第36話 ジジイの展望
「やれやれ、老体にムチ打つとはこのことじゃ。もっとわしを労って欲しいもんじゃな〜」
と振り向いてチラッと上目使いでゲタンを見る。
その仕草が余計に苛つかせたようじゃ
「もとはといえば、ジジイが嘘つくからだろうが!」
「お主の期待が高すぎるんじゃよ。最初っからそこまで期待されては驚きが少ないじゃろうて」
「わかった、わかった、んじゃ聞こか、ほれ言ってみい」
ゲタンが鼻くそほじりながら指示をする。
かる〜〜〜。扱いかる〜〜〜。かるかるじゃ。カルガモ並みのかるかるじゃ。
まあいいや、話が進まないから。
「まず提案の前に、聞きたい事があるんじゃが、お主達は城下町の連中と交易を始めておったのか。いつからじゃ。何を交易しておるんじゃ?」
「おいおい、質問多いな…それ全部答えなきゃいかんか?まだお前らと協力するとはいってないんだぞ、提案次第だと言っただけで。手の内が知れるのはこちらが損だしな」
「何を今さら言っておるんじゃ。わざわざ、交易相手が来る日にわしらを呼んでおいて、あまつさえ、その交易相手をわしらに紹介したんじゃ、お前さんは最初から計算ずくだったんじゃじゃろ?」
「ほう」
ゲタンはあごひげに手をやり、ニヤリとする。
「最初にそちらが手をさらした上で、それを含めた案をわしに出せという事じゃろう。
つまり、お前はわしをネル族の副族長という立場じゃなくてヌル族、ネル族の参謀としてかってくれてるという事じゃ。」
「ふふん、ずいぶん自己評価の高い分析だな」
ニヤニヤする。
「全く、よくも素性の知らないジジイにここまで目をかけるもんじゃお前は。確かに大物か、大バカ者じゃて。」
「ぐははははは、さすがジジイだな。こちらの意図をすぐ汲みよる、便利だな。どこらへんで気づいたんだ?」
「城下町の商人がわざわざ族長の来客中にズカズカ入ってくるわけなかろう。例え、我々森の民を蔑んでいる奴だとしてもな。お前はそれを咎めることもしなかったしな。
たぶん、わし達が家でくつろいでいる間に商人達を出迎え、荷を下し始めたら家に来るようにでも
伝えておったのじゃろう。だからお主は遅れてきたのじゃ。そうだろう?」
「ぐわっははははっは。」
ゲタンが高笑いする。
「交易が始まったのは1、2年前からだ。あのネズミは城下町の一商人にすぎん。まあ、わしら森の民と交易しようっていうもの好きなんか、めったにいないからな。
さっきの質問の交易品目はこちらの品は、
●じゃがいも●毛皮、牙など素材●獣肉の干し肉●編みかご、ゴザ●におい袋だ。
商人の品は
○とうもろこし粉○砂糖少々○豚・鶏の肉○布○加工品などまあ、その都度違うんだが、今回はこんな感じだ」
ふんふん、こちらは素材ばかりを出して向こうで加工された品と交換かと思いきや、まだその段階ではないのかのう。まあ、まだ交易を始めて1、2年なら探り探りだろうし…
向こうの生活水準がまだ分かりかねるが、そんなに森の民と大きな差はないんじゃないかな…多少珍しいものや、加工品があったとしても。
これなら、森の民の生活の質を向上させてやれるかな。わしが言うのもおこがましいが…
「だいたい、わかった。今度はわしの案を聞いてくるか。」
わしは正座をして、ちゃんとゲタンと真正面から向き直る
「1番の優先事項は森の民の身体の向上じゃ。まだ、わしがこの世界に慣れてはいないとはいえ、
森の民の主食はじゃがいもや、果物、あとたまに食べる獣肉のみじゃが、これでは栄養が偏ってしまう。見た所、ネル族では身体の弱い者がかなりいた。すぐに病気になったり、ケガをしたりと。それは食生活が改善されればすぐに良くなるのではないかと思う」
「栄養が偏ると知らん言葉だが、よくないという事はわかる。じゃあ何を食べたらよいのだ」
そこで、これじゃ!指をパチンと鳴らすと、先ほど席を離れたセイムさんと数人の男達が手に器を持って運んできた。
「なっこれは…」




