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罪の手

罪の手


「白兎!!」

「は…はい?」

「こっから時間掛るから…飛ばす!!」

「えぇ!? でも、零さ…ッスピード違反…ひぁ!?」

ビュンと頬に当たる風が急に早く、冷たく感じた。

怖くなって、零さんにしがみつく。

「…しっかり、捕まってろよ?」

ポンポンと、頭を撫でられて僕は、ホッとして肩の力をほんの少しだけゆるめた。零さんはほとんど人が来ないような、裏道をどんどん進んでいく。一時間程経っただろうか、赤茶色の屋根の白い家が見えてきた。

此処が…野坂の家?

「着いた着いた。さぁてじゃ、入るか」

そう言って、零さんは何故か玄関を通りすぎて中庭へと向かう。

不思議に思ったが付いていくしかないので、僕は駆け足で零さんの隣まで行き並んで歩いた。

「あの、零さん? 何処に行くんですか?」

「…吟の部屋。あっこ、ベランダあるだろ?」

ヒタと足を止めて、二階の方を見ると確かにベランダがあった。カーテンで閉ざされている為、中の様子はこちらからまったくわからない。零さんは、近くにあった木に登り、ベランダへと飛び移った。

そして、窓を二、三回叩いた。しばらくすると窓が開いて、見慣れた顔が僕の視界に広がった。

「零…? どうしたんだよ…」

「ちょっとな、会わせたい奴が居てな~」

ニッと子どもっぽく笑った零さんは僕の方に顔を向ける。

野坂吟も僕の方に顔を向けて…そして、その場から動かなくなった。

「の…の、ざか…?」

僕は心配になり一歩足を踏み出した。

「来るな!!」

怒鳴られて、足がすくむ。野坂吟は俯いて、またゆっくりと口を開いた。

「なんで…来たんだよ…俺は大丈夫だって…零から聞いたはずだろう…」

確かに、零さんから、野坂はギャーギャー言っていたというのは聞いた…。

でも、でも…!

「あんな…あんな別れ方したら誰だって心配になるよ!! どうして…そんな…」

張り積めていた緊張の糸が切れたせいか、それとも彼に会った早々あんな事を言われたからなのかは解らなかったけど…一気に泪が溢れた。

「白兎!?」

零さんはすぐに僕の元に駆け付けてくれて、そして背中を摩ってくれた。

「おい! 吟。いくら何でもその言い方は白兎に失礼なんじゃねーのかよ!」

「…ッ。零…こいつと二人だけにさせてくれ。話がある…」

「…今度は邪魔者扱いか? はッ。これだからガキは…」

「…頼む。零…」

「……わぁった。お前さぁ、やっぱいっつもそうやって素直だったら可愛いのにさー」

「…後で覚えとけよ。このつり目…」

「いや、これ遺伝だっつの。お前も十分つり目な」

零さんは笑って、またバイクにまたがり、多分仕事場へと向かうのだろう。颯爽と帰っていった。


*****


残された僕と野坂吟はお互い、何も話さずしばし沈黙が続いた。

だが、野坂吟も、ベランダから、地面へと着地して僕の方ヘやって来た。

「…お前、本当に馬鹿決定するぞ…?」

「…どうせ…バカだもん…」

泪はまだ止まらず、どんどん溢れる。

「…反抗的なのも、…悪い癖」

そう言って野坂吟は、僕の頬をつたう泪を拭き取ってくれた。

「…本当に…心配、したんだ…野坂に何かあったらって考えたら凄く怖かった…」

「俺はどうでもいいんだ。…お前が危ないんだから俺は何があっても守るから。…浅生、お前の事」

「僕ってそんなに頼りないの…」

「……かなり、な…」

なんだかおかしくなって、笑ってしまった。そしたら野坂吟も笑っていて…。

本物の笑顔にようやく会えた、そんな気がした…。

「…もう、此処には来るな。…とりあえず、他の奴に見られたらまずいから…お前、上れるか?」

「あ、あれぐらい出来るよ!」

「…なんだったらまた、抱きかかえてやるけどな?」

「いっ…いらない!! 絶対いらない!!」

野坂吟は、最初にベランダに到着して、僕に手を差し伸べてくれた。

その手に捕まって、僕もベランダへと移る。そして彼の部屋に入った。

入った瞬間ふわりと香水の香りが鼻を擽る。

少し甘くてでも、野坂吟に似合う香りだった。

「あれ…そういえば、野坂香水つけてないよね?」

「あぁ…此処、俺の家じゃないから使う機会ほとんどないし…」

「え? 野坂の家じゃないって…どういう事…?」

野坂吟は深く溜め息を吐いて、そして床に腰を下ろした。

僕も彼の隣に座って彼が話をするのを待った。

「…親父の仕事、一回だけ手伝った事があるって言ったよな…」

「!! …うん…それは、本業?それとも…」

「……仕事、だと思ってたんだ…でもッ…違った…」

今にも泣き出しそうな辛い顔をして、俯いた。

きっと、そんな顔見せたくなかったから。

「…ゆっくり話してくれて構わないから…」

「…御免…」

すぅっと息を吐いて、また彼はゆっくりとその、重たい口を開いた。

「…あいつは個人的な感情を理由に…殺しをした…いや、指示、したんだ……俺に……」

最初は、理解出来なかった。

でも、彼の更なる一言が僕にそれを理解、させた…。

「俺は…罪を犯したんだ…この、手は…まだあの時の感触を忘れさせてくれない…」

野坂吟は、自分の手を見つめてそう呟いた。

自分は罪を犯したと、殺しをした、と…彼自身がそう、述べた。

聞きたくなかった言葉、聞いちゃ、いけない言葉だった…。

「……怖い、だろ? だから、あの時言ったんだ。…俺から他の奴らを避けてた方が良かったって…」

「…ッ…」

「浅生…」

伸ばされた手に、体が拒絶した…。混乱の渦が僕の心をぐるぐると掻き混ぜる。

野坂吟は…僕の其の反応を見て、小さく笑った。

「…知らない方が良かったんだ。この話も…これから先の話も…お前、帰れ。…俺にもう近づくなよ…」

僕に背を向けて、野坂吟はその場に立った。

僕は……僕、は……。


「…ッ!!!?」

「怖い…よ? でも、…大丈夫。…野坂の事、きちんと話して。僕最後まで聞くから…」

そうっと、彼を後ろから包み込んだ。体は…震えていた。

でも、聞きたい。知りたい。

野坂吟は僕の方を向いて、苦しくなるくらいぎゅっと抱きしめ返してくれた。

密かにつたう、その泪を隠しながら………。

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