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友達終了

友達終了


「…はぁ。……白兎」

父が五度目のため息を吐く。あれから父と僕は家に入った。

それまでは良かったんだ…。

けど、僕がなかなか食事を食べようとしないものだから、父も嫌気が刺してきたのだろう。

「解ってるんだ…解ってた。絆さんに、あんなに接近しちゃいけないって。体でも、心でも解ってた。なのに…あの人が、わかんないけど凄く、孤独に見えたから…」

ボソボソと言葉を並べる僕に、父はただ黙ってそれを聞いていた。

今、母が居なくて良かった…僕は心底、そう思っていた。

きっと、こんな事が起こっている事を知ったら、あの人だったら殴り込みに行くに間違いないから。

「とりあえず、ご飯だけでも食べてから話をしよう」

それからは、僕らは互いに無言で食事をした。

今日の夕飯当番は僕だったが帰りが遅い事が解っていた為、父に変わってもらったのだ。

食事を終えて、ようやく僕は落ち着きを取り戻した。


*****


「…父さん」

その時、インターホンがタイミングよく鳴った。

父は玄関へと掛けていく。

こんな時間に一体誰だろう…?

「白兎。瑠樹君が来てくれたよ」

「…瑠樹?」

「おじサン、これ、母が沢山作ったので、だからどーぞって」

「いつも、ありがとう。瑠樹君。繭さんもきっと喜ぶよ」

「はい。母も喜びます!」

瑠樹は嬉しそうに父に言った。

「あ…ぼ、僕! 瑠樹送ってくるッ」

僕は瑠樹の意見も聞かずにそのまま瑠樹を押し出すように家から出た。

瑠樹は何も言わずにただ、僕に押されながら歩いている。

そんな風に優しい瑠樹の姿を見たら、とてもじゃないけど冷静になんてしていられなかった。


*****


「…どした…?」

僕が、押すのをやめたのに気付き、瑠樹は僕の顔を覗いてきた。

「…ッ」

大粒の泪が足元に落ちて、染みを作った。

瑠樹は自分のハンカチを取り出し僕に手渡してくれた。

「…公園まで、歩けるか? そこだったらゆっくり話、出来るから」

僕は頷いて、とぼとぼと、歩き始めた。五分もしない内にその公園に着いた。

僕らはブランコに腰掛け、ゆっくり、キィキィと漕ぎ出した。

「何かあったか? …白兎、泣くなんてあまり見ないから…」

「…野坂に、会ったんだ。 最初に会った時は普通だったのにまたその後すぐ会った時…一回も僕と…顔、合わせてくれなかった…」

震えそうになる声を必死に堪えながら、瑠樹に話した。

うつ向いているせいもあり、瑠樹が今、どんな顔をしているかはわからない。

ただ、キィキィとブランコの軋む音が、僕の頭に響くだけ。

「…何か、理由があって、だからじゃないのか? 大丈夫。 白兎はいい奴だから…。嫌われたりしない。オレ、保証する」

其の言葉があまりにも優しいものだったから…堪えていた泪がまた、頬を伝った。

「…っ僕…嫌われたくない…っひっく… !の、ざか…に嫌われたくな…ッ」

「ほら、泣くなよ。白兎、昔から我慢して溜め込んで一気に出すからそんな、苦しい。だから、オレ心配…。…オレ、お前の為になってるか? ちゃんとお前の事…守れてるか?」

「…当たり前じゃない…! 瑠樹…、僕は瑠樹の事一度もお節介だなんて思った事ないよッ…。感謝しきれない程勇気をくれた! 助けてもらった!! …いつも、影で見ててくれて、凄く…嬉しいって思ってる…」

「……良かった。オレお前、守るのが役目だから…大好きな家族を…」

「瑠樹…。うん。僕も、瑠樹が大好きだよ…! 大切な幼馴染みで、僕の兄弟みたいなもんだもん!!」

ガサガサと何かが音を立てた。僕はその方向に目をやった。走り去った人影…。一体…?

「…白兎、行って来いよ」

「え…?」

「行って、話して来い。オレ見送り此処までで大丈夫だから。…野坂、今走って行ったの」

「!! 瑠樹っありがとう…!」

僕はお礼もそこそこにその場を後にした。

追い付かなくちゃ…! 何が何でも野坂に…!!


*****


「…何、やってんだ俺…っ」

(あいつの事、心配になって近くまで来たのに…。あいつ、何も気にしてなかったじゃないか…)

「…野坂!!」

やっと追い付いた…!

