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鬼ごっこ

鬼ごっこ


あの後、学校に休むという連絡を入れて朝食を食べ薬を飲んでまた、自分の部屋へと戻った。

相変わらず頭がボゥッとして何も考えられない。

というか、考えたら頭痛がおきてしまうのだ。

ハァっと一つ大きな溜め息を漏らすと、浮かんでくるのは野坂吟のあの言葉…。

【友達終了】…。

何度も何度も頭の中でリピートされる為、寝ようと努力するが無理だった。

「何であんな事…」

僕は、どんな事が起こっても、野坂吟の友達でいる。

それはきちんと彼にも話をした。

危険な事になろうとも…。

「野坂…僕は、野坂の役に立てないの? …少しくらいは頼ってほしいのにっ…」

じわりと泪が出てきた。

そのまま僕は泪を堪えながらぎゅっと目をつむった。

すると不思議と睡魔に襲われて僕は数分後深い眠りへと入ったのだった…。


*****


「…おい。浅生。…浅生…」

「あ、れ…野坂? …夢? だったら、今だったらちゃんと話せるね。

…僕、野坂を助けたい。どんな危険があってもいいから野坂を助けたいんだ…。守りたい」

「…浅生。前、あの血痕の事、知りたがってたよな?」

「…うん」

「それじゃ、まず顔洗って目覚まして来い」

僕は野坂吟に言われた通り、一階の洗面所へと顔を洗いに行った。

「……え? …あれ?」

ドタドタドタバタバタ…

「…」

ガチャッ!

「の、野坂!! 何で僕の部屋に居るの!?」

「…やっと起きたか? 浅生」

「何で何で、何で!!!?」

「…落ち着け、馬鹿。…昨日のあれ、撤回な…? お前言っても聞かないし、諦めた」

「…なっ…何だよソレ…?」

呆気にとられていると、野坂吟が近付いてきた。

「…悪かったな。不安にさせて。俺、お前の性格がこんなだって忘れてた」

「…なんか、最後の方結構ヒドイ事言われた気がするんですけど…」

ムスっとなる僕の頭をポンポンと軽く叩くと、野坂吟は何を思ったのか、着ていた夏用制服をいきなり脱ぎ出した。

「え、ちょ、何脱いでるの野坂!?」

そして、僕の右腕を掴んで自身の素肌にソレを置いた。

丁度、右胸の辺りだ。

間近で見る野坂吟の体はとても男らしかった。

ドキドキして顔が一気に赤くなる。

「解るか…? コレ…」

野坂吟は、僕の腕を動かして自分の肌に触れさせた。

よく確かめるとそこには何かで切りつけられた様な傷が一筋、くっきりと残っていた。

「!? ど、どうしたの!? この傷…ッ」

「お前が、血痕見た夜…あの夜、たまたま親父に会って少し言い合いになったんだ。…お前の家の前で。…だから、あれは俺の…」

「!! 野坂の、怪我した後だったの?あれ…だってあの時…」

野坂吟は、あの時そんな素振り一つも見せなかった。

どういう事なんだ?

「…お前の事心配させたくなかったから」

「傷…まだ痛むの?」

「そんなに深くなかったから大丈夫だ。まだ触ったら少し痛むけどな」

「あ、ごめん! 僕」

野坂吟の胸から手をどけようとしたけれど、彼が僕の腕を握っている為上手く出来ない。

「…何で、お前には何でも喋っちまうんだろうな…」

少し、切なそうな顔をしてそう言った野坂吟は僕の手を離して、また脱いだ制服を着始めた。

僕だって、こんなに誰かの為に頑張ろうなんて思ったのは…野坂吟が初めてなんだ。だなんてそんな事は、言える筈もなく、その思いは僕の心の奥底に閉まわれた。フラつく足取りでベッドまで戻り腰をかけた。

野坂吟も丁度制服を着終えた所で、彼もその場に座った。

「…野坂、学校は?」

「昼から出る。…此処来た時丁度お前の親父さん、家空けるみたいだったから俺が来てくれて良かったとか言ってたけど…」

「父さん、前に今日は大事な打ち合わせがあるとか言ってたっけ」

「昼からは無理だけど、それまでなら此処に居てやるから、お前寝てろ」

「う、うん…っ」

僕は布団に潜り込み、目を閉じた。

「あ、そうだ!! 野坂、聞きたかったんだけど…」

「…ん?」

「昨日の…詩、あれ、何処で聞いたの?」

絆さんが物凄く驚いていたのが頭から離れなかったから。

僕は野坂吟に聞いてみた。

「…前、あの楓介、とかいう奴が…」

「草汰と、楓介…?」

「嗚呼。…あいつの記憶が俺の中に流れ込んできた。…草汰をどれだけ愛していた、とか草汰が死んだ後の事とか」

「…うん」

「其の時に、あの詩も…知ったんだ。…あれは楓介が詠った詩なんだよ…」

「……草汰の為に?」

「…いや…。まぁ、いいから、お前風邪長引くぞ」

「う…うん…」

すぐそこに野坂吟が居てくれる。

そう思ったら安心して、すぐ眠りにつく事が出来た。


*****


「………あぁ。……解った…」

ひとつ、溜め息を吐いて、野坂吟は携帯を切った。



*****


目を覚ました時にはすでに野坂吟は居なくなっていて、置き手紙だけが残っていた。 綺麗とも、雑とも言えない字で一言、じゃーな、と書いてあった。 何故か、微笑ましく感じて笑ってしまった。

