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ゲーム スタート

ゲーム スタート


「俺は、この家には住んでないんだ…。学校の近くにあるマンションに住んでる」

あれから、僕らは落ち着きを取り戻し、話を再開した。野坂吟は、まだゆっくりとしか話せていないがきっと今のこれが彼の精一杯なのだろう。

「俺は…親父に逆らえなかった。…怖かったんだ。家族がバラバラになるのが…。でも、結果的に俺がソレを駄目にした…」

「それ、どういう事なの? 家族がバラバラって…」

「昔は…仲が良かった。俺が中学二年の秋まで。…何の変わりもない、普通の家族だったんだ。けどなその頃から…親父は、変わった。何かを追い掛けるみたいに…必死になって俺に繰り返し、あの言葉を叫び続けた」

「あの…言葉?」

「‘お前が、殺れ。母さんを’…」

そこで、話が途切れた。僕は心配になって野坂吟の顔をのぞき込んでみた。

そしたら、こちらを安心させようとしてくれているのかは解らないが優しく笑いかけてくれた。

夕日は傾き始め、部屋の中が少しずつ暗くなり始めている。

でも、僕らは部屋の電気も点けず少し重たい空気の中、話しをした。

「あの日も…丁度、こんな風に静かな日だった。俺は…」



何度も、出来ないと繰り返した。

だが、親父はそんな声に耳を貸す事もなく俺に銃を手渡した。



『何故だ?お前は俺の自慢の息子だ。こんな事、朝飯前だろう?』


『出来、ない…っ』


『初めは誰だってそうだ。…お前は、出来る』


『っ! 何で、こんな事しなきゃいけねーんだよ!!』


『前から言っていただろう…浅生隆也を手にいれる為だと…あの女がいなくなれば、俺は隆也を手に入れられる。どんな手を使っ ても…俺のものにする』


『嫌だ…俺はやらない…ッ』


『…吟…』



あの時の親父の顔、期待に目を輝かせていながら不気味さを含めていた…。

ソレを見た瞬間もう、逆らえないと悟った…。



「俺は、この手で殺したんだ…母親を」




あの時のおふくろの顔…。忘れるわけがない。

悲しむこともなければ、怖がることもしなかった。

ただ…微笑んで。


『……っごめん!! ごめん……ごめん……ッ俺やっぱり逆らえなかった…! 母さん…、ごめ…』


拳銃片手に泣く俺をおふくろは…優しく抱きしめてくれた。

その、細い腕で。

まるで、壊れ物を扱うかのように包み込んでくれた…。


『…俺も死ぬから…!! …母さんを一人になんてさせねえよ…っ』

『いいの。いいのよ。吟。…・分かっていたことなの。それを承知で私はあの人を選んだの』

『!!!! 俺は…嫌だ。こんなの…間違ってる…!』


おふくろは俺の頬に手を置いた。

しなやかでとても細く綺麗な手を…。


『吟。よく、聞いて。…あの人は私が愛した人なの。決して悪い人じゃない。だから何があっても…もし親子の縁を切ったとしても あの人のことを…今のように‘お父さん’と…呼んであげて。ね…?』

『……ッ』


正直言ったら、それは凄く本当に嫌だった。

けど、俺は首を縦に振った。

そして、俺は銃をおふくろに突きつけて…震える其の手を必死に押さえながら引き金を引いた……。




「!! …」

僕は体に力が入らずに立つ事さえ出来なくなった。

頭が真っ白になって野坂吟のその言葉だけが頭の奥で木霊している…。

「…いつかはこうやってお前に話をする日が来るって解ってた。でも、お前と居たら忘れるんだ。俺がやった事の重大さもなにもかも…」

「……僕」

「…お前と居ると楽しいんだ。俺が一番安らげるのは、お前の隣…」

「ッッッ!」

かぁっと顔が熱くなった。

野坂吟は笑って僕の顔を見つめてくる。

こんなに…綺麗なのに。汚れている、だなんてそんな事絶対に無いよ。

「…悪い……」

そう言うや否や彼は僕を強く抱きしめてきた。

「の、野坂!?」

「今までずっと一人だったんだ…お前が、最初友達になろうって言ってくれた時、本当に嬉しかった。一人じゃないんだって思えたから。でも同時に絶対、絶対親父からお前を守らないといけないって…思った」

