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本当の気持ち

朝日が僕の部屋へと差し込んで、キラキラと輝く。

今日は休日だ。夏休みまで後、三日となった。

「初君と会ったんだってね。瑠樹君から聞いたよ」

今朝は父が僕の様子を見に来てくれた。

自分の仕事も大変なのに悪いな、と思う反面、嬉しさで胸が一杯になる。

「あ、うん。初兄髪染めてたから最初わかんなかったんだよ」

「昔は彼、おしゃべりな子じゃなかったからね…」

「え? そうだったっけ?」

「嗚呼…そうか。初君、白兎には優しかったから…」

父さんは、何かを思いだしたかの様にクスリと笑った。

「じゃ、そろそろ帰るから」

「うん。ありがと、父さん」

「安静にね」

「父さんまで看護士さんみたいな事言わないでよーっ」

父は僕に手を振り部屋を出ていった。

パタンとドアが閉まったまでは良かったんだけど、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。

それも聞き覚えのある声が五つ…六つ?

「あの! もしかして、小説家の貴夜(たかや)さんですか!? あ、あの! 私ファンなんです! 良かったら、サイン貰えますか!?」

「あ、おじさん、白兎の具合いどうですか?」

「え!? おじさん!? 李君何ソレ!? 貴夜さんが!? 浅生ちゃんのお父さん!?」

「えぇ、皆さん白兎のお見舞いですか? ありがとう」

「いえ! 私たち姫の護衛隊の様なものですから」

ご…護衛、隊…???

そんな事をぽかんと考えていたら、勢いよくドアが開かれた。

「白兎ー! 元気か!? 大丈夫かぁー!!」

「…零さん?」

零さんの顔を見た瞬間、野坂吟の顔が脳裏を霞めた。

でも、ここはぐっとこらえて零さんが渡してくれた花束を受け取った。

「姫ファンクラブも居るよ。姫、これ姫のクラスの皆から!」

そう言って睦さんは僕のベッドの上に千羽鶴をカサリと置いた。

「わぁっ!ありがとう!! 皆って事は…瑠樹も?」

「嗚呼。オレたち皆で作った」

「皆…」

その中には、野坂吟も入っているのだろうか…?

気になったがやっぱり、聞けなかった。

「兎ちゃん、大丈夫かしら? うふふ、じゃ、先生からはあっつぅ~い抱擁をプレゼントするわよ」

「え? あれ? せ、先生もいらしてたんですか…? いえ! あの、近付いて来なくて大丈夫ですから!」

これはちょっと冷や汗ものだよ…。

「それにしても、あの貴夜さんが浅生ちゃんのお父さんだったなんて…」

風雅先輩がポツリとそんな事を呟いた。

僕の父が小説家というのは僕はあまり友達に教えていない。

作家も何かと大変なんだよ、と父さんが言っていたから。

「貴夜先生にお子さんがいらっしゃるのは知ってたけど、まさか浅生ちゃんだったとはねぇ~…」

「そ、それはそうと先輩! この記事読んでくださいよ!」

後鳥羽さんがドサっと机の上に校内新聞の束を置いた。

「うわ…凄い、数…」

五、六枚はあるだろう、僕は古いものから見ていく事にした。

「…【姫・王子説其の二! 王子様は他校の暴れん坊!?】……」

「いっや~嬉しいねぇ。俺の事だぜ? 白兎。ま、吟の次ってのが気に入らねぇけどな」

そう言って零さんはピラっと記事をめくる。

そこには僕と零さんの…その、なんて言うか…。

「それにしてもよく撮れてんな~! 俺と白兎のキ…」

「ぜ、零さん!!」

恥ずかしくなり記事を零さんから奪った。

だってあの時の零さんとの、というか零さんからのキスシーンがこれまた一面を飾ってる訳で…。

なんでいつも、こういうショットが撮れるんだろう…?

「つ、次! 次の新聞見せてください!」

その後何枚かの記事を見たがどれも普通なものだった。

安堵して胸を撫で下ろしたのもつかの間…。

「これが最後です。先輩…」

何故か最後の記事だけ、後鳥羽さんが直接僕に手渡してくれた。

そこには、信じられない事が書かれていた。

「…! な、に…これ? ……ねぇ、嘘……だよね?」

「…ちゃんと、本人のコメントも…。載ってある通りです…」

「…なんで……っ」

重たい空気が僕らを包み込んだ。

その記事の一面のタイトルは…。

【浅生白兎の第一王子、野坂吟学校を自主退学】。

「っ零さん! 零さんは知ってるんじゃないですか!? なんで野坂が…!!」

「…わりぃ…口止め、されてんだ。…ごめんな、白兎…」

「っ…う、そ…、この千羽鶴、は…?」

「…野坂は作ってない」

瑠樹が教えてくれた。

「…兎ちゃんは、野坂君の事が好きだったのかしら?」

チャーが僕のベッドに腰を掛けて優しく聞いてきた。

「…僕、は…」

「…まだ、わからない?」

「…ッ…はい」

「…じゃあ、どうして…兎ちゃんの瞳から泪が出ているのかは、まだ自分で、説明出来ないわね…?」

…泪、??

