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第52話 禿げしく怒る

 「うおおおおおおおおおーーーーーーー」


 怒髪、天を衝く。

 怒っても逆立てる髪ないんですけどなどとツッコム余裕すらなく怒る。


 わしがこんなに怒ったのは記憶にない。

 小林 十郎として生きた78年間でも記憶にない。


 「小林さんの旦那さん優しそうだわ〜。怒ったことあるのかしら。」

 と近所の主婦連中にもちょくちょく言われていたぐらい温厚で優しいと評判だったくらいわしは怒ったことない。


 そんなわしが、ハゲと言われたぐらいでと思うか?


 若い時はまさか将来自分が禿げるなんてこれっぽっちも思わないんじゃ。


 じゃから気軽にハゲハゲとバカにする。

 波平さんをバカにするんじゃ。


 しかし、そんなバカにしていた自分が老いとともに禿げる可能性を知った時の恐怖!

 父親が禿げだった時の恐怖!


 若者はそんな恐怖がわからんじゃろう!


 しかもハゲにも色々あるんじゃよ。

 ●額の両サイドからMの字のように後退する通称M字ハゲ。

 ●後頭部から丸くはげてゆくタイプ。

 ●生え際の毛が抜けて、どんどん後退するタイプ。


 おおまかにはこの3つじゃが……


 想像してみい!

 たかが髪じゃが、されど髪じゃ。


 わしなんてふさふだった髪がいまじゃツルツルで1本もないのじゃ。


 1本ぐらい残すぐらいなら…みっともないから全部剃った方がいい!


 なんて言う奴は、持つ者の意見じゃ!

 持たざる者にとってはそれだけでも愛おしい…1本でも愛おしいのじゃ!


 だからこれを読んでいるいる方もぜひ、ハゲをバカにせずに労ってやって欲しいんじゃ。

 ジューローからのお願いじゃ…


 心の底からのお願いじゃ……


 「わかるか、お前等に俺の心の叫びが!わかるか、お前等に俺の毛根の悲鳴が!」


 尻餅をついている3人を鬼の形相で睨む。


 「人の外見をいじり倒して、弄びおって、人をぼっこぼこに傷つけるより質が悪いわ!貴様等は万死に値する。」


 3人は怯えまくり、泣きださんばかりの顔だ。


 「ひっひいいいいい…」

 おびえて声が出ず、悲鳴にも似た声が漏れ出る……


 そんな惨状を目の当たりにしてエメリは思った……

 長いこと禿げ講義を聞いたが何のことはない、八つ当たりだ。八つ当たり以外の何者でもないのだ。


 こんなに感情移入できない怒りは想像したことがないぐらい何も私の中に芽生えない…


 しかし、私にはどうする事もできない。

 本気になったジューローを止める事はできない。


 怒り狂ったジューローは今まさに赤い三連星に手をかけようとしたその時、後ろの茂みから岩のような巨体が突然現れ、ジューローめがけて突進してきた。


 怒り狂って全く周囲を全く気にしていなかったのであろうジューローはふいを突かれ、思いっきりガラ空きのボディーに巨体がめり込む。


 「ぺぎょーーーーー」と叫んで吹っ飛んだ。

 転がる。5mぐらい転がる。止まった…。


 ピタゴラスイッチのような一連の動きに、私は美しいとさえ思った。


 と、同時に次は私がやられる!と覚悟した。


 なんと、その巨体は立つと2mを超える熊だったのだ。


 もちろん、もう赤い三連星はすでにいない。

 そうなのだ、逃げ足の早い星達なのだ。


 たぶん赤い三連星という名はただゴロがいいから付けただけであろう。


 などと現実逃避をしている間にも熊はにじり寄ってくる。


 私は恐くて足がすくんで動けない…覚悟を決めて目をつむる。

 いや、覚悟なんて決めていない。

 恐いから…せめて目をつむったのだ。


 目をつむると肌に風を感じる。

 風で揺れる草の音が聞こえる。


 そんなまさに熊が私に手をかけようと伸ばした瞬間に!


 遠くから「つゥーけェーェェ」

 「おちつゥーーーーーーけェーーーーーーェェ」

 と間延びした声が聞こえた。


 目をそっと開けると目の前に熊はいなくジューローとたわむれている。


 しばらく状況がつかめず1人ポカーンとその様子を眺めていると、

 ジューローが私に気付き熊と一緒に近寄る、


 「エメリさんおびえなくても大丈夫じゃ。わしが以前手なずけた熊のシギンじゃ。久しぶりにわしに会って、ジャレて突進してきただけじゃ。ほれ、おとなしいじゃろ。」


 ……………………………………………………

 ……………………………………………………


 うそつけジジイ!がっつりやられて鼻血出てんじゃねーか。

 思いっきり腹にさっき突進してきた頭の跡がついてるじゃねーかよ!


 まあ、あのまま怒りに任せて赤い三連星に手を出していたらどうなってたかわからない。ある意味、熊のファインプレーか。


 朝から色々なことがありすぎて疲れた…

 今日は全然森の中を探索していないがもう帰ろう。

 そうジューローに告げると、熊のシギンを飼いたいといいだした。

 

 すでに背中に股がっているし。私も乗るように薦められたが断固拒否した。


 私は歩いて帰ろうとしたら……ジューローを背に乗せていたシギンが急に仁王立ちになり、ジューロを振り落とし、2足歩行で走って森に消えた。

 …………意外に早い。


 置き去りにされたジューロは、女座りで土だらけになった身体を払いながら、


 「ジジイサビシイ……」

 となぜか、カタコトでつぶやいていた。


 そんなジューローの背中がすすけて見えた。


 私は少しだけ…少しだけ優しくしようと思った。


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