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Prologue~序章~  作者: ヒロカワ
番外編
32/33

傷跡の理由1

番外編です。

草汰+楓介の話。その後です。

楓介が、草汰の死を知ったのは、あの日から2年後です。

― 知らなかったんだ・・・!!!!!あいつがあんな事になっているなんて・・・・ ―




    もうひとつの物語・・・・・


今、刻まれる・・・・・・。




「父上、只今・・・・・戻りました・・・・・」

「・・・・ん。よく戻った」


立派な身なりの男がふわっと優しく微笑んだ。

少年はその場に腰を下ろし、自分の親と呼ぶべきその人と目を向け合った。


「・・・・・楓介よ。お前・・・今年でいくつになった?」

「13でございます・・・・・」

「・・・城下町にお前を出してからもうそんなに月日が流れたのか・・・」

「・・・・・・・」

「・・・話を聞きたいところだが今日のところは下がってよい。お前も疲れているだろう」

「・・・・はい」


少年は女人に部屋まで案内され、そのまま、布団の上へと倒れこんだ。

深く深く大きなため息をつく。


「・・・・草汰・・・・・」


呟いたその名前はあの、少年のもの・・・。


「ごめん・・・・ごめんな・・・・・・・」


そのまま少年は深い眠りへとついた。

不慣れな場所に来て初めてに近い父親との会話。

そうとう気疲れしたのだろう・・・。


少年が目を覚ましたのは、まだ小鳥の囀る明け方だった。

彼は大きく伸びをして、手ぬぐいを持ち風呂場へと向かう。

まだ、このお城に来て一日しかたっていないので何処が何処だかさっぱりだ。


「えっと・・・・」

「楓介様、どうなさったのですか?」

「!?・・・・・・・風呂、何処かわからなくて・・・」


楓介様、と呼ばれた少年はぶっきら棒にそう、答えた。

少女は優しく微笑み風呂の場所まで楓介を案内する。


「此処です。あまり長湯をなさっていると上せてしまいますのでお早めにおあがりください」

「・・・・・それと、」

「はい。なんでしょう?」

「俺と年、そう変わらないんだろ?・・・・・敬語じゃなくて、いい」

「・・・・ですが・・・」

「俺がいいっていってんだ。・・・・・そうしろ」

「は・・・ぁ・・・・」

「お前、いくつだ?それと、名前」

「え・・・・・・?」

「・・・聞いておかないと、後々困るだろ・・・・ッ」

「・・・・・鈴・・・・と申します。15歳」

「・・・敬語。」

「あ・・・・っ。なかなかすぐに直るものじゃないですよ・・・;」

「・・・じゃぁ、徐々に直していけよ」


ふわっと微笑んだ楓介の笑顔はとても優しく、そして穏やかであった。

まるで、あの少年・草汰に向けられたような・・・・・。

鈴はかぁっと、顔を真っ赤にして少し俯いた。


「はい・・・・・!」



これが、城での鈴との出会いだった。

あの、城で初めて出来た理解者、そして友達だった・・・。



「・・・・・!!!戦場へ・・・・・?」

「そうだ。それまで、お前にはこの二年間修行を積んでもらたったんだ」


時は流れ、二年もの月日が流れた。

あの頃の楓介とは、違って凛々しくなって声も低くなっている。


「し・・・っしかし!!父上・・・・!!」

「・・・・何だ、反論でもあるなら述べてみるが良い」

「・・・・・ッ。私は・・・戦いたくなどありません・・・・!!草・・・ッ友人の為にも・・・!」

「・・・・友人?・・・・城下町で出来たあの、幼子おさなごか?」

「!!?な、何故・・・何故父上が其の事を・・・・・っ」

「下のものから耳にはしていた。・・・そうか・・・・・お主、知らぬのか・・・」


クククッと、喉を鳴らし、冷たく凍てついた目線で楓介の父親は我が子を見下ろした。

其の顔に、愛情という名の色は一切見えていない・・・。


「・・・父上!お話ください・・・・。何なのですか・・・」


弱弱しく楓介が叫ぶ。

またも、面白いものを見たかのように父親はさらに不気味な笑みを湛えて口の端を上げる。


「・・・・お前の友人、という奴はわしの部下が殺った。・・・・・お前を此処へ連れて帰った其の日に」

「!!!!!!??・・・・・・・な・・・・ん・・・・・・・・ッッッ」

「どうだ?・・・言わなかった方がお前のためだったであろう?だからわしは今までお前には言わなかった」

「・・・・・・・・・っ」


すべてが音を立てて崩れ去った。

あの、楽しかった思い出も、草汰の笑顔も・・・・。


「・・・・・・・って・・・っ」

「・・・・さぁ、楓介。もう何も気にする必要はなくなったのだ。・・・まぁ、お前が抵抗しようと戦場には出すがな・・」

「・・・・ってめぇ!!!!!それでも人間かよ!!?何で、罪も無い草汰が殺されなきゃなんねーんだよ!?」

