第13話
広場の真ん中でドロリとした肌色の粘液のような物体を器用に啜り上げる男がいた。
それを囲むようにして兵達が各々の武器を持って身構える。
銃のような形状の魔具を構える者、西洋剣のような魔具で対抗しようとする者その数はおよそ20ほどだろうか。
1人の男、否一体の魔族にこれだけの人数が1度に対峙することはほとんどない。どれだけ戦闘慣れしていない新人兵だとしても一体の一般アラクネを討伐するときは基本4から5人いれば安全だといったところである。
この状況だけで真ん中で食事をする化け物の個としての力を認めざる終えない。
「ん?おいおい、人の食事をそんなにジロジロと見るものではないぞ」
まるで自分の周りに初めて人が居ることに気づいたかのような態度だった。
その言葉にある兵士は圧倒的な力の差があるのだと思い知らされガクガクと膝を震わせ、またある兵士は怒りを覚えて武器を強く握りなおした。
「おい蜘蛛やろう!貴様のような下賎な魔族如きが!偉そうな口を叩いてんじゃねーぞ!」
1人の兵士が口を開き罵声を飛ばす。
「そうよ!あんたら魔族風情にこれ以上好き勝手させないんだから!今すぐ殺してやる!」
ポニーテールの女兵が叫んだ。
その女兵の声に反応したのか、化け物は食事を中断してスクリと立ち上がると、女兵を指差して言った。
「んー、とっても綺麗な赤毛だねぇ、見てくれは悪くないし、肉も柔らかく溶けて食べやすそうだ。次は君ね」
ゾッと女兵の背筋が凍りつく。
膝がガクガクと震え出して止まらなくなる。
屈してはならないと頭の中で自分に訴え続けるが、意図せずして涙が出てるくる。
その反応を見てウンウンと満足気に頷くと足元の食べかけの'ソレら'をベチャベチャと踏みつけると女兵の元へと歩を進める。
目の前で味方がまた1人食われる。そんな光景を前に誰1人動こうとしない。
否、動けないのだ。
広場で対峙する全ての兵士達の足は強靭な糸で地面に貼り付けられており、剣も銃もその糸を切ることができなかった。
銃型の魔具を放てば避けられ、仲間に当たる恐れがあった。
、既に兵士の2人ほどそのようにしてこの場で肉塊に変わっていた。
10分ほど前に'王族種'が広場に現れた時80人近くいたであろう同胞たちは、そのほとんどがドロドロに溶かされ捕食されていた。
そして今、その状況は戦場から一変して一方的な食事と成り果ててしまっていた。
「君さぁ、今俺のこと殺すだのなんだのって言ったよね。」
女兵に話しかける。
震える膝に止まれ止まれと念じるが一向に効果がない。表情が絶望に染まる。
「人間ってへんな生き物だよなぁ、何で殺すだけなのかな、君達ほど、非自然的な生物は他に少ないだろう。」
化け物は続ける
「いいかい?俺は、俺たちはそこに存在しているだけなんだ、生を全うしているだけ、今日だっていい餌場を教えてもらったから空腹を鎮めるためにここに来ただけだしね。殺したら食う、当たり前の摂理だよ。それに比べて君ら人って種族はとっても非合理で意地悪だよね。殺すことを目的とするだけで食すことをしない。少し食われたくらいでギャーギャーギャーギャー言わないでよね!
食いもしないのに命だけ無駄に奪い続けるなんて、なんてなんてなんてなんて!反自然的!」
化け物はムスッとした顔でそう言い切ったかと思うと、次の瞬間にはニンマリとした笑顔になり
「抗ってもいいけど、ちゃんと食べること。いいね?」
そう言うと口元をモグモグと動かし、唇の間から針を覗かせた。
息を少し吸い込むと、ソレを吹き出そうとするその刹那
ゴウっという音がすると赤々とした炎が女兵の目の前から化け物を遠ざけた。
「あの状況で漏らさなかっただけ褒めてやる女兵よ、名前を聞いとこうか?」
七三分けの男だった、目つきの鋭いそよ男は嫌味な笑顔で女兵を見下ろす。
「い、今の発言は性的な嫌がらせとして上に報告せざるおえませんよ!」
堪えてた涙がドッと溢れてくる。
それを見て七三分けの男はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべると、すまんすまんと、全く悪びれた様子のない態度で軽く謝ってみせる
その姿を見て落ち着いたのか、女兵は言った
「被害は甚大です!お待ちしておりました!アラン看守!」
「とゆーことだクソ魔族、ルグドさんと会議に出席していて遅れちまったが、今からテメェをコンガリ焼いてやんよ!」
そう啖呵を切るとアランの右腕がメラメラと炎を灯し始めた。




