第59話 セイムの夜散歩
この話しは1話なので本当はつなげてもよかったのですが、
分けた方が読みやすいかなと思い別々にしました。
〈セイムさん目線〉
今日は、前日にジューローさんとエメリさんとで一緒に図案した“水着”と呼ばれる海に入る時専用の服を2人で一緒に作っていて、全然外で遊べなかった。実際に布をあてがって寸法を計ったりしたが、上の水着はエメリさんの方が、私より多くの布を使用するみたいだ…ジューローさんいわく、「すれんだー」というらしい。10割の優しさらしい。
最初はなぜだか、イラッとしたが今では何かかっこいい言葉だと思うようになった。
夕食後、みんなと談笑して寝床についたが、今日はなかなか寝付けない。ぐっすりと寝たみんなを起こさないように、そ〜〜っと起き上がり、夜の海を見に外へ出た。波の音を聞きながら砂浜を歩いていると、なぜか色々な事を思い出す。今まで私はネル族の中だけで、狭い生活空間が私の全てだった。私の家族、部族の女衆、子ども達、お年寄りたち、狩りの男衆。これが私のすべての世界だと思っていのだが……あの日ジューローさんとお会いしてから、少しずつ変わってきたように思う。
もちろんジューローさんがいなくても動き出す時期だったのかもしれないが、それでも私はジューローさんのおかげで、劇的に世界が変わってきているのだ。
ゲタンの事もそうだし、どんぐりや豆の調理法という新しい食材を発見した事によって、美味しい食事を与えてくれた事もそうだし、女衆にやりがいという仕事を与えてくれた事。そして商人見習いのスペードさんの出会い、ヌル族のたくさんの男衆達との出会い。男衆だけでなく、エメリや女衆など色々な人と触れ合うことが出来た事、今回の海岸遠征…私がいままで経験したことのない事をいっぱい体験させてくれてとても感謝している。
ジューローさんは亡くなったおじいちゃんに似ている。いや、外見は全然似てはいないのだが、なんというか温かいのだ。肉親のような、一緒にいても不快に思わない温かさを感じるのだ。
そんな事を思いながら砂浜を歩いていたら、長屋の奥の広場の方に何だろう?明かりが見える。明かりといっても火を炊いているような明かりではない。白い光なのだ。それもかなり大きい。人がすっぽり覆い隠されてしまうぐらいの大きさだ。
少し恐かったが好奇心の方が勝り、そっと遠くから光を覗き込む。
その光の中心をじっと目を凝らしてみると、だんだんと黒いもやの様な物が見えてきた。少しまわりの光がおさまってきたかと思うと、人影が浮かび上がってくるかのうように見え、次第にくっきりと見えてきた。
容姿は身長が180cmくらいで体つきはたくましい。兄セコスより1まわりも大きく感じるが、
髪は肩まで伸びている。時折髪の間からみえる横顔はとてもキレイで整っている。20歳ぐらいだろうか?すごくキレイだ…しばらくボーッと見とれていたら、ふっと光が消えて、辺りが真っ暗になってしまった。
暗闇に目が慣れてきた時には先ほどの男性はいなくなってしまっていた。あの男性は何だったんだろう。私が見ていたものは夢だったのだろうか?実際に見ていたものが現実だったのかどうかもわからない。
しばらく月明かりに立ち尽くしていると、正面から声をかけられた。
「あれ、セイムさんどうしたんじゃ?」
ジューローさんが目の前にいた。
「どうじゃ、コッチで少しワシと話さないか?日暮れからず〜〜と一人で日時計の印打ちで暇なんじゃ。ジジイ暇なんじゃ〜。」と上目づかいで聞いてくる。
私はクスリと笑ってもちろん了承する。
このどこか憎めない老人ジューローさんは私の亡くなったおじいちゃんに似ている。
一緒にいて温かい気持ちになるのだ。




