第2話
気がつくと目の前に発光している丸い球体があった。否、仰向けに寝ているという今の自分の体勢を考慮すると、発光している球体は自分の真上にあるのだと分かる。
それは例えるならば一般家庭でよく見る形の照明に近いのだが、うっすらと揺れているところを見ると、それではないということが分かる。
呑気にベッドで横になっていた今の自分の状況と最後に聞こえた男の声の事を合わせて考えると、どうやら自分は誰かにあの恐ろしい鬼から助けられたのだということが分かり、納得した。
そうなるとここは声の主の自宅だろうか、病院のような施設がこの世界にあるのかどうかは分からないのだが、あったとしてもここにはそれらしき設備は無く、何方かと言えば暖かい家族の住まう山小屋といった風情である。
助けられたということは、何かにお礼をしなくてはならないだろう。ボロボロの衣服以外に何も持っていない自分には渡せるものなど何もないではないか。
顎に手を当てながら考えてみるが、何も出てこない。
すると、ドアを三回ノックする音が聞こえて、おそらく声の主だろうと思い「はい」と返事をする。ギィっと音がしてゆっくりと扉が内側に開くとそこには身長約190はあるだろうか、体格のガッチリとした、中年男性がピンク色のエプロンをつけて立っていた。
男はこちらが目覚めている姿を確認すると、ニカッと口を開き、なんとも嬉しそうに豪快に笑ったのだった。
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「いやぁ!やっと起きたかボウズ!」
と寝起きのスグルの背中を勢いよく叩いてくる、否威力だけで表すなら殴りつけてきているようにも思えた。
あまりの威力にゲホゲホと咳こみ、涙目になるスグルの姿を見て、やり過ぎてしまったとばかりに男は苦笑いをした。
「いやぁ!悪りぃ悪りぃ!ボウズが二日間も寝たきりだったからよぉ!やっと起きてきたもんで嬉しくってつい!な!」
と頭をボリボリ掻きながら謝罪してきた。
涙目でまだ少し咳き込みながらスグルは、今の暴力じみた歓迎を許すと、
「…あの、助けてくれてありがとうございます…。」
ボソボソとした声に男はあ?っと聞き返すように耳をこちらに傾けてきたのを見て、少し恥ずかしくなり
「ありがとうございました!」
と大きな声で怒鳴ってやった。
「ああ?そんな怒鳴らなくたって聞こえてんよ!怒られてんのか感謝されつんのかわっかんねぇよ!」
と男は意地悪く笑った。
恥ずかしくて顔が赤くなるのが分かる。
「まぁ腹減ってんだろ!飯にしようぜボウズ!」
そういえば空腹であった。その事実を認識した途端、腹がグゥ〜と鳴ってまた恥ずかしくなっりはしたが、顔に出さまいとぐっと我慢して、コクリと首を縦に振った。
そこで気がついたのだが、大柄な男の腰のあたりからなんとも可愛らしい栗色の髪の毛をした女の子がずっとオロオロとこちらを見つめていたのだ。
大声で怯えさせてしまったのかと苦笑いし、笑顔を作り手を振ってみせたが、栗色の髪の毛の女の子は男の後ろにサッと隠れてしまった。
「がはははは!怖がられてやんの!」
「うっさい!」
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どうやらこの家には現在この男、名をゲインズと
その娘である栗色の女の子ことエリーの二人暮らしらしく、ゲインズは元々兵隊をしていたらしく、今は退役しその時に出た退職金で娘と不自由なく暮らしているとのこと。お互いの自己紹介も終わりいよいよ食事にすることになった。
食卓を囲み、ミートパイを頬張りながら身の上話と自らの現役時代の武勇伝を延々と話し続けるゲインズと、それを笑顔で見つめている娘の微笑ましい家庭を見ていると、目の奥で、崩壊して行った自分の過去が蘇り、目の前の彼らに重なってしまいそうになる。
唇をぐっと噛み締め、手を強く握りしめてこれを頭から払拭する
様子のおかしいスグルの姿を見ていたのか、エリーが気を利かせてテーブルの真ん中にある大皿からミートパイを取り分けてスグルの皿の上に乗せてくれた。
目が合うと、何だか悪いなぁという感情とあまりに可愛らしいエリーの笑顔に思わずキョドッてしまう。
そんな2人のやりとりを見ていたゲインズが
「おいおい、俺の娘はやらねぇぞ?」
とチャチャを入れてきた。
その言葉にドキッとして顔を赤らめてしまった2人に、ゲラゲラと高笑いをするゲインズは気づくはずもなかった。