表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラの物語。  作者: 柚月 明莉
6/8

第6話

こんばんは!

今回は遂に、この物語のオチ?部分です。

何となく、予想されていた方もいらっしゃるでしょうか……?(^-^;)




「……………………」

「……………………」


見目麗しい2人が、お城の一角で向き合っていました。

王子様と、シンデレラです。


流石は王子様のお部屋なだけあって、絨毯から調度品から、全てが一流品でした。シンデレラも余裕があれば、綺麗だなぁと見入っていたことでしょう。


「……………………」

「……………………」


──嗚呼。

可哀想に、シンデレラは傍目から見ても、とても怯えていました。目はひたすら床を見つめ、顔色は蒼白で、かたかた小さく震えています。冷や汗も止めどありません。

その様子に、王子様はようやく重たい口を開けました。こちらも何かを決意したようで、真剣な面持ちです。


「……シンデレラさん」


「は! はぃっ!!」


間髪置かずの素晴らしい返事でした。がばりと顔を上げ、王子様を見ます。


「あぁ、そんなに怖がらないで。無理矢理お連れしたことはお詫びします。けれど、貴方とこうしてもう1度会えて、私はとても嬉しいんですよ」


「……王子様……」


どうしよう。

このままでは絶対にまずいに決まっています。

不本意とは言え、結局は騙しているのですから。

早く本当のことを言わなければ──。


「…………──実は……此方までお越し願ったのには、理由があるんです」


「──っ!!」


早く。

早く、言わなければ──!


ありったけの勇気を振り絞って、シンデレラは覚悟を決めました。白状してしまおうと、唇を震わせ──。




「──貴方が男性である、ということは、私も存じています」




──真っ白。

シンデレラは口を開きかけたままの格好で固まり、言葉を失いました。

王子様が何を仰ったのか理解するまでに、随分と時間を要しました。


「…………──ぇっ…………?」


呆けたように、それしか出てきません。

凍り付いたようなシンデレラを前に、王子様はくすりと微笑みます。


「ご心配なさらないでください。それについて咎める気など──」


其処まで言って、王子様は少しばかり沈黙しました。どう言うべきか、言葉を探しているようです。


「…………──いえ。咎めるだなんて、とんでもない。…………私だって、他人ひとのことを言えないのですから」


「……………………──え?」


それは一体、どういう…………?

シンデレラが不思議に思って尋ねようとした、その時。

もう1人の声が響きました。


「──それについては、俺が説明するよ」


その声は……!

唐突に聞こえたそれに、はっと驚きに目を見開きます。だってこの声は、シンデレラの知っているものなのですから。


「──ま、魔法使いさん!」


そうです。

豪奢な椅子に腰掛けている王子様の背後に現れたのは、あの漆黒の魔法使いでした。蜃気楼のように空気が揺らいだかと思えば、突然この部屋に存在を示しました。

思いがけない人物の登場に、シンデレラは仰天しています。

その様子を眺めながら、彼は気安く「よぉ」と手を挙げました。

ですが次に、もっと驚くことになります。


「…………遅いぞ、クロ」


「ごめんネ☆」


王子様が不機嫌そうな面持ちで、吐き捨てるように仰ったのです。対する魔法使いの、何とも軽いお返事。

それは、彼らが知り合いだということを如実に物語っていました。


「えっ? えっ? あ、あの、お知り合い、だったんですか……?」


おっかなびっくり、そう質問します。

この時のシンデレラは、パニック状態でした。普段であれば、王子様に軽々しく口を利くなんてことはしなかった筈です。

恐る恐る問い掛けられ、2人はそれぞれ異なったリアクションを見せました。王子様は苦々しい表情で、魔法使いは実に楽しそうに。


「知り合い……と言いますか……」


「んー……ちょっとした昔馴染みって言うか、俺の上司って感じ?」


にやにや。

そんな言葉がぴったりの魔法使いは、これからが面白いんだと言わんばかりです。

けれども、その表情はすぐに翳ることになりました。


「えっ、上司さんって、あの人使いが荒いって仰られてた……?」


「え」


「クロお前後で覚えとけよ」


あれあれ、今度は王子様の方が楽しそうです。心なし、魔法使いはちょっと顔色が悪くなりました。

どうしたのだろうと不思議そうに小首を傾げるシンデレラに、王子様はにっこり微笑みます。


「何でもありませんよ。実は貴方のことは、この莫……いえ魔法使いから聞いたのです」


「あれ今莫迦って言おうとしなかった?」


「気のせいだよ。お前も疲れてるんだな。だが私の邪魔をするな」


「ハイすみません」


目の前でぽんぽんと交わされる会話に、シンデレラは目が回りそうでした。けれど大事なことは、王子様が魔法使いから自分の本来の姿について聞いている、と仰ったことです。

そうだったのかと、頭の何処かで納得している自分が居ます。だから自分は此処に呼ばれ──。


(…………──あれ?)


いいえ。

それだけでは、話が通りません。

此処に連れて来られたのは、舞踏会で出逢った『姫』だから。

けれども王子様は、シンデレラが『姫』ではないことをご存知だと仰います。

それでは一体どうして、王子様はシンデレラを呼んだのでしょうか──?


