第39話 3人の誓い
今、わしと族長ゲタンとセコスの3人が部屋で座を囲んでいる。
残りの者は夕食を食べに、席をはずしてもらった。
沈黙を破ってゲタンが口火を切る
「まどろっこしいのが嫌いだから単刀直入に言うぞ、今までのようにネル族、ヌル族として住んでた地域で分けるのではなく、わし族長ゲタンの元で、わしを中心として森の民を1つにまとめるつもりだ。」
「冗談じゃねえ、それじゃあ俺らの部族がお前に付き従う…つまり吸収されるってことじゃねえか。」
セコスが吠える。
「そういう考え方しか出来ねえのか、そういうネル族・ヌル族っていう考え方自体をこれからはやめるんだ。もう意地の張り合いはやめて、森の民の一族という道を選ぶ時じゃねえか。」
ゲタンがセコスを睨む。
「はっ、上辺だけのキレイごとなんぞいくらでも吐ける。一緒になったとたんにお前が手のひら返さねえ保証はねえ。」
ゲタン、セコス、お互いの意見をぶつけあう。それはそうであろう。実質両部族のトップ同士なのだ。ネル族・ヌル族すべての民をしょっての発言なのだ。簡単に妥協はできない。
「セコス、お前にこれから森の民の展望はあるのか。俺に反対するばかりじゃあ、まとまるものもまとまらねえ。まだ20歳の若造だからそんなことまで考えたことはないだろうがな…。
先祖代々受け継いだ物も含めて、これからの基礎を今俺たちで築くんだ。俺たちが死んだ後も、次の世代に受け継いでいくためにも…。
だから、森に生まれた民として、森に死に行く民として、これからはお互いが手を取り合って俺たちの魂も、誇りも全部いっしょくたにして、生きていかなきゃなんねーんだよ。俺は、今がその時だと思う。」
セコスは苦々しい顔はするが、反論はしない。
しばらくの沈黙が続いた後……
セコスは無言で立ち上がると
「ちょっと頭冷やしてくるわ」
と言って出て行った。
出ていったのを目で見送ってしばらくして、わしは口を開く。
「ふがいない自分を責めておるんじゃろう。今まで考えた事も無い、いろいろな壁にぶちあたってのう…
実質的な族長とはいえ、まだ20歳の若者だ…この話合いも、セコスが成長するいい糧になるじゃろうて」
いままで沈黙を保っていたわしがセコスをフォローする。
「んで、ジューローお前はどう思う?」
「わしか? わしが口を挟んでよいか迷うが…わしは記憶を失っているとはいえ、今では森の民の一員じゃと思っておる。
ネル族の副族長としての意見としてならば…答えはノーだ。
結局ヌル族の族長ゲタンという男はわしらにとっては猛毒じゃ、森の民全員、毒にあたってやられて全滅してしまう可能性があるからのう」
お互いがお互いの目を見据えて、しばらくの沈黙する。
「しかし…1人の森の民としての意見ならば…答えはイエスだ。
異なる部族を1つにまとめるというのは、善くも悪くも猛烈な毒を持っているくらいじゃないと、なし得ることはできんじゃろうからな。
ゲタンお前にはその器はある。ただし、お前に森をまとめる以外の野望がない事が前提だがな」
ゲタンがニヤリと厭らしい笑いをする。
「は〜〜ん、野望なんてあるに決まってるだろう。両部族の族長になり、全ての森の民を俺の足下にひれ伏さしてやるって言ってるんだぞ。私欲、物欲の固まりだよ。この俺は。
みんなをおれの野望で振り回して、ゆくゆくはこの世界を俺の手でこねくり回してやりたいんだよ。」
ガハハハハハと大声で笑うゲタンをジューローは眺める。
すると部屋の奥から音も無くセコスが現れ、族長ゲタンの首もとに槍の先端を当てる。
「何いってんだ、そんなこと俺やお前の所の若い奴が許さねえぜ。俺達だっていつまでも子供じゃねえんだ、黙って従う奴ばかりじゃないんだぜ。」
「そうだ、お前たち若者には俺たち年寄りにはない未来がある。おれが道を間違いそうになったら、全力で止めにこい。それこそ俺が望む森の民だ。」
笑いをやめ、マジメな顔をして言う
しばらくの間、殺意のこもった槍をつき続けるセコスが槍の先端を引く。
ゲタンも気づいていたのだろうが、好きにさせたのだろう。セコスを信頼して。
ゲタンが右手を差し出す。
「さあ、ジューローお前も俺の、いや森の民の参謀として力を貸せ。嫌っていったらぶん殴るからな。セコス、お前は次世代の族長として俺の右腕になれ。そして俺をぶん殴ってみろ。」
ガハハハハハと豪快に笑う。
わしとセコスは目を合わせうなずく。
そしてわしらはゲタンの大きな手をにぎり、3人で高く掲げた。
これからが俺たちの戦いだ!
3人で外に駆け出した。
長い間ご愛読ありがとうございました。
すみません。嘘です。
まだまだ続きます。




