第45話 エメリの家庭の事情
ヌル族出身 エメリさん。歳はセイムさんと同じ16歳。
外見はなかなかの美人さんじゃ。キレイな黒髪が背中まで伸びて、顔立ちもスッと鼻筋が通った美人さんじゃ。
ちょっと目が切れ長でつり上がっているからキツく見られがちじゃが…本当にキツイんじゃ。見たまんまじゃ…なかなかの毒舌じゃ…。
「ジジイ、何ジロジロ見てるんだ?あ〜〜ん。」
レディースじゃ。この世界にもレディースがあったんじゃ。怖い世の中じゃ…。
「レディースじゃね〜よ。なんなのか知らね〜けどよ〜ペッ」
…この世界の女の人は心を読むのか?怖い世の中じゃ…。
そんなプレッシャーにも負けず、わしは元気よく話しかけた!
「今日はいろいろ森の中を見たいと思うので案内を頼みますよ。」
「おう、じゃあさっさといくぞ。」
わしの前を歩き出す。
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道中ずっと無言じゃ…。
わしに全く興味を示さない…。
わしがもっと若ければ…いや歳をとっていてもよいのじゃ、もっとこう、ロマンスグレーの似合う渋めの爺さんじゃったら、エメリさんももっと興味を持ってくれたじゃろうに…。
そんな、ぶっきらぼうなエメリさんとわしがなんとか仲良くなるために考えに考え抜いた案がこれじゃ!
「おんぶ…ジジイをおんぶしてくれんかのう…」
いきなり初対面で唐突にちょっと甘えてみる。
ちょっとどころじゃないなこれは…最上級に甘えてみる。
「なんでおれが、ジジイをおんぶしなきゃいけねえんだ。」
「………………じじい寂しい。」
外見はジジイじゃが、中身は健康そのもの20代なので、本当は全然大丈夫なのじゃが…ちょっと甘えてみた。
「………………じじい寂しい。」
しつこく言ってみる。
しばらくイライラした顔で棒立ちしてたエメリさんが急にしゃがみ込んだ。
「しょうがね〜〜な。 おら、乗れよ。変な所触るんじゃねえぞ!」
やさしい〜〜〜〜〜〜〜〜〜い
本当は優しい娘だったんじゃ。ツンデレ娘発見!
わしの良心が痛む…嘘をついてまでエメリさんと仲良くなりたいと願ったわしの心が…よしここははっきり断ろう。
「だが…断る!」
わしは右45度の角度でかっこ良く断った。
自分からおねだりしておいて、潔く断ったのじゃ。
ダッシュで追いかけられました………………
200mぐらい全力ダッシュ。
「断るぐらいなら最初からお願いするんじゃね〜よ、ぜーぜー、ちょっとぜー、優しくするとすぐこれだぜーぜーから、男って奴は…」
全然息の切れてないわしは、いい笑顔でエメリさんに声をかける
「すまんかった。替わりにお姫様だっこしてあげるぞ!」
ダッシュで追いかけられました………………
照れ屋か!この娘はシャイニーか!
まあそんなんで、最初はギクシャクしたが、次第に打ち解けてきたのか、ちょっとずつ会話をしたりして森の中を歩き続ける。
「エメリさんは、16歳じゃったな。誰かいい人はいないのか。」
「いね〜よ。男なんていらね〜し。」
「もったいない。エメリは美人じゃのに、言い寄ってくる男も多いじゃろ。」
「ジジイどさくさにまぎれて呼び捨てかよ!まあ良いけど…いいんだよ男なんて。どうせみんな父親みたいなんだろう…母さんが…父親のせいで母さんがどんなに苦労したか…」
そう言うとエメリさんは少し涙ぐんでうつむいた。
「なんか複雑そうじゃな…わしに話してみろ。ちょっとは気が楽になるかもしれんぞ。」
「………………………………………………」
しばらくお互い黙って歩いた。
わしも無理して聞くような事はしなかった。
少し休憩するために川のほとりに座って、一休みしようと腰を下ろすとエメリさんがゆっくりと口を開いた。
「母親は若い頃からモッテモテだったらしい。よくジェニファー・○ペスに似てるって言われていたらしい。」
めっちゃ美人じゃな。
っていうかあんた達ちょくちょく地球の人でてくるけど…まあファンタジーなのでスルーする。
「わたしの父親は一時は狩猟のリーダーをしていたほど戦闘に長けた強者だったんだ…。
数いる結婚候補者を出し抜いて、母を射止めた父はそれからしばらくして、変わってしまったらしい…
私が産まれる前はもちろん、産まれた後も父は母を愛するあまり、狩猟に出ている間も母が浮気するんじゃないかと気が気でなくなり、次第に猟に出掛けなくなり、一歩も外に出なくったわ…
そんな父は家に閉じこもって何をしていたと思う?あいつは…あいつは…母さんや私に…あんなことを、あんな非道な事を…」
気の強いエメリの頬を一粒の涙が伝う。伝って落ちた涙は、跡も残さぬほど早く砂に消える。
息が乱れがちだったのが、落ち着いた頃をみはからい声をかける。
「つらかったのう…無理して言わんでええ。」
エメリは頭をふる。
そして決心したかのように目を見開いて、わしに向かって言う。
「あいつは…家にこもって母さんに…母さんに…幼児プレイを強要してたのよ!
あまつさえ、3日に1回はわたしにも強要してきたわ。オムツプレイとか。オムツプレイとか。
初めは嫌がっていた母親だったのに…途中からイキイキしてたわ。目がキラキラしてた。目ざめたのね…
キレイでやさしかった母親をそんな風にしてしまったあの父親が憎い!私は憎い!」
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その告白をじっくり聞いた後、わしは目の前の川に飛びこんだ。
一心不乱に上流を目指し、滝を駆け上がる。
半分くらい駆け上がった所で力尽き、落ちた。