僕は野坂吟に駆け寄ろうとしたが、彼は今にも走り出しそうに僕に背を向けた。

野坂吟の腕を掴んで阻止して、僕はそのまま荒い息を吐き出して呼吸を整えた。

「何で…逃げたんだよ…っ」

「…別に。逃げてない。…浅生が心配だったから来てみたら…何だよ、あれ? 李と仲良くお喋りか?」

「ッ! 違うあれは…!」

「お前の事だから、気にしてるだろう、なんて思った俺が馬鹿みたいじゃねぇか。…心配してんのにお前は李に告白か? …ッやってらんねぇ…」

「野坂! 話を聞いて!! あれは…野坂の事で相談してただけなんだ。瑠樹は関係ない…ッ」

「相談…?」

「…さっき、どうして僕と目合わせてくれなかったんだよ? 僕…それが凄く嫌だった」

「…ッ」

「ねぇ、野坂。絆さんは一体何をしようとしているの…?」

恐る恐る聞いてみる。

野坂吟は顔を少し顰めて、また僕を見ないように見ないようにしている。

何で…?

「…野坂、僕に言ったよね? 全部話したって。でも、まだ…」

「お前の事ほとんど何も聞いてねーのに俺の事だけ話せなんて虫が良すぎなんだよ!! …俺だって…もう、誰も苦しめたくない、傷付けるのは嫌なんだ…」

「僕は、野坂の力になりたいんだ…。僕なんて、全然頼りないかもしれない。でも一人で居るよりは気が紛れるでしょう?」

「……今日限りで、俺たち、【友達】終了だ。…浅生。俺に関わるな。…お前が危ない目にあう」

「な、何で…ッ」

「じゃあな」

「………ッ! だよ…。嫌だ!! 僕、野坂と友達になって今まで一度だって後悔なんかしてない! 僕、僕は野坂の友達だ!! …これからも絶対、何があっても僕は野坂と友達だもんっ! 何があっても…」

ズキリと頭が痛みを訴えた。体がダルい。

目が霞んできた…。僕は…野坂の…友達、だ…。

「っ! 浅生!! …ッの、馬鹿野郎…ッッ!」

嗚呼…ホント、馬鹿だね…。僕…。

野坂吟がそう、叫んだのが遠くの方で微かに聞こえた。


*****


目を覚ましたのは翌日の朝だった…。

「…僕の部屋…?」

昨日の事はすべて夢だったのだろうか?

…野坂吟が、彼のお母さんを殺した事も、絆さんの車に乗ったのも、絆さんと父さんが再会した事も瑠樹が来た事も。

そして…。

野坂吟に…友達終了、と言われた事も。

すべて、夢で今日、野坂の家に行くんだ…。

そうだ、そう…。

着替えをして、一階に降りた。

リビングの戸を開けたら母さんと、父さんが居る。


「おはよう。……ッ!」

視界がぐにゃりと歪んだ。急に頭痛がひどくなる。

「白兎、まだ寝てなくちゃ駄目じゃないか!」

「…え?」

「熱がある事、自分で気付かなかった…かな? …昨日は瑠樹君を送ってくるって言ったまま、なかなか帰って来ないから、探しに行こうと思ったら、吟君が凄い勢いでうちに入ってきて…」




『!! 野坂…の』


『勝手にお邪魔して済みません。…こいつ、熱あるみたいで…途中で倒れたから俺…』


『ありがとう。二階に部屋があるから…』


『…はい』



それから、私と彼は少しだけ、話をした。


『…浅生さん。あいつに…あいつにもう、俺たちに関わるなって言ってください。俺が言っても…駄目みたいで…』


『…私もそうしたいんだけど、白兎の意地の強さは繭さん譲りなんだよ…。あれは誰が言っても聞かない。自分が納得するまで、ね…』


『…俺、貴方もあいつも傷付けたくないんです…』


『……吟君の気持ちは痛いほど解るよ。だけどね、これは終らないゲームなんだ。野坂絆が始めた…。彼が目的のモノが傷付くのを見ないと…終らない。私が…傷付かないとこの遊びは終らないんだよ…』


『遊び…? 親父は…コレを遊びだと思ってんのかよ…!? 誰かが…死ぬかもしれない…のに…』


『…あの人の手に掛けられた人間は…数十人は居る、…と言うのを聞いた事がある…』


『!? …嘘、だろ? だって親父は…そんな事一度も言った事ねぇ…。…おふくろだって…』


『噂だったから私も詳しくはわからないけどね。…これが真実かどうか…』




「……夢、じゃなかった…」

ドッと疲れが押し寄せて、力がぬけた。

「白兎、関わる事をやめなさい、とは言わない。だけどね、野坂絆には本当に注意しなさい」

「…解った」

「今日は学校に連絡入れてもう休みなさい。熱が上がったら大変だから」

「うん。…そうするよ」

この時既に、最後の舞台が用意されているだなんて、僕もそして父も気付いていなかった。

悲惨な最期を……。

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