大声を張り上げたのは、初めてに等しかった。


あの日以来だ・・・。

草汰と初めて会った、あの日以来・・・・・。


「・・・弱い者ほどよく吼える・・・お前にはお仕置きが必要か?」


くすりと怪しい笑みを向け、父親は指をパチンと一回鳴らした。

すると、何処からともなく、男たちがやってきて、楓介を羽交い絞めにする。

怒りの冷めやらない楓介は、ジタバタと抵抗するがこれだけの人数に捕らえられていてはどうする事も出来ない。


「・・・・・!!!はな・・っ!!離せ!・・・・・おい!親父!!・・・俺は、俺は絶対てめーを許さない!!!くそっ!離せって言って・・・ッッ」


男たちに捕らえられたまま、楓介は何処かへと連れて行かれた。

残ったのは、楓介の父親と、そして・・・・・。


「くっははははは!!!本当によく吼える奴だ。そちらの方がお仕置きし甲斐がある。あっけなく逝かれてはこちらもつまらぬからな」

「・・・・・旦那様・・・・」

「鈴、そこにおったのか。・・・・・何故、そのようにつらい顔をする?」

「・・・・あのお方は風介様は・・・・・」

「分かっておる。・・・・好いているのだろう?・・・だが、あいつはお前を見ていない・・・」

「・・・・良いのです。楓介様の笑顔が見られれば、私は・・・何も望みません・・・」

「・・・・・・・お前があやつの妻になれ。わしが認める」

「!!!?だ・・旦那様!?」

「・・・良い。これでも、・・・・あれの父なのだからな・・・・」


フッと、軽く笑って、父親はその場から出て行った。

残された鈴は、楓介の元へと急いだ。


「・・・・・ッ」


やっと冷静さを取り戻したのは、牢にぶち込まれてすぐ。

暗く、冷たい空気の漂う洞穴の奥に・・・その場所はあった。

ゴオゴオと唸りを上げる火の粉を横目に、もし、この火が今、閉じ込められている木でできた牢に燃え移ったら

簡単に・・・死ねるだろう。

ふと、そんな事が頭をよぎった。

手を伸ばして、それをつかもうとする。

しかし、届かない。


「・・・・・おい、見張りの奴。・・・ちょっと、顔貸せ・・・」


低く、面倒臭そうにぶつぶつと楓介は言った。

見張りの男がそれに気づいて楓介の元へとやってくる。


「・・・・・そこの火。この木に移せよ。俺、今此処で死んでやるから・・・・」

「・・・・・・・・・それは出来ない」

「・・・・・どうせ、殺すんだろ?だったら、自分の手で死んだ方がまだ救われる・・・」

「・・・お前は何の為に此処にいるのか分かっているか?」

「親父の勝手な行動で俺は此処にいる。それだけだろう・・・」

「・・・・・お前は、自分があの城下町で暮らした意味を知っているか?何故、お前の父上がお前をこんなに長い間手放したのか・・・」

「・・・知るか。俺は・・・・もう、うんざりなんだ!奴の玩具になるのも何もかも・・・・ッ」

「お前を手放したのは・・・あの城下町の民の為なんだよ。そして、お前を戦場に出すのもあの城下町でお世話になった

民にお前自身が恩返しをするんだ。そういう意味で・・・あの方は・・・・」

「・・・・・なんで!そんなの・・・・あいつがやれば・・いい!!」


走馬灯のように、楓介の頭の中には楽しかった城下町での暮らしが流れ出した。

楓介を育ててくれた老夫婦。

一緒に遊んだ仲間。

そして・・・何よりも誰よりも大切な・・・・あの、顔。あの・・・笑顔。


「ッッ・・・・・嘘、だ・・」

「嘘じゃない。お前は・・・民の為にやってくれると、あの方は嬉しそうに俺たちに話してくれていた!」

「そんなの・・・・何で、どうして、俺に憎まれるような事するんだよ!!あいつ・・・・」

「・・・・・苦手なんだよ。愛情表現が。空回りするんだ。だからいっそ嫌われて憎まれたほうが・・・其の事であの方は満たされているんだ・・・」

「・・・・・・・どうしようもない・・・・・意地っ張りなだけじゃないか・・・・・」

「楓介様!!!!!」

「す・・・・・鈴?」

「良かった・・・・・無事で・・・・」

「・・・泣くなって。俺は大丈夫だ・・・・。だから・・・・」

「良かった・・・・本当に・・・・良かった・・・・・!!!」

「・・・・・鈴・・・」

「さぁってと。じゃ、それ、カギな。出たらちゃんと俺のところにカギもってこい。で、旦那様にちゃんと報告!」

「・・・・・ああ。・・・・・・・有難う」

「いえいえ。俺も野坂の名を持つ武士の端くれですから。これでも」





まだ、納得していない事や、許せない部分はあるけど・・・・今は、こうして・・・


少しだけ、暖かい気持ちになったっていいよな・・・?


草汰・・・?


俺、お前の事、忘れない。


あの《約束》、絶対に・・・・守るからな・・・・・。

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