第55話 禿げ談話
「まっまさかお前さんは…」
わしは驚く。
向こうもわしを見て驚く。
禿げじゃ! たぐいまれなる禿げじゃ!
毛根をこれでもか!これでもか!と根絶やしにされた禿げじゃ!
この異世界で初めて会ったつるつるじゃ。向こうも初めてではないじゃろうが、
同じ禿げ仲間を見つけたうれしさか
「おっっおお……」
声にならない声でお互いにじりより、がっちり肩を抱き合った。お互い無言で見つめ合った。何も言わんでええ、と言わんばかりに。
そしてしばらく沈黙のあと…
「頑張ったな」
の一言で意気投合した。
「もうそこらへんでいいか、ジジイども。」
じっと待っててくれたゲタンがとうとう我慢ならずに声をかける。
「なんじゃお前も入れてほしいのか、ハゲ同盟に」
「入りたくないわ!」
「いやお前の髪も、もう真ん中とサイドにちょっとだから、いさぎよく全部剃って、ハゲ四天王に入らんか?」
「絶対死守するわい。って四天王ってだれやねん!」
「わし等とお前を入れて、もう1人は永久欠番じゃ」
「勝手に俺をいれるなよ!補欠も嫌だ!」
「まあハゲの事はこのぐらいでいいじゃろ。場が温まってきたところで、わしの名はビーク。この塩製造場の責任者じゃ。キャッチコピーは“帰ってきた塩じい”じゃ。」
いや塩じいって、あの塩○正十郎さんじゃないよね。あれ?心なしかめっちゃ顔似てる。もうその顔にしか見えない。
「これはこれは、初めまして、わしはジューローじゃ。森の民のために粉骨砕身がんばる男、ジューローじゃ。キャッチコピーは“ロマンスがありあまる”じゃ。」
「わしは族長のゲタンじゃ。キャッチコピーは“バイオレンス カツオ”じゃ。あのお魚加えたどら猫を追っかける人の弟のカツオじゃ。」
「入ってくんなよ、お前。もう決定じゃからな。四天王に決定じゃからな。」
「それは断る!だが、わしだっておもしろい事言いたかったや。仲良しこよしになりたかったんや。だが四天王は断る!」
とゲタンが主張する。
お前サ○エさん知ってるの?というツッコミは置いといて脱線しまくりの話を本筋に戻す。
「ビークのジジイはわしが子どもの頃からここで働いておってな、この作業場で遊んでいては怒られたものだ。」
「こいつは本当に子どもの頃から変わっとらん。クソガキのまんまじゃ。」
お互いに笑いながら昔話をする。本当に信頼しあっておるのじゃろう。
そんな話しをしながら、塩づくりの工程を見学する。大量の海水を大勢の男達で運んで、大きい鍋にぶち込んでゆっくり煮出す。海水の量が約10分の1ぐらいになったら固まった塩の結晶をそぎ取って、後は乾燥させれば完成じゃ。
簡単じゃな。この時一緒に、にがりもできるのじゃが、まあそれはいいか。長屋のような家に個室がかなりあって、その1部屋1部屋に大きな鍋が置いてあり、3~4人で作業している。
一通り見学した後ゲタンがビークに
「俺は前にも言った通り、この森の民をすべてまとめる。ジイさんは今まで通りに塩作りを頼む。」
「まあ、お前のやりたいようにやれ。わしは今までもこれからもやる事は一緒じゃ。森の民のために塩を作る。
そして…海に遊びにくる女子を眺めるだけじゃ…わしの仕事は眺めるだけじゃ…。」
遠くの海を眺める塩ジイ。
「そしてわしも、これからずっと眺めるだけじゃ…」
わしも便乗する。
「おい、ジューローはもっとお前にしかできない仕事あるだろ。絶対に眺めさせん!。海禁止だ。」
そんな雑音に耳を傾けず、爺さん2人一緒に並んで遠くの海を遠い目をして見る。
「眺めるだけじゃ…」
ジューロー急に老け込んでね?




