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新聞部の『号外』

新聞部の『号外』


「号外号外~!!」

僕、浅生白兎は公立の高校に通う17歳。

僕の家から学校までは、徒歩で約30分ほどだ。

昨日は訳ありでどうやって学校に行ったかは、解らない。

何故かと言うと僕のクラスメイトの野坂吟に運ばれて此処まで来たのだから。

思い出すだけで、恥ずかしくなる。

しかも、先程から号外と言って配られている学内新聞のトップをその出来事で埋め尽されているから、こちらはたまったものではない。

一つ大きく溜息をつき辺りのざわめきから逃れる為僕はトボトボと屋上へ向かった。

鉄製の錆び付いたドアを力一杯押しやって、外に出る。

真夏日にしては珍しく、太陽がやけに高い位置にある。

サラっと頬を撫でる風が心地良い。

僕は思い切りその風を肺の中へと吸収させた。

「さぼりでもするのか? 浅生」

「野坂、おはよ…こ、此処に居たんだ」

新聞や、お姫様抱っこの事はもちろんあるが、今一番引っ掛かっているのは昨日の夜の出来事だ。

昨日の夜、僕は瑠樹の家で夕飯を食べて、勉強もして彼の家を出た。

その後の事だ。

思い出すのもゾッとする、あの映像、微かな臭い…。

コンクリートの赤黒い血痕。

あれは、野坂吟と何か深い関わりがあるに違いない、そう思った。

まだ、今は何も話せない、と言われたから僕からは何も聞かない。

そして、今は学校だ。そんな話しをする必要もない。そう、お互いに解っていた…。

「あの、保健員が言う通り本当に新聞に載るとはな。まったく洒落にもなんねぇ」

保健員とは、きっとチャーの事だろう。

チャーとは、この学校の保健室の先生だ。本名を加藤昇華という。

確かに、チャーの言った通りかもしれない。そう思ったら急に笑いが込み上げてきた。

「あははッ! ホント、僕ら新聞部の良いネタだよね」

「…お前、初めて笑ったな」

「え、あっっ!」

言われるとそうかもしれない。野坂吟の前では怒るか取り乱して脅えるかの双方だったから…。

野坂吟の前で本当の意味で笑う事は初めてだ。

「あはは、なんかそうやって言われたら気恥ずかしいね…」

「お前、笑った顔のほうが良い顔してるよ」

「そぉ~? それだったら、野坂の笑顔も僕凄い好きだよ!」

「……は?」

「あったかくなれるんだ~。野坂の微笑んだ時の顔って!」

「…俺、の…」

「うん! 綺麗で純粋な顔してる!!」

「…………お前、よくそんな……」

「あっ! そろそろ、チャイム鳴るね! 僕戻るけど…野坂は?」

「…此処に居る」

「ん。解った…」

僕はまた、鉄格子のアドを開けて階段を下りた。

「あんな事平気な顔して言ってんなよ…こっちのほうが調子狂うっての…」

その場にごろんとなり、焦りとも照れとも見受けられる顔を作る。

野坂吟はそっと、瞳を閉じるのだった…。


*****


「浅生ちゃぁあーーーーーーーん!!!!」

「!!?」

全速力でこちらに走ってくる人影が見えた。女の人だ。

後ろから声を掛けられ振り向こうとしたらその人のドアップ。

「先輩…だ、大丈夫ですか?」

「えっへへ~。なんとかねー」

彼女は、3年生の風雅天音ふうがあまね先輩。

彼女こそが今回の新聞を校内に配った張本人、新聞部の部長だ。

風雅先輩の後ろに隠れている少女は、2年の睦春奈むつはるなさん。

そして、1年の後鳥羽亜美ごとばあみさんが一緒だ。

睦さんは僕の隣のクラスでよく、うちのクラスに顔を出しているから僕もよく知っている。

1年の後鳥羽さんはあまり話したことがないけどよく、風雅先輩達と一緒に居るから顔と名前を覚えた。

「姫ファンクラブ会長・副会長・補佐、只今姫の所に到着しました!!」

「浅生先輩!!お早う御座います!!!」

「あ、うん。おはよう。後鳥羽さん」

「名前覚えてくれてたんですね!!! 先輩! 私、嬉しいです」

<姫ファンクラブ>とは、どの学校にも多分必ず存在するあれ。

王子様みたいな人のファンクラブ。それのお姫様版だ。

何故、姫なのかは僕の容姿が関係している。

このファンクラブの中にもやはり、規則がいくつかあるらしく、僕が知っているのは呼び方とか・・・。

例えば、1年生は、<浅生先輩>2年生で僕のクラスの子は<浅生君>とか、<白兎君>。他のクラスの子は<姫>・・・。

3年になると、<浅生ちゃん>、<白兎>、<兎ちゃん>、<ハク>・・・・。

