第76話 伝承
「ここは俺たち、森の民伝承の地だ。」
遠い目をしたゲタンが空を見つめる。
そんなゲタンにわしは声をかける。
「どんな曰く付きなのじゃ、この物件は。」
「曰く付きって…何かよくないいきさつや、こみいった事情のある所だぞジジイ。」
「おお意外と物知りじゃなエメリさんは。ツンなのに。」
「ツンは関係ないだろ!ツンは!」
プイと横を向いてしまったのじゃ。
照れて可愛いのう。
「ここには俺たち、森の民の伝承があるんだ。」
遠い目をしたゲタンが空を見つめる。
「どういう伝承じゃ? 聞かせて?」
わしは無邪気に聞いてみる。
「……ジョコ教えてやれ。」
ゲタンがジョコに振る。
忘れたのか、本当は忘れているんじゃないのかゲタン。遠い目は昔の記憶を呼び起こそうとしてただけじゃ…
それを察したのかゲタンが
「い、いや、違うぞ。ただ覚えていたことが思い出せなくなっただけだぞ。」
と言い訳していたが、
「それが忘れることなんじゃ~~ょ。」
わしは語尾を優しくして言ってあげた。
ジョコが伝承を教えてくれた。
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大きな金の鷹と小さな銀の鷹が
上空を3回旋回し
この地に舞い降りた
初めに金の鷹が舞い降りた地は大地に
次に銀の鷹が舞い降りた地は
水が沸き出し、木が形成された
森の始まりである
舞い降りた金と銀の鷹は子をなした
大きくなった子は外の世界へ
金の鷹はこの地を離れ
銀の鷹はこの地に留まり人となった
森の民の始まりである
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「森の民の始まりである、という事だ!」
ゲタンが途中で思い出したのだろう。シメだけは持って行った。
なるほどのう、やっぱりそういった伝承というのは各地域ごとに残っているものなんだろうか。森の民にこの伝承が残っていたと同様に、子の話や、金の鷹の話も各地にあるかもしれんのう。いつか、王城や他の地域でも聞いてみたいものである。
「そうか、それがこの地ということか。」
「そうだ、じいさん達から代々言い伝えられている口伝でもある。」
「う~~ん、でも何でこの土地だけ草木が生えない地なんじゃろうな。」
「それは…毒でも撒いたんじゃないかな。」
ゲタンが適当に言う。
「聖地なのに? 毒地なの? 聖地。」
一応ツッコんでおいたが、そんな禍々しい物は感じないのじゃがな。毒じゃったら、わしらにも少なからず影響あると思うし。ちょっと聖地を見て回る。
そんなわしを徘徊老人かのように、みんな付き添って歩いてくれている。心配するでない! わしはまだボケてはおらん!
しばらく歩くと分かった事があった。
「やはり、この草が生えていない平地の地面は少し温かく感じるぞ。草木が生える際と比べてみると一目瞭然じゃ。温度差があるわい。」
みな際まで行って調べてみる。
「ほんとだ、少しあたたかい。」
「う~~んどうやら、この土地の下に何か埋まっているのかもしれんな。どれ、ダメもとでちょっとみてみるか。」
わしは精神を統一して目をつむる。大きな動作で右手の人差し指と中指をまっすぐのばしVの字にして天に突き刺すかの様に掲げる。そのV字になった右手をわしの右目の位置に移動し舌を左斜め45度の角度で突き出し叫んだ
「検解!!」
「単なる“てへぺろ”じゃねーか!」
エメリさんがわしの頭をどついてツッコム!
あっそうか、みんなにはこんな能力あるって言ってないから、知らないんじゃった。
いつものようにわしがボケたと思ってエメリさんがツッコンでくれたのか。ありがとうエメリさん、ツッコンでくれて。
ちなみにボケとは痴呆症のボケではないぞ、漫才のボケじゃぞ! そうだろうエメリさん?
まあそんな事は置いておいて、検解を続けていたが、微妙に反応する箇所があったので、ターゲットを合わせてみると…
「な、なんじゃと…」
わしは驚愕した!
この地表から放射性物質が溢れ出ておる……
そしてわしからはロマンスが溢れ出ておる……
さらにゲタンからは加齢臭が溢れ出ておる……




