第65話 ジューローとセイム
朝起きてスブムの様子を見にいくと、なんと足が折れて横たわっているスブムがいた。セコスやり過ぎじゃろう!いくら何でも実の父親にここまでの仕打ち…ゆるすまじ!セコス!わしの屁をくらえ!などと闘志をメラメラ燃やしていると、セレブさんが
「違うんです…あの…夜遅くにセコスと決闘して多少傷ついて帰ってきたんですが…その後なかなか寝付けなかったみたいで、明け方に起きてふらっと出かけていったのですが…
浮かれ過ぎたんでしょう、スキップしてたら足がグキってなって、足を踏み外して、川に落ちて、流されて、流木が頭にぶち当たって、必至の思いで川から這い出たところに穴が空いていて、落ちてボキって…。杖をついて戻ってきましたの。」
セレブさんは困った顔で話だしたがわしは黙って聞いていた。
「多分うれしかったんだと思います。やっと族長の重荷から解放されて…だからはしゃぎ過ぎて…小さい頃から出来ないスキップを…大人になっても“それ全然スキップになっていないじゃん!”ってみんなに笑われたスキップで足をグキって…。
なんであれほどバカにされたスキップを…スキップをするほど浮かれていたなんて…。」
確かにスキップができない人は少なからず存在する…だが、スキップ談義はもういいじゃろう。スキップ談義はもうこりごりじゃ。
「そうか…昨日の喧嘩も本当はけじめじゃったんだな。族長としての、父親としての…」
そんな話をしていたら族長が目を覚ましたようで腫れた顔でわしに言う。
「ジューローさん、わたしは今までもこれからも与えられた仕事を、もくもくとこなすだけの朴訥な男です。これからも、森の民をよろしくお願いします。」
と頭を下げた。
「たとえ族長の力量はなくとも、この誠実さがネル族を今まで支えてきたのじゃ。誇ってもよい事だと思うぞ。今までお疲れさんじゃったのう。」
と伝え家を出る。
扉を閉める時に少し泣き声が聞こえたように思うが、たぶん気のせいじゃ。足が痛いのじゃろう。後で痛みを和らげる薬草を持ってきてやろうかのう。
※※※※
昼からはこの村にも日時計を作り、村人に用途を説明する。たぶんこの村でも日時計を使った待ち合わせが増えるじゃろう。イチャイチャした若い奴らが増えるじゃろう。軟弱者めが!
わしが目の黒いうちはこの村をいちゃいちゃ天国にはさせん!絶対にだ。などと、どす黒い感情がわしの体の中に渦巻いているとセイムさんが話しかけてくれた。
「ジューローさんどうしました?向こうで一緒にお茶でも飲みませんか?」
天使じゃ!天使の笑顔じゃ!癒されるな〜セイムスマイル。やっぱり美人じゃな。かわいいというより美人顔じゃ。そんなセイムさんが誘ってくれたんじゃわしは断りはせんぞ!
もちろんお茶とは翻訳機能がそう訳しただけで本当のお茶ではない。木の皮を削いで沸かした湯の中に入れると麦茶のような少し香ばしい味がするのじゃ。こちらでは香ばしい水の意味でコミーと呼ばれている水じゃ。いつの間にかわしのどす黒い感情が消え失せ、みんなと談笑する。
「セイムさんはネル族、ヌル族の男衆からもモテモテじゃが、付き合いたいと思う男性はいないのか?」
と聞いてみる。少し困った顔をしたが素直に答えてくれる。
「はい、色々な男性から誘われて嫌な気持ちはしません。私も16歳になったのですから、いつでも結婚できる歳になりました。だけど、付き合いたい男性となると…その、よくわからないのです。」
「今まで付き合ったことは? だれかを好きになった事はないのか?」
「いえ、実はないのです。小さい時にはお兄様大好きっ子で大きくなったらお兄様と結婚するんだなんて言ってたみたいですが、私が異性にひかれないのは、お兄様の影響もあるかもしれないですね。」
なんと!セイムさんはブラコンだったのか。まあ、確かにセコスは格好良くて、強くてモテモテだったじゃろうな。学生時代なんてみんなそうじゃ、中学生の頃なんて多少格好良ければモテるんじゃ。顔がそこそこの奴でもそこに部活フィルターがかかると最強じゃ。例え顔がブサイクでも乙女フィルターによって、はやみもこみちや、向井理になってしまうんじゃ。例え、天心向だとしてもな…知らない人はコピペで検索じゃ!
「そうか、じゃあわしにもまだ可能性はあるな。」
ほっほっほっと無いアゴひげを触るパントマイムでセイムさんをチラッと見る。
「えっ何でした?」
聞いてな〜〜〜い!2杯目のお茶をくみに行っていて聞いてな〜〜〜い!まあそりゃそうじゃ。こんな爺さんじゃ、例え結婚できたとしても異世界の歳の差カップル…加○茶夫婦じゃ、まわりに何を言われるか。
しかしわしは諦めん!諦めんぞ!!この異世界できゃっきゃうふふするその時までわしは死なん!わしは生きる!と心の中で誓う、おちゃめなわしじゃった。




