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シンデレラの物語。  作者: 柚月 明莉
3/8

第3話

拙い話をお読みくださり、ありがとうございます!

今回も特に大きな進展が無く、すみません……。お城へ向かう馬車での話です。




がたごと、がたごと。


石畳で整備されているとは言え、それでもやはり振動は生まれます。

剥き出しの地面よりは幾分ましなそれを受けながら、1台の馬車が夜道を急いでいました。

真っ白に磨き上げられ、暗闇の中でその美しさが一際輝いて見えます。

その馬車の窓から顔を覗かせているのは、乗り物の美麗さにも見劣りしない、天使のように愛らしい美少女──もとい、シンデレラ。


「………………」


僅かに揺れる馬車を体感しながら、ぼんやりと外の景色を眺めています。

敷き詰められたクッションで、振動は全く苦になりません。それよりもこの先どうなるのかが気になって仕方がありません。


(…………どういう、つもりなんだろう……)


思い切って、ちら、と向かいに目をやりました。

馬車の中で向かい合って座っているのは、あの漆黒の魔法使いです。

急いで行くぞ、と言ったその言葉通り、彼の動きは迅速でした。

彼は家にあったカボチャを手に取ると、あっという間にそれを馬車に変えてしまいました。そう、今乗っている、この馬車です。

更に金の少年のドレスアップを完全なものにし、『少年』ではなく、『シンデレラ』に変身させました。元々の美貌も相まって、魔法使いのコーディネート──主に重点的に胸元を隠したものです──のお陰で、ぱっと見、誰も男の子だとは気付かないでしょう。ドレスも髪飾りも、珍しいガラスの靴も、シンデレラの為だけに誂えられた、サイズも美しさも、ぴったりな物でした。


「……あの……」


勇気を出して、声を掛けます。声変わりを迎えた筈のそれは、しかし決して低くなく、女性だと言っても充分に通る、透き通った響きをしています。

せめて声がもっと低ければ、彼の女装人生ももっと早くに終わりを告げていたでしょうけれど。


がたごとと響いていた単調な音に混じって聞こえたそれに、魔法使いが目を向けました。丁度今自分達を覆っている、この浄闇を思わせる色の瞳です。


「──あ、ごめん。ぼーっとしてた」


「……え、大丈夫ですか……?」


「うん、ありがと。ちょっと疲れただけだし。……俺の上司が人使い荒くてね……」


「……た、大変なんですね……」


ちょっと遠い目で彼方を見つめた彼に、シンデレラは同情しました。

先程から幾度も見せられた、奇跡のような魔法が使える彼でも、こうやって疲労を感じるのだと、何だか親近感を覚えます。


「……って、あぁ。そうじゃねぇよな、説明がまだだったもんな」


「えぇと……そう、ですね……」


「悪い悪い。ちゃんと説明するよ。あ、先に言っとくけど、決してあんたを悪いようにはしねぇから。それだけは分かって欲しい」


「それは……えぇ、分かっています。貴方からは、悪意を感じませんから……」


此処最近、その悪意にばかり晒されていたので、シンデレラにはその有無が分かるようになってしまいました。……何とも切ないばかりです。

だから大丈夫ですよと微笑んで見せたシンデレラに、魔法使いもまた内心「切ねぇ……」と思っていました。


「えぇっと、そうだな……。まず、そもそも今夜の舞踏会が何の為に開催されたか、知ってるか?」


「あ、はい。義母はは達が言っておりました。王子様の婚約者の方をお探しする為だとか」


「そうそう。でね、シンデレラにも、同じように参加して欲しいんだよ」


「えぇっ!?」


魔法使いの言葉にびっくりして、シンデレラは思わず叫びました。そんなことを言われるなんて、夢にも思っていませんでした。


「でっ……で、出来ません……! だって、僕は……」


こう見えて、男の子なのですから。

それは先程彼も、自分の目でしっかり見た筈なのに。

どうしてそんな奇想天外なことを言うのでしょうか?

驚き、目に見えてアワアワし出したシンデレラに、魔法使いはにっこり微笑んだままです。


「大丈夫だって。それはちゃんと分かってるよ」


「じゃ、じゃあ……?」


「俺はね、ある人から、シンデレラを王子と会わせるように依頼されてるんだ」


「えっ? 僕が、王子様と……?」


「そ。会うだけでいいからさぁ。何かあったら俺もフォローするし」


「で、でも、僕なんかが王子様とお会いするだなんて……」


シンデレラは少し顔を青ざめさせて、ぽつりと呟きます。それは心配でしょう、だって自分は女性ではないのですから。

下手をすれば不敬罪にもなりかねないのではと、魔法使いに首を振りました。


「大丈夫だって。その為に魔法かけたんだし。この俺が言うんだ、絶対大丈夫だよ」


「……で、でも……」


「俺の魔法は絶対に誰にも見破られない。俺の誇りにかけて、保障する。……──信じてくれねぇか?」


まるでそれは、懇願するような声音でした。

言葉を尽くして、懸命に言い募る彼に、シンデレラははっとします。

自分達は今日会ったばかりで、しかも知り合ってからまだ1時間も経っていません。

けれど、目に前の青年は、女装少年だと分かっても、決してシンデレラを侮蔑の眼差しで見ていません。

乱暴な言葉も、投げ付けていません。

ただ、苦労して来たんだなぁと同情して、飾ること無く、話し掛けてくれています。


(…………──僕に、悪いようにはしないって、言ってたし……)


彼が嘘をついているようには、とてもじゃありませんが、見えません。

シンデレラは、知らず肩に入っていた力を抜きました。ふぅ、と小さく息を吐きます。

そうして。


「…………──分かりました」


にっこりと、微笑みました。

花が咲きこぼれるような、やわらかで美しい笑顔に、思わず魔法使いも見入ってしまいます。男の子だというのを、忘れてしまいそうになりました。


「……その代わり、何かあったら、ちゃんと助けてくださいね?」


ふふ。

悪戯っぽく言って、笑うシンデレラ。

魔法使いを信じようと、覚悟を決めたようです。

それを確かに読み取って、黒の青年もくしゃりと笑いました。


「……うん。約束する。……──ありがとう」




さてさて、シンデレラはこの後一体どうなるのでしょうか?

次回はいよいよ王子様の登場です!

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