「…ッあ…」

本当、だ。泣いてる、僕…。

「……皆、今日は帰りましょう。兎ちゃんも一人になりたい筈だから…」

チャーは、僕の事を気遣ってそう言ってくれた。

やっぱり良い先生だなぁって思う。

皆は僕に教える為に来てくれたんだ。…お見舞いを含めて。

「瑠君も…」

「先生たちは帰っていてください。…オレ、白兎に話あるので」

瑠樹だけが残り、他の皆は僕の病室を後にした。


*****


「…落ち着いたか?」

「うん、大分…ごめんね、瑠樹…?」

「…こんな時に、こんな話するのよくないと思う。だけど、オレの心の中だけにためておくのやっぱりよくない。…だから話す」

少しだけ赤くなった目を隠す為に瑠樹は冷やしたハンカチを手渡してくれた。

それで、目を押さえながら僕は瑠樹の方へ顔を向けた。

「…姐姐に、会ったんよね? 白兎は…」

「あ、…うん…」

「…オレは霊感とかそういうのないからわかんないけど、ねぇさん、元気だったか?」

「…うん。元気だったよ」

「…オレ、ずっとお前に言えなかった事、あるんだ…」

瑠樹は一呼吸置いてからゆっくりと話してくれた。

……彼の思いを。

「…オレ、昔…」

「うん…?」

「…ッ…オレ、オレ…昔……昔な、…白兎が」

そこで止まった。瑠樹は悪い物でも食べた時みたいに真っ青な顔をしてうつむいている。

僕は心配になって話し掛けようとした。

そしたら瑠樹の方から口を開いた。

「…オレの、持ってるネコのキーホルダー、ある、だろう? あれ…」

「……うん」

「あれな、姐姐に、貰ったんだ。約束をした時に…」

「約束…?」

「……オレ、昔な、っ…ッ白兎が…、…嫌いだった。…大嫌いだった」

「……え?」

語られた事実に正直驚きが隠せなかった。

なんで…?

「…姐姐は、白兎ばっかり構うから。…白兎も、それを嬉しそうにオレに話すからそれが嫌だった」

「でも、瑠樹きちんと話聞いてくれてた…っ!」

「…表に出せる訳ないよ…」

「…うっ…そうだけど…」

瑠樹はふんわりと微笑んでさらに話をしてくれた。

「でも、嫌いだったけど、ねぇさんと約束したんだ。お前の事守るって」

「僕を…?」

「嗚呼…」




『りゅう…白兎を貴方が守ってあげて。私の変わりに…』

『…っでも、オレ…っ!』

『大丈夫。りゅうの事はおねぇちゃんが守ってあげるわ。…ね、りゅう? これをおねえちゃんだと思ったら寂しくないでしょう?』

『…うん。わかったよ…』




「…最初は、嫌だった。…でも、白兎の事見てるうちに、その嫌だっていう気持ちがなくなって、いつの間にか…姐姐と約束したから


じゃなくて、白兎だから守りたいって思うようになったんだ」

「…瑠、樹…」

「約束なんて、関係ない、今オレはオレの意思で白兎を守ってる。…野坂と何があったの? その腕の傷…」

指されて、僕は自分の右腕を隠すように握った。

「これは…なんでもない…。大丈夫、瑠樹心配しないで…」

今までどうして瑠樹は僕の事を凄く心配するんだろうって思ってた。

おねえちゃんと約束したから、そして瑠樹自信の意思だったんだ。

僕の知らないところで皆、皆が僕を支えてくれてる。

そう思ったら胸が一杯になって、また泪が出そうになった。

「心配、しないで。瑠樹。僕はもう一人でも大丈夫だから」

「…解ってる、だけど、今までの癖が抜けない…から」

照れくさそうに瑠樹は笑った。つられて僕も。

「……瑠樹は、好きな人とか居ないの? いっつも僕の心配ばっかりだったけど…」

「…居ない、な。…でも、これからは少しは考えてみよう、と思う」

「…瑠樹は、大丈夫! 僕が保証するよ。瑠樹、良い所一杯あるから。だから今までの分ちゃんと取り返してね!」

「…ありがとう。白兎」

「瑠樹には幸せになってほしいんだ! 今まで以上に!」

「…オレは白兎が早く自分の気持ちに気付いてくれるのを待ってるよ」

「? 僕の気持ち…?」

「嗚呼。考えてみて。野坂の事」

「な、なんで皆そこで野坂の名前出すのかな~」

「白兎が自分の事を考えている以上に周りの人たちが白兎を見てるって事。…自分の事になると白兎、鈍いから」

言われて返す言葉がなかった。

確かに僕は僕自信の気持ちに気付いていないから。

「…うん。僕も頑張る、よ」

「うん。…野坂、急にオレの所に来て…」

「…野坂の事なんか気にせんどき。白兎。…あんな最低な奴…ッ!」

「…! 初兄っ」

いかにも機嫌の悪そうな初兄の声がした。

見るとドアになんかかってブスっとして腕を組んでいる。

「!? 初兄は、野坂に会ったのか!?」

「…嗚呼。相変わらず鋭いこったな、瑠…」

ペロリと舌舐めずりをしてニヤリと初兄が笑った。

「…初兄も相変わらず白兎以外には怖いな」

「ッククっ…ホンマ、一番の誉め言葉じゃね。瑠…」

初兄…? いつもと雰囲気の違う初兄に少し恐怖心を覚える。

僕が不安そうな顔をしたのに気付いた初兄はいつもの顔に戻ってにっこりと笑った。

「…今日、全部話すけん、白兎、夜俺の部屋来んちゃい」

「あ! う、うん!!」

それだけ言って初兄は帰っていった。

「…白兎、野坂が学校やめた理由はオレは解らない。でもきっと、今日野坂は此処に来るよ…」

「…っでも、僕…!」

会えない…! 会えるわけ、ない。会っちゃ行けないんだ…。

そう思う反面、僕の中で閉じ込めていた筈のあの気持ちが少しずつ少しずつ、沸き上がって来ているのをこの時僕はまだ知らなかった。

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