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友情の結束

友情の結束


蒸し厚い日々が続く7月中旬。

僕、浅生白兎は、朝からドキドキの連発だった。

何せあの苦手だった同級生、野坂吟と友達になったのだから…。自分でも驚いているくらいだ。

正確に言うと僕の方から友達になろうと言ったのだけど…。

あまりの暑さに転びそうになった僕を助けてくれたのが野坂吟だった。

しかも、話をしていた最中に倒れてしまった僕を、野坂吟はどうやら保健室まで運んでくれたらしい。

しかも、お姫様抱っこで…。

その結果、こうだ。

「ウサ! お前なんダヨ!? さっきのあれは!」

「ビックリさせてくれるなぁ。お前もさ。しかも、相手は…」

僕の周りをクラスの全員が囲む。

しかも、皆ちらちらと野坂吟と僕を向後に見て戸惑った顔をしている。無理もない。 昨日まで全然無縁の僕たちが急に一緒に、しかも僕は気絶しそれを野坂吟が抱えてという何とも不可思議な格好での登校なのだから、 誰だって驚くだろう。

「転びそうになったのを、野坂が助けてくれたんだ。それで話してたら急に意識なくなっちゃって気付いたらチャーの所だったんだよね…」

<チャー>とは、僕らのクラスで決まっている保健医、加藤昇華先生のニックネームだ。

何故、チャーなのか。それは、苗字があの某お笑い芸人と一緒だから。

<茶>ではあまりにも品がない…いや、可哀そうなのでチャーとなった。

これは、本人には秘密だ。バレでもしたら男子二人ずつ保健室に呼び出される事間違いなしだから。

あれから、僕と野坂吟は教室へと向かった。野坂吟は無事に席に着いて、もう睡眠の体制に入っている。

僕は、というと、さっきも言った通りクラス全員に囲まれて質問の嵐を食らっている。

野坂吟…少しは気を使ってくれたらいいのに…。

横目で彼の方を見て仰天とも関心とも言えぬ気分になった。もう寝息を立てている!

普段、そんなに彼の事を見ていなかったから分からなかったけど、あそこまで寝つきが良いとは…。

感心する反面、助けを求める事が出来なくなった僕は仕方無しに皆の質問に答え始める。

「でも、大丈夫だたか?何か酷いコトされなかったか!?」

「ううん。大丈夫だよ」

先ほどから妙に僕の事を心配してくれる男子。彼は僕の幼馴染で名前を李瑠樹いーりゅうきと言う。

彼の家は中国に伝わる武術の道場だ。とは言っても、武術の教室を開いている訳ではない。瑠樹が後を接ぐ形になっている。

瑠樹の両親はどちらとも中国人だが、彼の生まれは此処、日本だ。

瑠樹の日本語、あれは一昨年まで中国に住んでいた為に少し…いや、かなり奇妙なものになっている。

僕と、瑠樹は生まれた時から一緒に育った。

親が僕も強い子になって欲しいと思い瑠樹のお父さんに鍛えてやってくれと、頼んだことがあった。

稽古の途中でいつも倒れてしまう僕を見ておじさんは無理するなと言ってくれたっけ…。

それから、小学校に上がり瑠樹はどんどん背が伸びた。

一方の僕は少しずつしか伸びずよく置いていくな、と瑠樹に駄々をこねた事もしばしば…。

そして、小学校の4年の時に瑠樹は修行の為、中国へと旅立ったんだ。

「何かあたらオレに言えヨ!」

「大丈夫だってばー! そんなに心配してくれなくても」

瑠樹はヤケに心配性だ。

その優しい性格と、ルックスでよく空手の試合なんかの時に女の子の黄色い歓声が飛び交っている。

でも、瑠樹は今まで誰とも付き合ったことがない。一度思い切って聞いたことがある。何故、付き合わないのか、と。

そしたら親父が五月蝿いからと、言ってはぐらかされてしまってそれ以来聞けなくなった。

少し緑がかった瞳はアジア系の者とは思えないほど深く濃い。

髪の毛は短髪で、いかにも武道家、といった感じだ。

礼儀も正しく、頭も良い。これじゃあ、女の子が憧れる気持ちも分からなくはない。

それに引き換え、僕は可愛いと言われ、よく大人の女の人や先輩なんかに声を掛けられる。

童顔だし、肌は白い。それに髪の毛も首の長さまであってすこし赤みかかっている。

瑠樹とは似ても似つかないくらいだ。

「おい…」

と、その時後ろの方から掠れた、いかにも不機嫌そうな声が僕たちの耳にとまった。

「少しは静かにしろ。…別に俺と浅生が一緒に登校してきたくらいで何でそんなに騒ぐ必要があんだよ」

大有りなんですよ…!!

