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突然の来客

突然の来客


……。

雨音が、聞こえた。




―ごめ、……っごめん………ッごめん……―




必死に何かに許しを請う、声。

雨音だ、と思ったのは其の人の泪が落ちる音…。

何故かこちらまで悲しくなってくる。



「…浅生…」


「野坂…? 泣いていたのは…野坂なの?」



その時、野坂吟の腹から、尖った刃が突き出た。ドクドク流れ出す、大量の血。

彼はその血を手で掬い上げて鈍い顔をした……。そして、ゆっくりと突き出された刃を見やり、そっと後ろを向く。

彼の後ろで1人の男性が血が付いた自分の手をペロリと不気味な笑みを浮かべながら嫌らしく舐める。

ゾクリと嫌悪感が僕にまとわりついて消えそうにない。野坂吟はその場にドスっと音を立てて倒れた。

もう、動く事はない…。



「…の、ざか…? ……野坂…?? ………ッ…野坂!! 野坂!!!!!」



床の上でまるでいつものように居眠りをしているかのようなその顔を覗き込む為、僕は彼に大急ぎで近寄った。

こんなに、あっけなく…死んだ…。

嘘だ…嘘だ……っ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…!!!!!

野坂吟は死なない…! 死ぬはずがない…!

悲しみと絶望に支配されていると、彼を刺した男がこちらへと近付いてきた。

今まで、辺りが暗いせいもありよく顔が見えなかったが今度はきちんと、その表情一つひとつが読み取れる…。



「…綺麗だろう? …この赤々とした血…」


「貴方、は…」



僕はその場に情けなくペタンと座り込んだ。

まさか、まさか…この人が───………!!!





*****





「白兎!!」

「え、ぁ…。りゅ…、き?」

「良かった…。うなされてた、どうしたかと思ったよ」


声をかけられて目が覚める。あぁ…、夢か。

そう思ったら急に安堵感が生まれた。

幼馴染である瑠樹は、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。


「ごめん…。ところで、どうやって入ったの?」


玄関の鍵はきちんと掛けたはずだ。

なのにどこから入ったんだろう…?


「おじサンに、鍵開けてもらったから」

「そーなんだ」

「ごめんな? ビックリさせて…。あ、じゃあオレ朝練あるから先に行くな! ちゃんと起きろよ!」

「はーい」


瑠樹は軽く手を振りながら駆け足で僕の部屋を出ていった。

彼が帰った後、僕はなんとか重たい体を引きずり立ち上がった。

行かなくてはいけない…。行かなくては、僕自身に勝てないから…。

先ほどの夢を忘れる為、僕は今日の放課後どうするかを頭の中で描く事にした。

とりあえず、野坂吟の家を尋ねてみよう。

追い返されるかもしれないけど、でも…明後日も明々後日もずっと、通ってみよう…。

身支度を終えて、一階に降りると香ばしいコーヒーの香りが鼻を擽った。

リビングに入ると父と母の姿があり、僕は二人に挨拶をして、自分の席に着いた。


「珍しいね。母さんが朝ごはん作るなんて…」


僕の母は、映画監督という仕事上、朝帰りなんて珍しくない。

一ヶ月帰って来ない事だってある。


「あ・た・し・の・料理に文句つけるなんて白兎も大人になったわねぇ~?」

「別に料理の文句は言ってないよ! 作るのが珍しいねって言っただけでしょー」

「同じようなもんでしょ! 今日の白兎の朝ごはん、食パンだけにするわよ!」

「えぇーー!」


これでも、大分空元気を出したつもりだけど、どうやら父にはバレているみたいだ。

先ほどから難しい顔をして黙り込んでいるから。

母は相変わらず母で楽しそうに昨日の仕事場での出来事を話してくれている。

僕も父もソレに耳を傾けていたが内心は気が気ではなかった…。(少なくとも僕は不安で仕方なかった)

食事も終わり家を出ようとしたら父に止められた。


「白兎…」

「…何? 父さん?」

「十分、気を付けて行ってきなさい」

「はい…」

「いってらっしゃい…」


パタン、と背中越しに戸の閉まる音が重々しく聞こえた。

父はきっと、僕がやろうとしている事に気付いているんだと思う。

だから、あんな顔をしていたんだろう…。

ギラギラと照り付ける太陽の中ぼんやりとそんな事を考えていた。

そうしている内に、また今朝の夢が僕の脳裏を駆け抜けた。

赤い血…、野坂吟の顔…そして、彼を刺した犯人の顔…。

夢でよかった、と安堵の溜息をつく。

そして、結びついたのはこの間の夜の事。

僕の家の前にあった赤黒い染み…。あれがまだ、謎に包まれたままだ。

あの日の事を考えているうちに学校の正門に到着した。


「なぁ、ちょっと聞きてぇ事あんだけど」


正門が、やけに騒がしい…。

一体なんだろう?

