第64話 元族長スブム
その後わしとセコスはスブムを交え、3人で話し合った。ヌル族の里に着いてからの事や海合宿の事など、軽い旅の思い出話のようなものを話してから本題に入る。
まずはヌル族と城下町との交易の話から、何を売って何を買っていたか、砂糖などの特産物の驚きや、1つ1つ品物の感想を伝えた。その間スブムは優しそうな笑顔を浮かべ、黙って話を聞いていた。
そしてヌル族の現状、塩製造工程の見学などネル族の現状、お互いの問題点、改善点を話し合った内容を伝えた。
そして最後にはあの夜3人で語ったこれからの森の民の展望。それは森の民の生活全て、狩り、食事、体制、ありとあらゆるものを含んだ、これからの未来の話を伝えた。
もちろんそこにはヌル族のゲタンを中心として森の民をまとめる話も含まれている。つまり事実上のネル族スブムの解任報告じゃ。もちろん解任報告はわしの仕事じゃ…非常に言いづらい事じゃがスブムに伝えた。
「長い間、族長おつかれさん、てへっ」
厳かな雰囲気が嫌じゃ。てへっで可愛さアピールじゃ。ほんの少しでもなごんでくれればええ、そしてわしを憎んでくれてもええ、そんな思いもあり、軽く言ってみました。
………………………あっセコスが軽蔑の眼差しじゃ、わしに。さすがにこれはハズしたな。この沈黙にいたたまれなくなっておならがしたくなったわしは、空気を和ますために、今渾身の力を込めてオナラをひりださんとする、まさにその時!
「セコス、表へ出ろ。わしと決闘だ。」
スブムが低い声で息子セコスを見据えて立ち上がる。セコスは驚いた顔をするも、スブムと一緒に表へ付いていく。わしもオナラをひりだしてから表へ出る。
3帖くらいの部屋にわしのひりだした屁の匂いがこもるから扉を開けっ放しにするかどうか迷ったがそれどころではない。扉を閉めて表へ出た。
家のすぐ前の広場で、3mぐらい離れてお互いに向きあっていた。
「セコス、本気でかかってこい。」
「親父マジかよ、こう見えて俺はいまや狩りの…」
「つべこべ言わんで打ってこい!」
セコスは覚悟を決めたか、険しい顔をして父親の顔面めがけてするどいパンチを放つ。
バチイイイイイイーーーー、肉を打ち付ける高い音が響き渡る。そこには顔面にパンチを受けて微動だにしないスブムの姿があった。
「それがお前の本気か、全然効かんな。遠慮するな、本気で打ってこい。」
セコスが大きく振りかぶってするどいパンチを打つ。スブムがそのパンチを寸前で見切り、カウンター気味にセコスの顔にパンチを放った。
ニブイ音と共に、それをまともにくらってふらつき、膝をつく。口を切って血を流すセコスが膝をつきながら父親の顔を見上げる。
「父さんはな、いつもいつもいつも情けない自分を、いつもいつもいつも頼りない自分を責めた。責めて責めて責めて、ふがいない自分を憎んだ。この世襲制で決められた出来の悪い族長を憎んだ。
セコス、お前は出来ちゃった結婚で産まれた子だ。」
ぶーーーーーっなぜ今この場でぶっこんだスブム。精神攻撃か。それを言われたセコスは少し動揺するそぶりを見せた。
「そんなダメな父さんを家族みんなは蔑ずむでなく、一緒に父さんを助けてくれた。セコス、お前はそんな出来の悪い俺の自慢の息子だ。セイム、レイク、リイナみんな出来の悪い俺の自慢の子ども達だ。
お前はもうわしの心配をする事は無い。これから森の民を背負っていくのはお前達若い世代だからな。今、このムッキムキの体を手に入れた父さんは今まで色々とイメージトレーニングで鍛えたシミュレーション脳と通信教育で鍛えた日曜大工術で、これからお前を倒す。」
おい、通信教育って。しかも日曜大工wwww関係ね〜〜〜〜〜。いかんシリアスな展開にわしはずっとツッコミ役じゃ。
「わかったよ、親父。確かに少し親父をみくびっていたかもしれねー。これからは俺が家族を支える番だって気負い過ぎてたかもしんねー。だけど今だけは本気で親父を倒すぜ。今日本気で親父を超えるぜ。」
しばらくお互い見合って、沈黙が続く。スブムがフッと笑ったかと思うと同時に両者動き出す。後はもう、駆け引きもくそもないお互いの力を出し合う打ち合いだけじゃ。わしはしばらく見届けたあと、倉庫に戻って深い眠りについた。
あとはコバルトブルーに輝く月が両者を照らし続け、勝者を絢爛とした光で包み込んでくれるじゃろう。
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なんかキレイにまとめた風じゃけど一言よいか…わしの放った屁の残り香がすごい。さっきから大分時間たったのに、まるで真空パックじゃ。香りの真空パックによって鮮度100%じゃ。
そして、わしはまた扉を開け放ち、夜の村へとくりだす!




