表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

よくある怪談小話

作者: たぬぽん

10年前に一家心中したと噂される廃屋に胆試しに行く主人公。特に何も起こらなかったが…?

これは夏も終わりに近づき、朝晩は厳しい暑さも和らいできた8月終わりの話。


唐突に掛かってきた電話により、友達に誘われ胆試しに出掛けることになった。

自分としてはあまり好きではないのだが、いつも押しきられて一緒に行くことになってしまう。

今回も、そうだった。



今更だが、俺は森 俊介。

電話をかけてきた友人は田崎 利明。

腐れ縁である。


その日は8月らしからぬ、妙に涼しい1日だった。



『今日は台風の影響により、日本上空に寒気が流れ込み、日本各地で9月下旬並みの気温と…』


テレビから流れてくる音声を聞きながら、ボーッと窓の外を眺める。

少し厚めの雲が覗き、その動きは早い。

雨は、降りそうにない。


今日は特に予定もなく、家でゴロゴロしていようと思っていると、ピコン♪と携帯から着信音が聞こえた。

携帯を開くと、腐れ縁の田崎からであった。

内容はいつも通り、ひま?の一言だけ。


ひま。とだけ返し、たわいもない掛け合いをする。


そして、唐突にある提案をしてきたのだった。


今夜、面白いとこいこうぜ!