僕は学校前に出来上がっている群衆の後ろからひょこんと顔を覗かせた。


「あ、ウサ! 丁度良かった! この人、ウサに用事あるんだって」


クラスメイトの一人が僕に声を掛けてきた。

群衆で囲まれた人物はこちらへゆっくりと近付いて来る。

まず、目をひくのは金と銀の入り混じった髪色。

そして、流行りもののサングラスに両耳の派手なピアス。

顔も、綺麗で、顎もすらっとしている。

その中でキラキラて光る紅色の瞳…。

思わず吸い込まれそうだ、と見惚れていると彼が僕の真ん前に来て、足を止めた。


「あ、あの…っ」


怖くなって、きゅっと唇を噛み締めた。

その人は、じっと僕の事を見下ろしてくる。

そしてゆっくりと手が伸びてきて、僕の顎を撫でた。


「…ッ!?」

「俺、野坂零って言うんだけど…」


ボソボソと耳元で囁かれる。

その間にも顎にかけられた手はやわやわと少しずつ動いていて妙にくすぐったい。

野坂と名乗ったその人はニッと笑って僕を見た。

きっと今僕は心底驚いた顔をしているだろう。


「野坂吟とは従兄弟だ」

「!! 野坂、今どうしてるんですか!? 大丈夫なんですか!?」

「だぁいじょうぶだって。昨日だって、ギャーギャー言ってたんだぞ?」

「そっか…。良かった…」


ほっとしたら、自然に顔の筋肉が緩んでくるのを感じた。

でも、野坂吟が騒いでいた、なんて絶対に想像出来ないよ…。


「でもって、俺はあいつから頼まれ事を引き受けて此処まで来たんだけど…。

今はあいつの事は頭から外して、放課後にでも俺と遊びに行かね?」

「あの、頼まれ事って何なんですか!!!? そ、それに知らない人に着いて行っちゃいけないって…」

「“野坂”の親戚だから、知らない人じゃねぇだろ?」

「…そう……ですね…。解りました」


誘いを受けたのは、もしかしたら野坂吟に会えるかもしれない、と期待から。

それに、野坂吟の頼み事とは一体何なのだろうか…?

そして彼、零さんの事も気になったから…。


「じゃ、勉強しっかり頑張れよ」


そう言って零さんはようやく、僕の顎から手をどけてくれた…。

少しホッとした次の瞬間、僕の額に柔らかいモノが微かに当たってまた離れていった…。


「え…」


何も解らず、零さんの方に顔をやると彼の優しげな微笑みだけが僕の目に映った。


「…………」

「…ぶっあははははッッ!! やっぱイイわ、お前!」


え? え?? 良い? どうゆう意味だろう?

それに何故笑われたのかも解らず、ポカンとした顔をしていたら更に笑われた。


「解ってないところを見ると白兎、お前かなり鈍いんだな。吟の奴も、こりゃ地道なもんだなーッ」

「ど、どういう事ですか? 零さんっ」

「白兎自身で考えるのも結構楽しいだろうから教えねぇよ。じゃあな!」


また迎えに来る、と小走りで零さんは去っていった。

と、思ったら少し走った所から右手を高く振り上げて、そして僕に向かって叫んだ。


「好きだぜ! 白兎! お前の事気に入った!!」

「え…え…? …ッえぇーーーーーーー!!??」


突然の愛の告白に、しどろもどろした僕に、彼は更に声を上げて笑った。

そして、お前サイコー! とまた叫び、今度こそ去っていった。

その場に残った僕を含めた群衆はしばらくの間、皆固まっていた。

だが、それも長くは続かず、また、辺りはざわつきだした。


「ねぇ、さっき何が起こったの!!?」


側に居たクラスメイトの腕をくいくい引っ張って、僕は彼に尋ねた。

クラスメイトは、血の気の引いたような顔付きで静かに、そして冷静に答えた。


「あ、あのな、ウサ。お前さっき、零さんにキ、キスされてたんだぞ?」

「……キス…? …え!? う…っ嘘ッッ!??」

「残念ながら…本当」

「あ・そうちゃーーんv」


嗚呼…。また僕、新聞部のネタ決定かな…?

風雅先輩の声が遠くから聞こえた気がした…。

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