此処にいた生徒全員がそう、心の中で叫んだのは表情で解った。しかし、野坂吟に近寄りがたい為か、皆口を閉ざして俯いてしまった。

「…の、野坂! そんな言い方しなくても・・・」

「チッ…気分わりぃな……おい、浅生屋上行くぞ」

「…へ?」

野坂吟は立ち上がりつかつかと、生徒をかき分けて…というか皆がいっせいに野坂を通せるよう道をあけた。

そして、僕の所まで来ると腕を掴み僕ごと一緒に教室から出た。

あの…授業は? とか、また、新聞部の記事…? などという事しか頭に浮かばず、ずりずりと野坂吟に引きずられながら僕たちは屋上へ向かった。


*****


「の、野坂ッあの、離して…痛いよ」

「悪い」

「ど、どういうつもりだよ? イキナリ屋上なんて…それに気分悪いって…」

「いちいちあいつらが大げさなんだよ」

「え…?」

「別に大した事ねぇだろ? お前と俺が登校してくるくらい。それをいちいち新聞の記事だの、大丈夫だったか、だの…」

「皆、僕の事心配してくれて言ってくれただけじゃない…な、何でそんなに機嫌悪いんだよ」

「俺がお前に何かした、だの! 俺のこと何だと思ってるんだよ!?」

「な…ッ! だからそれは…!!」

何で、怒鳴られなくちゃいけないんだ。何で、僕まで腹を立ててるんだよ…? たしかに、みんなの態度は度を越しているけれどそれは、僕が倒れたからであって……。

まだ、野坂の事を少し怖いと思ってしまう。体がガチガチに凍ったみたいに動かない。

「俺がお前に何かしたらお前と、お前のお友達とでお手てつないで登下校でもすんのか? ガキじゃねーんだから…」

「そうじゃないよ!どうしてそういう事しか考えられないんだよ! 野坂!」

「浅生。お前も、あまり人を信用しない事だな…人なんて外っ面だけの奴がほとんどだからな」

「何? どういう意味だよ??」

「あそこに居た奴らのほとんどは興味本位だ。…見てりゃ解るだろ」

「何が言いたいんだよ!?」

「あの中のほとんどは俺とお前がデキてるんじゃないか、とかそんな事思ってる奴らがほとんどだ。 その証拠を掴んだらお前を良いように思ってない奴らがお前を落としに掛かる」

「どっどうしてそんな事…」

「だから、あの場から逃がしてやったんだよ」

「僕の意思じゃない!! 野坂には関係な…」

言おうとして息が詰まった。野坂吟の手が僕の口を押さえたからだ。

「……覚悟、出来てるのか」

野坂吟の顔がさらに真剣なものへと変わった。口を封じられさらには、身動きさえ封じられた。

背中には壁、そして、真正面には野坂吟、口元には…手。

大きくて…ごつごつした…手だ。

「んーーー!!…っんふっ」

鼻で息をするのが辛くなってきた。

そろそろ、この手を退けないと息が出来なくなってまた倒れる…ッ

フラフラなりながらも野坂吟の手を振り解こうと体を捩った。

だが、バランスを崩して野坂吟と一緒にコンクリートの床にダイブする。

「ッ…」

「いった……くな…い?」

あれ?なんで…。見ると、僕は野坂吟の体の上にいた。

彼は頭を抑えながら苦痛に耐えていた。

「ご、ごめ!!! 野坂っ!! 大丈夫!!?」

「…ッ大丈夫だ。耳元で騒ぐな。頭に響くから…」

「で、でも、何でいきなりあんな事…」

「とりあえず、どけ…」

「ごめッお、重かった!?」

「…ぷッ」

「…え??」

「くっ…っははははッ!」

大声を上げて笑う野坂吟…。

うわ…ッなんか、新鮮。こういう風に嗤うこともあるんだ、なんて当たり前の事を考えてしまった。

でも、理由も解らないままでここまで笑われると恥ずかしい…。

「な、なんで笑うんだよ!! 野坂っ」

「…お前の必死な顔見てたらなんかもう、どーでもよくなったてきた」

「だ、だからって別にそんなに笑わなくても…」

「悪かったよ。ふふっ……!」

「…だーかーらっ! 笑わないでよー!!」

「…そう、だな。俺も気、張り詰めすぎだな…。お前と居ると俺の考えてた事馬鹿みてぇに思えてくるわ、マジで」

「誉めてないでしょ、それって~!」

「まだ…今は気にする事ないよな…」

「何?聞こえなかったー!」

「なんでもねぇよ。ガキが」

「同じ歳だよ! 誕生日は…どうかわかんないけど!!」


着々と準備を進めるそれは、今はまだ小さなツボミだ………。

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