「…………──それで、」


王子様が、仰いました。

考えに沈んでいたシンデレラは、はっと顔を上げます。すると、思いの外真剣な眼差しの王子様が視界に入りました。


「…………──貴方に、お伝えしたいことが、あるんです」




「……私は……貴方が好きです。どうか、私と結婚して頂けませんか?」




金色の目が、少し潤んでいます。

頬も赤らみ、王子様の緊張が伝わってくるかのようです。

それでも端正な面立ちの為に、とても絵になるお姿でした。


しばし見入ってしまったシンデレラでしたが、言われた内容をゆるゆると吟味して、ようやく事態の重さを理解しました。

さぁ、と顔が青褪めます。


「……お、王子様っ、けれど、私は……僕は……!」


だって、どんなに美しくても、どんなに美少女のようであっても、シンデレラは男です。

結婚はおろか、お付き合いですら、お相手が王子様という高貴な方では、困難の道でしょう。

真っ青な顔でぷるぷる震えるシンデレラに、此処でようやく魔法使いが声を掛けました。


「大丈夫だよ。あの時言ったじゃん、何も問題無いって」


初めてシンデレラの秘密が魔法使いに知られた時。

彼は確かに、そう言いました。

しかし、それは一体どういうことなのでしょうか──?

顔色が悪いまま、シンデレラは「えっ?」と目を瞬きます。下手なご令嬢よりも、余程女性らしさに溢れている行為でした。

それを見て魔法使いは一言「皮肉なもんだよねー」と呟き、それを王子様は肘打ちで黙らせました。


「ごっふ! おま、本当容赦無ぇよなぁぁ……!」


「良いから早く本題を言えよ」


この駄犬が。

その一言が言外に漏れています。

あれあれ、何だか王子様が黒いですね。

一撃が入れられた脇腹を擦り擦り、魔法使いが話を続けました。ちょっと涙目です。


「あのな、シンデレラ。何も問題無いんだよ」




「──だって此奴、女だからね」




……………………ゑ……………………?




……………………………………。

……………………。

…………王子様が、女性…………?

…………目が、点になる。

……というのは、こういうことでしょうか。

シンデレラは言葉を失ったまま、固まってしまっておりました。

口をぽかーんと開け。

水色の瞳を抱える目は、これ以上無いぐらいに見開かれています。

まるで、シンデレラの周囲だけ、時が止まってしまったようでした。

こんなある種間抜けに見える姿でも、さすがは元美少女……もとい美少年。可愛らしく思えるのですから、不思議です。


そんなシンデレラを見つめながら、王子様は、ふんわりと微笑を浮かべました。それはそれは、愛おしそうな、慈しむような、優しいものです。


「…………──大丈夫ですか? お気持ちは分かります。驚かれるのも、無理はありません」


これ以上驚かさないようにと、そぅっと掛けられた、シンデレラを案じる言葉。

王子様に優しく見守られ、シンデレラの意識がようやく動き出しました。春になってゆっくり溶けていく雪のように、徐々にですが、我に返ってゆきます。


「………………──ぁ、の……ご、ごめんなさい。失礼いたしました……」


「いいえ。こちらこそ、騙してしまって、申し訳ありません」


言いながら、ぺこりと下げられる頭。

さらりと揺れた濃紺の髪に、シンデレラはぎょっと目を剥きました。


「そ、そんな、王子様……! お止めください!」


「…………それでは、私を許してくださいますか?」


「ゆ、許すも何も……! だって僕……私達は、同じなんでしょう……!?」


「まぁ確かに」


お互いに、己を偽っていたのですから。同じと言えば同じです。

うん、そうだね。と頷く魔法使いの言葉に背を押されたのか、シンデレラは恐る恐る、続けました。


「…………きっと、王子様にも、何か理由がおありだったんでしょう……?」


男装をし続けなければならない、理由が。

同じ境遇のシンデレラには、それが痛い程に、よく分かります。この王子様こそ、本来は『お姫様』であったと言うのに。それを覆い隠すだけの理由が、きっと何かあるのでしょう。

こちらを労るように問い掛けた、その言葉。

それに王子様は一瞬息を呑み──。


「……貴方には、敵わないなぁ……」


嬉しいような、泣き出しそうな。

複雑な面持ちで、くしゃりと笑いました。


「…………えぇ。貴方の仰る通り。私がこんな振る舞いをしているのには、理由があるんです。……どうか、聞いてくださいますか?」


「えっ? わ、私が伺ってしまっても、いいのですか?」


「えぇ。貴方には是非、知って頂きたいのです。……それに、私だけが、貴方の理由を知っていると言うのも、不公平ですし」


ね?と言いたげに、小首を傾げて見せる王子様に、シンデレラは「……で、でも……」と戸惑います。果たして本当に、自分などが知ってしまっても良いのでしょうか……?

おろおろしている麗しの少年を眺めて、魔法使いが苦笑しました。


「ま、一応国家機密だけどネ。君みたいに胸見せて証明するわけにもいかねぇし、ちょっと此奴の話に耳貸してやってくんね?」


「えっ……で、でも……」


「大丈夫だよ。そもそも何か不都合があるんだったら、こうやって話さないし。でももし忘れたければ、俺が魔法で君の記憶を消して上げるからさ」


「……………………はい」


真剣な眼差しの王子様と、場の重い空気を払拭するように、明るく喋る魔法使い。

此処まで来たら、もう後戻り出来ません。

乗り掛かった船です。最後まで自分に出来ることをしようと、シンデレラも気を引き締めて頷きました。

そんな気丈な少年の姿に、2人は「ありがとう」と小さく頭を下げます。自分達の人選は間違っていなかったと、誇らしい気持ちになりました。






何と。

シンデレラ→男の子

王子様→女の子

でした!

もう少し続きます~。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