スグルは


「そっか、、ごめんね。おやすみなさいエリー、また明日ね」


と、手を振ることしかできなかった。

最低な男だと、自分を卑下した。

自らの寝室に入っていくエリーの後ろ姿が目の奥に張り付いて消えないのだった。


…………………………………………………………



深夜、最も暗くなる時間だ。

いつもはすぐに眠ってしまうのだが、先ほどのエリーの言動に思うところがあったのか、この日はなかなか寝付けずにいた。

時計。

この世界にも以前の世界と同じものにとてもよく似た、いや、全く同じと言っていい時間の概念がある。故に時計の形状も、その針の鳴らす音も似ている。

カチッカチッと時を刻むその針が最も闇の深くなる時間に刺さる。

その時だった。玄関のドアが開かれたのだった。

音で分かった。だが侵入者があったわけではない、否、内から外に誰かがでたのだ。


何があったのかと思い、部屋のドアを開けて玄関へ向かうとそこには栗色の髪の少女が涙を流してそこに崩れ落ちている姿があった。

そして、スグルの存在に気がつくと、


「もう、限界なの。スグル君。お父さんを止めてあげて!」


悲痛な叫びだった。これまでのエリーからは想像もつかない様な、痛々しく、これ以上にないほど、悲しい響きだった。

そしてスグルは、この響きに覚えがあった。

スグルの脳裏に過ぎるそれは、過去に部屋の扉の前で、いつまでも悲しみ続けた。

…悲しませ続けた、母の声だった。

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