さすがに此処までくると恥ずかしさも吹き飛んでしまう。

「風雅先輩、僕に何か用事なんですか?」

「そうそう! 浅生ちゃん…。ハイ!」

「…ハイ?」

「ハイ!!」

「…マイク…??」

「放課後ね、時間ある? あ、良かったら噂の彼も連れて来て欲しいんだけど…」

「噂の彼…?」

「姫、新聞読んでないでしょう~?」

この三人は、ファンクラブの会員でもあるけど、新聞部だ。

風雅先輩が勿論部長。

睦さんが僕に新聞を手渡してくれた。

僕の事が関連している時、僕はいつも、彼女達から直接新聞を受け取る。

というか、僕に勇気がなくて読めないからなのだけれど・・・。

「えっと…<王子説其の壱。姫の王子はあの有名人?>・・・あの、これやっぱり昨日の…」

そこには、いつ撮ったのか、僕と野坂吟のショットが一面に大きく印刷されていた。

覚えていないのも当たり前だ。

その写真は、野坂吟が堂々と、僕を抱えて校内を歩いている。

思わず、顔が熱くなった。

「あ、図星!? 浅生ちゃんの王子サマはヤクザ君?」

「ち、違います…!! というか、そんなわけないじゃないですかっ!」

顔を赤く染めて否定した。

だが、そんな答え方では信じてもらえる筈もなく3人は嬉しそうに声を上げている。

嗚呼、僕の馬鹿!!

その時予鈴を告げる鐘が鳴り響いた。

「じゃあ、頼んだわよー! 浅生ちゃん!」

「姫、また後でね」

「先輩が男の人を好きでも私、全然構いませんから!」

それぞれ、そう言って帰っていった。

あの…僕、まだ彼を好きだとか言ってないんだけど…。

教室に入りづらくなり、僕は又屋上へと向かう事にした。


*****


階段を上り終えたと同時にチャイムが鳴った。

ドアを開いて青空の中へと入り込む。少し眩しくて目を細めた。

キラキラと光る無造作な、髪の毛。長くて綺麗なまつ毛。細く綺麗な顎や首筋。薄く色づいた唇…。

野坂吟だ。無用心に寝こけている。

先ほどの事もあり、そんな所ばかりが目についてしまう…。

意識しすぎだ! 相手は男の人だぞ? 男の人…。

僕はそっと、野坂吟の横に座った。

横目で彼を見る。寝息を立てて本当に深い眠りについている。

ドキドキと高鳴る鼓動を抑えつつ、今度はじっと、彼の顔を覗き込む。

肌蹴たブラウスから見え隠れする肌。

嗚呼、もうっ! 変な所ばかりに意識が集中してしまう…!

『浅生ちゃんの王子サマはヤクザ君…?』

言の葉が…リピートされる。

「ん………」

ビクリと、彼の体が反応した。

ビックリした…起こしてしまったのかと思った。

いつもは、僕に余裕がなくてきちんと彼の表情を目に留めておく事が出来ないから…。

今だけ…少しくらいなら…いい、よね?

僕はさらに野坂吟の顔を見ようと身を乗り出した。

「…お前、男を襲う趣味でもあるのか…?」

「……!!!!!!?」

お、起きてた!? どうしよう…!!

「大胆な奴だな…」

「ちっ…違う! 僕は野坂の顔を見ようと…!!」

「…顔? いつでも見れるだろ?」

恥ずかしさが頂点に達して、顔や耳、体全体に熱が走った。

嫌われる…呆れられる…!!!

「ッ…わかんないんだ…。ただ、僕の好きな人は野坂なのかって聞かれて…恥ずかしかったけど嫌な気分はしなかった…。でも、僕にとったら野坂は大事な友達で…!」

頭が混乱して、恥ずかしくて、涙が溢れてきた。

次から次に溢れてくる涙は一向に止まる気配を見せない。

鼓動が高鳴ってドキドキする。

恥ずかしいから、というのもあるだろうけど違うドキドキもあると思った。

でも、これがまだ、好きという事になるのかは僕自身よくわからない。

「…冗談だ。御免、からかって…」

野坂吟は本当に申し訳なさそうに僕に頭を下げた。

謝らないで…。僕は大丈夫だから…。

そう、言いたかったけど上手く言葉が出なかった。

野坂吟は頭を上げて僕の方を見つめてそして手を伸ばしてきた。

「あ……」

ふわり、と野坂の胸の中に包まれた。鼻孔に、彼のつけてる香水の香りが広がった。

今度は悲しくなってさらに涙が溢れた。

胸がチクリと、締め付けられた…。

僕は野坂吟の胸の中で声を潜めて泣いた。

野坂吟は優しいよ…。まるで、太陽みたいなんだ。

不安や、迷いを取り除いてくれるそんな存在…。

僕はこの日落ち着くまで野坂吟の腕の中で泣いた。

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