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憎しみと愛情

憎しみと愛情


「…白兎? 白兎っ!!」

「っ…」

どれくらい時間が過ぎたのだろう。気が付くと辺り一面が藍色で染まっていた。

たまたま通り掛った見慣れた顔を目にした瞬間、僕は我に返った。

「…瑠樹」

「どした? こんなとこ一人で…?」

部活の帰りなのだろう、いつもの白ジャージにうっすらと汗染みが出来ている。

僕は先程の事を思い出し、うなだれながら今までの出来事を瑠樹に話をした。

「野坂が…」

「帰れって言われたけど、何か怖くて逆に動けなかった」

「…とにかく、暗いし帰ろう? 送るから」

「うん…」

うなだれたまま、僕は瑠樹に背中を押され、トボトボと歩き始める。

身体は疲れていないのに心だけがダルさを覚え、しんどくて仕方がない。

瑠樹と一緒になんとか家にたどり着く事が出来たが、彼がいなければきっとあの場所を動けないままでいただろう。

「瑠樹、ごめんね…」

「話、出来るか?? 無理ならいいけど…」

「…ごめんっ」

瑠樹はにっこりと微笑んで解ったと言い帰っていった。


玄関の鍵を閉め、暗いリビングの電気を着けた。

母親は帰っている気配はない。

父親は自分の書斎に籠りっきりで休める時にしか出てこない。

いつもなら帰ってすぐに挨拶程度はして、自分の部屋へと戻るが今日はそんな気になれずそのまま、階段を登り部屋に入る。

「野坂、僕の事蒲ってくれたけど…大丈夫かなぁ……」

不安とか、心配と言った負の感情しか出てこない。


「あ!そうだ!野坂の携帯に電話…!」


そう思って携帯を手に持つ。

震える指でナンバーを押し、電話を掛ける。

しばらくのコールが続きやっと通じた。


「あ、野坂!? 僕、浅生! さっきは…」

「…浅生白兎君だね?」

ピクリと体が跳ね上がった。

野坂吟の携帯に電話したはずなのに出てきた声は笑いを含んだ低い声。

「あの、この携帯…」

「あぁ、これは彼のものだよ」

クスクスと楽しそうに笑う男の声色が電話越しから伝わる。

会ったときも感じたがこの人は何処かが…変だ。

「野坂君のお父さんですか…?」

「そうだよ。私は野坂絆。息子に何か用事かな?」

「あ、…あの野坂君、どうしてるんですか?」

「すまないが今寝たところなんだ。それより浅生君。きみのお父さんはあの、有名な…」

「…父を知っているんですか? 小説家ですよ」

何故、ここで父の話を持ち出すのだろう…?

不思議で仕方なかったが、とりあえず話を合わせる事にした。

「あぁ、有名だしね…。それに彼は学生の頃の知り合い、いや、友人なんだ」

どうして、言い直したんだろう?

それより、今時、男子高校生の携帯電話を親が管理するだろうか?

不自然で仕方がない。

もしかしたら何かあったんじゃないのか、そう思えてくる。

「そう、なんですか…あの、野坂君明日学校に来れるんでしょうか?」

「…無理かもしれないね。熱が出ているから…」

「解りました…それじゃ、失礼します」

携帯を持つ手の震えが止まらない。

まだ、心臓のバクバクが止まってくれない。

緊張しすぎてもう、何を話したかも覚えていないが、一つだけ感じたものがある。

それは………。

彼、絆さんは…優しくて綺麗な顔を持った…悪魔だ、という事。

口調から伝わってくる、あのトゲの様なもの…。

「野坂…大丈夫なのかな…」

もし、彼に何かあったとしたら…きっと、正気でいられない…。

どうして…? どうして、こんなに胸が苦しいんだろう…?

彼が友達だから、此処まで心配するのか?

…いや、そうじゃ、ない…。

友達、と考えただけで、凍るように胸が冷たくなる…。

じゃあ、この気持ちは一体何なのだろう…。

「白兎…」

コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。父の声だ。

僕は短く入っていいよ、と返事をした。

普段見ない父に表情に一瞬不安が過ぎった。

父は物静かにこちらへ向かってきて僕の隣に腰を下ろした。

いつも、父の和服はピシっと着こなしてあるが今日はどういう事か、少しシワが出来ていた。

「…電話、誰からだった?」

いつも明るい父の声が少し低く聞こえる。

こんなに真剣な顔は仕事以外では見せない人なのに…どうしたんだろう?