あまりにも、彼らしいから。

遅めの昼ごはんを食べて、熱を測ったらもうすっかり治っていた。

そのまま着替えて、夕飯の買い物に行く事にした。

きっと、父の帰りは遅いだろうし、母についてはまだ連絡がないのでわからない。

「…何、作ろう…?」

悩んでいる間にスーパーに着いてしまったので、食材を見ながら決める事にした。

「…白兎?」

「あ、零さん!? どうして此処に…? 学校は…?」

「あー、俺買い出し当番に回されてなー。でも、白兎に会えたから良しとするかなー」

「…何だか、凄く浮いてますよね…。零さん」

「ぶっ!! …白兎、お前ほんっと、可愛いなぁー!!」

零さんはお腹を抱えて笑った。 零さん、外見だけでも目立ってるのに、そんなに笑ってたらさらに注目の的だよ…。

恥ずかしくなって、僕は零さんの腕を引いてレジへと向かった。会計を済ませてさっさとスーパーを後にする。

「ぜ、零さん! 恥ずかしいですよ…っ」

「恥ずかしがるなよ? …俺とお前の仲なんだぜ…?」

耳元で低い声で囁かれてドキリとする。

「…な、仲って…」

「だって、チューしただろ…?」

「!!!? そ、それは!! 零さんがか、勝手に…ッッッ」

「白兎がいけないんだぞー?」

「……はい…?」

「お前、空きありすぎるからな~。…ほら」

顎に手を置かれ、そのまま零さんの顔の方にぐいっと、向けられた。

零さんが、間近に接近してきてピタリと止まる。

「…ッッ」

「そーゆー顔も、反則なんだよ…」

「うっ…あ、あの!!!!!」

「もう、可愛いなー! 白兎は。ホント、俺にしとけばいいのになー」

「ぼ…僕は…」

「吟の事、好きなんだろう?」

「……え?」

僕が、野坂吟を…? 驚いて零さんを見つめる。

僕の顔を見て、零さんも、僕の反応にビックリしたのだろうか? とても、驚いた顔をしている。

「…違うのか?」

「はい…。違います…。…というか、よくわからないんです。…嫌いじゃないけど、友達だって思ったら寂しくなる…」

「…あーもう、お前ら何年掛ける気だよ」

ガシガシと、頭を掻いた零さんは呆れた顔をしてそう言った。

僕は意味がわからずに、零さんを見詰めていた。

「あのなぁ、白兎? ひとつだけ教えておいてやる。吟の弱点は泣きだ」 「…? 泣き??」

「あいつはな、泣かれたら何にでも断われないタイプなんだよ。だから…絆さんの…」

「…え…?」

「いや、なんでもない。…じゃ、俺買出しの続きあるから。またな! 白兎」

そう言って零さんはまた僕の顎に手を掛けた。 何をするのかと思えば、熱を測るみたいにそのまま零さんのオデコと僕のがぶつかり合った。

零さんはまたスーパーの中へと姿を消した。

「…泣きに…弱い???」

いまいち納得がいかなかったが、此処でこのままで居るのも意味が無いので僕は家に帰ることにした。

久しぶりに、近道をして帰ろう…そう、思ったのがきっと運の尽きだったのだろう。 僕は人生最大の選択ミスをしてしまった……。


*****


「…肉じゃが、久しぶりに作るな~。…ジャガイモ焦げないようにしなきゃっ」

「…おい、早くしろ」

「ああ…」

「…???」


人の声が聞こえた。あの、角の方からだ…。 僕は近寄って見てみた。

1人の男性が地べたに這いつくばって必死に逃げようとしている。

それを阻止するように2人の男がその人の襟首を掴んで…。

よく見たら、その男2人は絆さんの車を運転していた人と、助手席に座っていた男だった。 …何故、この2人がこんな所に…??

生唾を飲み込んで、息を潜めた。

「…お前、買ったよなぁ?」

「…ッッッ」

「金は、きちんと払わねーと、痛い目見るぞー」

「あ……っぁあ…」

「ビビッて声も出せないか? …殺れ」

「…あーあ。またかよー。何人目だ?」

「さぁーな」

男たちは不気味な笑いを見せ、座り込んでいる男性に近付いて、一発拳を食らわせた。 悲鳴とともに、男性はそのまま気を失った。

「…このままにしとくか。コレだけ返してもらえりゃ、いいだろ?」

「…チクられた時はまた、締めればいいだけの話しだしな…」

「さぁって、帰るか」

「あぁ………ん?」

「…? おい、どうしたんだ?」

「いや、そこに人影が…」

「何言ってんだよ? そんな事……ッおい」

ヤバイ…。気付かれた!! …完璧に。逃げなくちゃ…! 何されるか解ったもんじゃない…っ

僕はそこから走り出した。すると、男たちも僕の後ろを追うように走ってきた。 日は傾き始めて薄暗い。多分、顔までは見られていないと…思う。兎に角走るんだ…!!


最大最悪のラストゲームが、今まさに始まりを告げた。

どちらかが走るのをやめた時、それがゲーム終了の合図となる、鬼ごっこだ……。

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