「…覚悟って、この事だったんだね。…僕何も知らないであんなに色んな事言って…ごめん」

伸ばされた手は僕の頬を撫でて、頭へと移動した。

くしゃくしゃと撫でられ髪の毛がボサボサになる。

「わっわわっ野坂っやめてよ! な、直りにくいんだよー!」

「くっっはははは!!」

やっと本当の笑顔をみせたその顔は子どもみたいなあどけなさを含んでいた。

今まで見た事ないくらい、とてもとても、幸せそうだった。

頬を霞めた、手の体温は少し低く、でもそれが心地良かった…。

僕はこの時すべてを受け入れた。

…受け入れた、筈だった。

この、先にある絶望をまだ僕は知らない…。

そして、其の時、僕はすべてを失うことになるだなんてまだ、予想もつかなかった…。


*****


「…これが、全部。今までお前に隠してたことだ。…軽蔑するだろう?」

「そんな事ない!! …野坂を受け止めるって決めたもん!!」

「今日は…ありがとな。話、聞いてくれて嬉しかった…」

「! …野坂、なんか変わったね…」

「? そうか…?」

「うん! 前より話すようになったし…よく、笑ってる!」

「…っお前がそんなだから…俺は…」

「え…?」

聞き慣れない野坂吟の低い声を聞いてドキリとした。

顔を上げようとしたら野坂吟の顔が物凄く近くにあって…。

綺麗だな、なんて思っていたらもっともっと、顔が近くなって…。

思わず僕は目をつぶった。

ふわりと僕の頬に当たったのは野坂吟の唇……。

「ッッッ!! 野坂!?」

「…お前が、悪い。…じゃぁな」

そう言って彼は僕を見送って、また家の中へと戻って行った。

そんな事、言われても…。

ソレが落とされた部分は熱を持ちじんじんと温もりを感じる。

感触が…まだ、残ってる。

「あ…そういえば…」

あの夜の事を聞くの、忘れてた…! 僕の馬鹿…ッ!!

あんな凄い事、一気に聞いて…。

母親を…殺した。そう語った野坂吟の顔。

もう、泣きそうなぐらい話したくない事なんだろうに、どうしてあんなにきちんと話してくれたんだろう?

僕に聞く権利なんて無かった筈なのに…。


*****


ふと、振り替える。

すると、さっき帰っていた筈の彼が…居た。

真っ直ぐな瞳で僕を見つめていた。

「あ、な…なに…」

「…お前、…泣きそう」

言って僕は抱き寄せられた。

泣きそう? そんな事ない。ないけど、何でだろう。何で泪が流れてしまうんだろう…。

悲しくないのに。

どうして…

「…あんな話したから気が動転してんだろ……ごめんな」

「なんでッ…のざかっが…あやまるの…っ」

「なんでって、お前が泣いてるの俺が話したせいだろう…」

「わかんなっ…なんで、泪なんか…ッ」

泣きたいんじゃない、悲しいんじゃない…!

止まらない泪を拭き取り拭き取り、僕は野坂吟を見上げた。

そこには、真剣そのものの彼の顔があった。

「ど…うしたの? 野坂…?」

「…親父…が、帰ってきた…」

「え!?な、なんで…」

「車の音が聞こえた。お前、何か考えてるみたいだったから気付かなかったんだろ…」

「ど、どうしよう!!!? 僕…っ」

「……とりあえず、裏道あるからそこから逃げろ! …絶対振り向いたら駄目だぞ!」

「う、うん…!!」

僕は野坂吟に手を牽かれ、草の茂みへと急いでもぐりこんだ。

そこは小さな穴が開いておりそこから抜けれるようになっていた。

「また、来る! 絶対に来るから…!!」

「…あぁ…分かった」

僕は駆け出した。懸命に。途中、蹴躓きそうになったが何とか持ちこたえて先を急ぐ。

振り向くな! …そう自分に言い聞かせていたのに体が言う事を聞いてくれなかった。

僕は…約束を破った。


*****


「吟。何故、こんなところにいる? …また閉じ込められたいのか…」

「…ッな訳ねえだろ…ッ」

「……あそこに居るのは、お前の友達というやつだろう…」

「誰もいねぇよ! なん……ッ」

「あれが…誰も居ない、に見えるか?」

「―――――!! 馬鹿!! 何してんだ!! 走れ浅生!!!!」

「!!ッッッッ」

「…ククっ…おめぇもつくずく読みが甘めぇんだよ…吟」

「!!!!」

「さぁ、お前も来い。……ゲームを始めようじゃないか! 楽しいゲームをよ!!」

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