またきたよ…と思いつつも、おっけー。と返事をうち、家を出るための身支度に取りかかった。



だいたい田崎が提案する面白いとこで、まともだった試しがない。

でも、何だかんだで暇潰しにはなる。

だから、迎えに来た田崎の車の助手席に乗り込んだ。





時刻は午前1時を回ったくらい。

いつも通りの時間だ。


どこから情報を仕入れているのかはわからないが、今日向かっている所は10年ほど前に、一家5人が心中したと噂されている廃屋らしい。

よくある噂ではあるが、そこは鍵もかかっておらず、普通に入れることもあり好奇心の赴くまま、廃屋探索に同意した。



午前1時半頃、目的地に着いた。

車のヘッドライトが照らす廃屋は、噂を知らずとも不気味だと思わせるような様相を呈していた。

主がいなくなったことにより、あれ放題な庭や壁。

今までも胆試しに来た人が居るのだろう。

タバコの吸い殻やジュースの缶などのゴミも見受けられる。

俺たち2人は、特に何も考えずに玄関のドアを潜ったのだった。


廃屋は一般的や平屋で、室内も荒れ果てていた。

少し迷ったのだか、あまりの荒れようだったので、土足で上がることにした。

室内は至るところに蜘蛛の巣や落書き、落ち葉にゴミが落ちている。

しかも、懐中電灯が照らす光には、室内を舞う大量の埃が確認できる。

少し咳き込みながら、屋内の寝室らしき部屋を探すことにした。



自分の耳には、軋む床板、足音、そして田崎の声のみが聞こえてくる。

閉まっていたり、半開きになっていたり。

見つけたドアはとりあえず開けて確認する。


人が住まなくなってから、大分経っているとみられる廃屋には、生活感は感じられない。

しかも、発案者である田崎すら、この廃屋の謂れは詳しく知らないときた。

不気味ではあるが、やはりそう簡単に本物の怪談には出会えるものではないようだ。

2人で廃屋の中の5部屋を全て見て回り、特に目を引くものは何も無かったので、引き上げる事にした。

その建物には、もう来ることはない筈であった。





それから幾日か経ち、廃屋に行ったことすら忘れていたのだか、妙に興奮した様子の田崎から連絡が来た。

興奮していて話が要領を得なかったが、纏めるとあの廃屋には部屋が4部屋しか無いと言うのである。


そんなはずはなかった。

確実に5部屋あることを確認しているのだから…


田崎は言った。

今晩、もう一回行くぞ。と。


田崎と合流するまでの間、インターネットで廃屋について調べる。

どの情報にも、4部屋しか存在せず、見取り図を見ても同じ4部屋だったのだ。





午前1時。

前回と同じ時間に廃屋に足を踏み入れる。

2人であった筈の5部屋目を探す。


しかし、どこを探しても部屋は4つしかない。

前来たときは、あと1部屋あった筈なのに…


時刻は、1時42分を指していた。


その時。


水の落ちる音が、聞こえた。

途切れ途切れの、不規則な水音。


体は硬直し、喉が乾いて痛む。

瞬きすらできない視線の先でゆっくりと水が広がっていた。


無音の空間の中で、耳鳴りが広がる。

耳鳴りの向こう側で聞こえる水音は、妙に粘ついていて…


無意識に伸ばした手は、壁に伸びる。



ダメだ。なぜ?

ダメだ。なにが?

ダメだ。どうして?


手が、触れた。

軽い音をたてて剥がれた壁紙の向こうから、他とは違う、古ぼけた扉が、見えた。


息が詰まる。呼吸しているのかさえ、自分ではわからない。

頭は霞がかかった様にぼやけ、何も考えられない。


ドアが、開いた。

隙間から見えた室内は妙に小綺麗で、生活感がある。


目の前の壁紙に、水がかかる。

むせかえるような、生臭さ。

ああ、これは…


呻き声と、水音。

ダメだ。どうして?

これ以上は 気になる

戻らないと もう少し



4回目の呻き声が、聞こえた。



汗が止まらない。見開いた目も、閉じられない。

生唾を飲み込んだ。


耳元で、なにかが聴こえた。

『 』

5回目の、生々しい音。

最後まで、目が逸らせなかった。



我に帰ったのは、田崎に肩を揺すられてからだった。

指先は、破れていない壁に触れている。


確かめる気は、起きなかった。




家に帰り、インターネットを開く。

恐らく帰りは、殆ど上の空だったと思う。

田崎は、あの5部屋目はおろか、水音も、壁も、何も認識していない。

4部屋しか無かったと、興奮ぎみに喋っていた。


インターネットで検索すると、古いサイトに情報があった。写真は見つけられなかったが、あの5部屋目は一家が心中した部屋だと思われた。確証はないが、確信はあった。


あの廃屋の元管理会社が、心中の事実を隠すために、部屋自体を無かったことにするために、扉を塞ぎ、部屋数を減らしたのだとか。


しかしあの時見えた光景は…


その時、ふと思った。

あの家族は、一家心中を繰り返している…?

10年間、毎日決まった時間に、殺し、殺され続けている…かもしれないと。

血が冷えていく。そんなこと、耐えられるはずがない。

そこに割り込んだ自分。

良くない。どうする。とりあえず田崎に連絡を取らなければ。


無性に眠い。

携帯が机の上に落ちる。

田崎への呼び出しが続く。


頭がキーボードに落ちたのを感じる。

視界が狭まっていく。

…気配がある。

扉の向こうにはもう…


携帯からは、応答を求める田崎の声。



パソコンの前で、俺が寝ている。

ディスプレイに照らされた俺の背後に、朧気な影が見える。


そこで自分が、自室を俯瞰していることに気が付いた。

不思議と恐怖は感じない。

影がパソコンの前の俺に纏わりついた。目が合う。


『ごめんね』『おいで』『見つけた』『助けて』


耳元で、同じ声が、聞こえた。


携帯は通話が切れ、無機質にツーツーと繰り返すだけだった。





『…との事でした。

次のニュースです。

県内OOに住む、森 俊介さん、25歳が、同県××町の廃屋にて、倒れているのが未明に発見され、搬送先の病院で死亡が確認されました。外傷はないとのことです。発見したのは廃屋に胆試しに来ていた…』



次は、あなた?

はじめまして。

最近暑いので少しでも皆さんに涼しくなって頂けたらと思います。

投稿ははじめてなので、至らない点もあるとは思いますが、生暖かく見ていただけると嬉しいですね。

また、気が向いたら投稿しようかと思います。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