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ヤミ属性な回復担当  作者: 月菜
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天遣

気が付くと僕は、真っ白な空間にいた。右も左も、上下もない。ただただ白い場所。そこに、若い男の声。

「二宮怜、36歳。2月7日午前0時41分、死亡。死因、大量出血」

振り返ると、声の主であろう男がいた。誰だ?金髪碧眼で美形って、本当にいるんだな。穏やかに笑っている顔は、とっても爽やかでイケメンだ。

「やあ、二宮怜君。私は、君達の言うところの神だ。嘘ではないよ?君は確かに死んだ。なのに意識があることから考えて、私が本物だと理解はできるだろう?」

はぁ?何ふざけてるんだ。一瞬そう思ったが、確かにと思い直す。僕は確かに死んだ。それは間違いない。それなのに僕の意識があるということは、目の前のこの男の力なのだろう。妙に冷静な自分に密かに驚くが、表には出さずに言った。

「…その神様が、僕に何か用でも?」

さっきから頭の隅で“一つの可能性”がちらついている。まさか……ありえないよな?

「うん。君に、異世界に行ってもらう。これは決定事項だよ」

どこかで終了の鐘が鳴った。だが、ここは僕も食い下がる。

「嫌です。僕は、自殺したんですよ?ずっとずっと死にたかったんです。生きてるのが本当に辛かった。生きてて良いことなんて一つもなかった。やっと終われると思ったのに……もうこれ以上苦しみたくありません。もう、終わらせてください」

もう生きたくない。あんなところにいたくない。嫌だ。絶対に嫌だ。

「…そんな顔しないでよ。私だって、申し訳ないとは思っているんだ」

そこから、神様の話が始まった。


私は、それなりに高位の神でね。星を司っているんだ。君のいた地球でも太陰暦ってあるだろう?星は、すなわち時間だ。世界の予定調和と時間、私はこれらを支配している。だが、少し問題が起こってしまった。神はそれぞれ任された世界を管理しなければならない。地球も私の管轄だよ。しかし、ついこの間、神同士が要らぬ殺し合いをして、結果は相討ち、二人の神はどちらも死んだ。位を上げるために神同士が戦うことは別に珍しいことではないけど、今回の神二人は力は強いくせに、周りを顧みない愚か者でね。二人の管理していた世界はもちろん、その周囲の世界にも戦いの余波が及んだ。私の管理していた世界にもね。結構近かったから。そのおかげで、世界の器から魂が溢れてしまわないよう、必死なんだよ。でも、神と言えど私も万能ではない。掬うことの出来なかった魂がある。全く、心底情けないよ。


これには他の神々も参ってね。皆で話し合って、管理する世界に天遣(テンシ)を配置し、その世界を安定させることになった。神は基本天界__ここにいるけど、管理する世界に降りるとその世界は急激に発展する。神だからね。しかし、体は一つしかない。管理する世界はいくつもあるし、それでは役目を果たせないんだ。そこで、神の力を授けた人間、天遣を世界に降ろし、守護してもらう。その天遣に選ばれたのが、君だ。


天遣の条件は主に三つ。


・一度死んでいること

・異なる世界に適応することのできる素質があること

・神から力を授けられても耐えられる精神と肉体を持っていること


一見簡単なように思えるかもしれないけど、二つ目と三つ目が中々曲者なんだ。特に二つ目は、本当に個人の素質としか言いようがないからね。だいたい、十億分の一くらいの確率だ。三つ目は、七億分の一かな?そんな奇跡的な確率で選ばれたんだよ、君は。不運っていうか、幸運っていうか、微妙なところだけど。


「…僕が天遣?世界と人間のために生き返れ?……冗ッ談じゃない。なんで僕が親しくもない他人なんかの為に生きなきゃいけないんですか」

神様から話を聞いて、僕は余計に異世界に行きたくなくなった。絶対に嫌だ。そんな慈善活動、誰がするって言うんだ。

「本当に申し訳ないと思ってる。異世界に行ってもらった後のことは、何も強制しない。ただその世界で生きてくれればそれでいいんだ。もちろん、それなりに力も与える。天遣の仕事を終えた暁には、君に“死の選択権”も与えよう」

「死の選択権?」

聞き慣れない言葉を聞き返すと、神様は腹を括ったように話した。

「……人間は、本来は何度も何度も輪廻転生を繰り返す。魂が消滅することはない。けれど、苦しみ、傷つき、ぼろぼろになった魂もいる。それでも、また転生する。それが理だ。……死の選択権は、簡単に言うと輪廻の輪から外れる権利のことだ。君が異世界で死んだ後、もう一度ここに来てもらう。その時に君がまだ死にたいと思っていれば、君を輪廻転生の輪から外し、私の手で、君を殺そう。分かるかい?神に殺されるということは、つまりは魂の消滅だ。君の望んだ、本当の永遠の眠りにつける」

