第17話
「僕は、この戦いが終わったらまた牢獄なんですね。」
悲しそうに俯きながらスグルはポツリと呟いた
それを聞いていた042はスグルの肩をポンと優しく叩いて
「大丈夫だよ ルグドさん、あんなんでも物分かりのいい人だからね、ちゃんと分かってくれるよ!それに君のことはボクがちゃんと証言するから」
少女は優しい笑顔でそう言い聞かせてきた
証言をすると言ってはいるものの、この施設内いや、この世界での魔族の証言などしれたものだろう、運が悪ければ同罪として裁かれてしまう可能性すらある
ちゃんと分かっているのだろうかと心配になる
「それにしても、内部に敵がいるってことですよね、一体誰が…」
「うん…ボクの予感が当たらなければいいんだけど…」
その時だった、背後の廊下の奥から微かに銃声が聞こえた
042は眉間にグッと力を入れると音のした廊下の奥を凝視する
「スグル君…君はここで待機してて。」
そう言うとすくりと立ち上がってその方向へ進み始める
「待って下さい。置いていかないで」
1人になることがとても不安だった、以前にもこんなことがあったのだろう。
もう一度自分と分け隔てなく接してくれた優しい誰かを失う、辛い思いはしたく無かったのだ
「スグル君…君の不死性は薄いんだ…戦力になるとも思えな…」
「それでも、、それでも連れていってください」
言葉が詰まった、目の前の少年の表情はそれほどまでに深刻で、悲しみに満ちていたからだ
元々気持ちの強い方では無い少女はスグルを突き離すことができなかった
”はぁ、、情けない、、”
「…いいかい、ボクが逃げろと言ったら一目散にここに戻って来ること、コレは上官命令だからね!」
スグルはコクリと頷くと立ち上がった
その時、さらに3発ほど銃声が聞こえてきた
「急ごう!このことは後でちゃんとボクからルグドさんに話しておくよ」
042がそう言うと2人は廊下の闇の中へと走っていった
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しばらく行くと足元の何かに引っかかり、スグルはコケてしまった
「ちょっと、なにしてるの、…」
「すみません、今足元に何か…」
薄暗く見にくくはあったが、それが何なのか、2人は察した
薄っすらと暗闇に浮かび上がるそれは人の形をしていた
うつ伏せの遺体の手には魔銃と刀が握られていた
「この辺りだね、さっきの銃声…」
場に緊張が走り少女は周りを警戒する
その時、スグルは斜め前に医務室と書いてあるのに気づく
「042さん、、ここってたしか特攻隊の人が…」
コクリと頷く
2人はゆっくりと歩を進め、部屋の中を覗く
ベッドはいつも通りに並べられており、広い室内だった
ただ少女の記憶と違っていたのは、その強烈な血液の臭いだった
目を凝らしていると部屋の奥の方で何かが動いたのが分かった
それはひょろひょろとした動きで立ち上がると周りを見渡す
こちらの存在に気づくとその男は言った
「久しぶりだね、042、そっちの彼は新入りさん?よろしくね」
にこりと微笑むとその男はゆっくりとこちらに近づいてきた。
足元に転がっている何かを踏みつけながら
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「これ以上近づかないで!これ…これ全部君がやったの?062」
そう言うと042はスグルを庇うようにして前に出た
062は少し驚いなような表情になると
「久しぶりに会ったのに、少し寂しいな、けど分かってくれるよきっと」
にこりと微笑むと男は一歩前に出る
それに気付くと042は背中でスグルを押しながら一歩後ろに下がる
「分からないよ、人間と共存できないかって、真剣に話し合ってたじゃないか!希望はあるって君が言ってたじゃないか!」
「もう分かったんだ、魔族と人間の共存なんて不可能だ、奴らは俺たちを家畜以下にしか見ていない、そんな一生は嫌なんだ、いっそのこと人間を滅ぼしてしまえばいいじゃないか!」
「貴方が、あの魔族をここに入れたってみとめるんですね…」
スグルは恐る恐る口にすると同時に、目の前の男が敵であることを自らの中で再度確認する
「そうだよ 、コレは革命なんだ。君も同じ魔族なら分かるはずだ、奴らに虐げられてきた苦しみを、怒りを、悲しみを!」
返す言葉が見つからない
魔族である042や、自分が人間からどのように見られているのか、ほんの1日の間ではあったが充分以上に思い知らされたからだ
まるでこの世界に来る前の自分の状況である。
”逃げてきた先でも状況は変わらないってことなのか…”
「いいかい?042、なぜ俺たちは奴らにいいように使われ続けている?おかしいじゃないか!どんなに奴らに協力しようが俺たちの立場に変化はない!それどころかどんどん'魔族'から'モノ'として認識され、命の尊厳ってものが奪われてしまう!」
男の表情にはこれまでに無かった怒りが浮かんでいた
「そんなことない!人間にもボクたちのことを理解してくれるやつがいるよ!君も知ってるはずでしょ?」
純白の少女は今にも泣き出しそうな顔でそう問いかける
「そんなのまやかしだよ。042.俺たちは傷つきすぎた」
その言葉に少女は思うところがあったのだろう、黙ってしまった
話しかけると同時に062は前に手を差し出した
「俺と来てくれ、人間のいない迫害の無い魔族の世界を作りたいんだ、仲間になってくれ」
真剣な表情だった
042はスグルの方を振り向くと、不安そうな目でこちらを伺った
スグルは思わず顔を背けてしまう
その反応を見て少女は目の前の男に向き直ると、
ゆっくりと歩みだし、その距離を縮めていった
その様子を見て、男は満足気に口角を上げた。
邪悪な笑顔だ
「君なら分かってくれると思っていたよ」
白い少女は男のてに自らの手を伸ばした
「ボクは…」
スグルはその光景を見ることができなかった、自分でも分からなかった、人が闇に落ちていくのを止める勇気がなかったのかもしれない
その時だった
ザンッという鋭い音とともに血液が部屋に飛び散った
なんの音かと驚きスグルは視線を前方の2人に戻す
「なぜだ!?」
男の声だった、震えている
それが怒りなのか、恐怖なのか分からなかった
「いいかい…こんなんでも君はボクの部下だ…闇に堕ちる部下を引き上げるのは上司の仕事だ!」
少女はその手に切り取った男の腕を握りながらそう怒鳴った
その白い身体を赤く染めながら