「僕から掛けたんだ。野坂って言う友達の携帯に…」

「…野坂…」

「ねぇ、父さん…? 野坂、絆って言う人と…知り合いなの?」

「どうして、そんな事を聞くんだい?」

「携帯に掛けたら…彼のお父さんが出て…父さんと知り合いだって」

「……知り合い…いや友達の方が正しいのかな」

「あ、それ、絆さんも同じ事言ってた!!」

父はクスリと微笑むとゆっくりと、話をしてくれた。

まるで、小さい子に言い聞かせるかのようにゆっくりと落ち着いた口調で…。

「…私と、彼は同じ高校・大学だったんだ。一番最初に話をしてきたのは彼からだった。

高2の2学期。ある事がきっかけで…」

「ある事…?」

「其の頃、私達の住む地域で放火事件が多発していてね…。其の犯人を捕まえようと何故か私達のクラスが盛り上がったんだ。

勿論、まだ、未熟だった私も…一緒になって楽しんでいた。これは…ゲームだ、なんて勘違いして。

その時に組んだのが、野坂絆だった。…まぁ、これはクジで決められたんだけどね」

放火の犯人を探すのに…クジ…?

間が抜けているというか、緊張感ゼロのこの言葉に僕はポカンと口を開いてしまった。

もしかしたら自分達も危険な目に合うかも知れないのに…。

本当にゲーム感覚だった、という事が解る。

それから父はまた話し始めた。

「ある夜の事だ。私の家に火が点けられた…」

ドキっとした。

前から父の住んでいた家が火事になったのは知っていたがその、理由までは教えてもらっていなかったから。

父は少し顔を顰めたが僕の心配する顔を見てフッと、笑いかけてくれた。

「…犯人は…野坂だった」

「…え!!?」

「夜遊びが絶えなかったんだ。其の日も、彼は何人かの仲間と一緒に夜を過ごしていた。

タバコを吸っていたんだ。…たまたま通り掛かった私の家の前に捨てた。それが家に燃え移ったんだ」

「それじゃあ、絆さんは悪気があった訳じゃ…」

「そうだね…彼は何も知らなかった。でも、近所の人が勘違いして警察を呼んだ…。

放火をした犯人が捕まったから彼は無実という形になった。…彼はきっと私を憎んだだろう」

「どうして父さんが憎まれなくちゃいけないの!?父さんは悪くないよ?」

「私が先生に野坂がタバコを吸っている事を告げ口したからね…」

「それは…絆さんが悪いじゃない…」

「あぁ。だが、彼はそんなものどうって事ない顔をして平然と私に話しかけていたけどね。

本性を表したのはそれから大分経ってからだよ」

「本性…?」

「大学に入ってから、彼の夜遊びはエスカレートした。私はそんな彼を避けるようになっていた。

そして、事件は起こったんだ…」



『おい、浅生…ちょっと、顔貸せ…』

私は従うがままに彼の後ろをついて行った。

だんだんと、人気のない場所に入り、誰も居ないと解ったら彼はピタリと足を止めた。

そして、恐ろしいほどの笑顔で私に言ってきた。

『…お前、最近俺の事避けてるよなぁ…? 何だ? あれ』

『別に。…話す機会が無いだけでしょう?』

『…まぁーだ、しらばってくれる気…? 解ってんだぜ?』

『何を…』

『お前、高校ん時の事…。まだ、根に持ってンだろ? 俺がお前ん家に火ィ点けたの』

『もう…終わった事じゃないですか…』

『何?ワザとじゃねぇとでも、思ってンの? ……目的があったからに決まってんだろ…??』

クスクスと嫌らしく笑う彼の顔を私は今でも忘れない。

友達という存在から一気に憎むべき存在へと変わった瞬間だった…。

『いいぜ…。其の顔。憎め。俺の事をもっと…』

『何なんですか!! 一体! …友達のふりをしたり、こうやって…挑発したり…』

『…クククッなぁ、こんな言葉知ってるか?…・・好きな子ほど、苛めたいって…』

『…は?』

『要するに、放火したのはお前の気を引かせる為。解る?』

『…っぼくは貴方になんて興味もありません! むしろぼくはもう結婚しているんですよ!?』

『あの女か…。じきに俺があの女からお前を奪い去ってやる。お前の大切なものを奪う事になっても』

『………』

『憎め。隆也…俺を憎み続けろ。俺もお前を自分のモノにするためなら…お前を殺してでも手に入れてやるから』



「凄い…愛の告白だね…」

「…白兎。十分気をつけなさい。あの男には」

「うん。…でも、野坂が…」

「…あの人も結婚しているのに。今更何の用事なんだ…? それはそうと…息子さんは良い人?」

「うん!!!! 凄く…とても…」

「じゃあ、白兎が助けてあげなきゃね…」

また、いつもの顔に戻った。穏やかで優しくて安心する父さんの笑顔。

その後、父さんはまた、原稿に取り掛かる為ぼくの部屋を後にした。

明日学校に行こう。

野坂吟はいないかもしれないけど、このままじゃ、僕が駄目になる…。

不安で仕方なくなる…。だから、少しでも気が晴れる場所へ…。

放課後、野坂吟の家に行ってみよう。

すげてを…真実を聞くために…!!

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