本当の、永遠の眠り。その言葉の響きに、僕は思わずうっとりとした。輪廻転生ということは、これを拒めば僕はまた生きなければならないのだろう。記憶を失っても、ずっと。

「いや、君の記憶は失われない。今、私が干渉したことが少しだけど君にも影響したから、転生によって記憶が消去されることはないよ」

……それはつまり、記憶を持ったまま転生し続ける?ダメだ。絶対にダメだ。それなら異世界に行って適当に生きて魂が消滅する方がずっといい。むしろそれしかない。

「……仕方ありません。異世界に行きます。その代わり、天遣の役割を終えたらすぐ、僕を殺してください」

あぁ、まだ生きなければいけないのか……憂鬱だ。本当に憂鬱だ。まあ、仕方ないことだが。

「感謝する。天遣として異世界に降りてもらい、できれば寿命を全うしてほしい。あ、年は少し若返らせるよ」


「異世界に行くにあたって、私からも色々力を授ける。君に行ってもらう世界は、地球とは全く違った剣と魔法の世界だ。ステータスって念じてみて」

ある意味予想通りというか、なんというか。まぁ、そっちの方がまだ生きやすいかな。少なくとも地球よりは。言われた通り、僕は念じた。


_ステータス_


すると、目の前に半透明の画面が出てきた。まるでSFだ。


name:

age:10

job:

HP:10000/10000

MP:10000/10000

type:闇

skill:全言語習得.鑑定.隠蔽.習得上手.解離

second names:星神ノ天遣.異世界人


「名前は好きに決めてくれ。職業も自由でいいよ。スキルは職業によって変えるといいかな」

神様が説明してくれた。まるでゲームだな……ん?解離って何だ?

「鑑定してごらん」

そう言われ、ジッと見つめて見ると頭に文が浮かんだ。


解離

特殊スキル。自分の意志で肉体から感覚、意識を切り離すことが出来る。スキルを発動している時は痛み等を感じない。


これって……僕が虐待されてた時にしてたことだ。

「それは君が元々持っていたスキルだね」

虐待されていた時、僕は自分が人形なんだと思い込むことで痛みを感じにくくするようにしていた。苦しい毎日を少しでもマシにするために考えた苦肉の策だったけど、まさかこんなスキルになっているとは。

それから僕は名前と職業、スキルを考えようとしたんだけど……

「神様、どういう世界なのか分からないから、職業とか何があるのか分かりません」

「あ、そっか。ええっと、基本的な知識を記憶として与えるね。ちょっと痛いかも……えいっ」

その瞬間、頭が割れるような激痛と共に僕の意識は途切れた。


「……あ、目が覚めた?」

うぅ……まだ頭が痛い。神様め、もっと丁寧にやってくれ。

「すまない、加減出来なかった。……どう?記憶はちゃんとあるかい?」

そう言われて意識してみると、確かに僕の身に覚えのない記憶があった。はぁ、全く強引なやり方だ。神様ってのは皆こうなのか?

「いや、僕はまだマシな方だと思うけど……他のはもっと酷いよ?あ、言い訳じゃないからね」

……まぁ、そう思っておくとしよう。


さて。名前はレイでいいけど、問題は職業とスキルか。職業から決めた方が良さそうだな。慣れない記憶を掘り起こして考える。ラノベとかでよくあるのは冒険者とかか………無理だな。戦うの嫌だ、肉体労働反対。商人?余計嫌。人脈面倒くさそうだ。貴族に仕える……論外だ。

色々考えてみたが、特に思い当たらない。そこで、生前自分が医者だったことを思い出した。人を治すというのは慈善活動のように思えるかもしれないが、全然違う。そこまで人付き合いをする必要はなく、適当な愛想笑いと確実な治療さえしていればそれなりに稼げる医者という職業は、僕にとても合っていた。せっかくだし、異世界でもそうしよう。

「医者にするの?だったら、命主(メイシュ)にならない?」

「メイシュ…?」

聞き慣れない言葉を聞き返す。そういえば知識はあるんだったな、と思い頭の中の記憶を探る。……と、確かにあった。ふむ……なるほど。病気を治すのは医者、怪我を治すのは癒し手、そのどちらかがほとんどで、両方ができる人間は珍しい。どちらも可能で、強力な聖魔法を操る人間は、命主と呼ばれ大変重宝されるらしい。

「命主なら少なくとも職に困ることはないよ。結構自由にやれるしね?」

……まぁ、別にいいけど。もうやけくそだ。どうにでもなれ。

「あぁでも……君、元の性質が思いっきり“闇”なんだよね……しかも純粋の。どうしよう?」

性質?

「属性、とでも言っておこうかな。魔法のタイプのことだよ」

ふうん……まぁ、ちょっと納得。どう考えても僕は“聖”って感じじゃない。

「…まあいいか。じゃあ、君は“闇”と“聖”の二属性持ち(ダブル)ってことで。珍しいけど、いないわけじゃないしね。……あ、でも普段は隠しておきなよ?闇は特に珍しいから」

……ん?これってもしかしてチートな感じ?…いや、もう仕方ないか。今さら言っても、意味ないし。考え直すのも面倒だ。

「分かりました」

後は……もうないな。


「そうそう、下界に降りたら従魔を召喚してみなよ。結構いいの当たるはずだよ」

従魔……あぁ、使い魔的なやつか。属性の力で左右されやすいみたいだけど……とりあえず、やってみよう。

「よし、もういいね?じゃあ__いってらっしゃい、レイ。貴方に星神の祝福を」

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