第28話 隠れん坊の勝敗
なんと父スブムだった。
「なっ何してんだよ、親父…ま、まさか……」
「い、いやこ、これは…違う!違うぞ!」
何かやましい事があるのか、どもりまくりだ。
暗闇に薄ら見える親父の驚いた顔についカッとなり、腕を振りあげると、その腕を後ろから掴まれる。
だれもいないと思っていた背後から掴まれたのにギョッとして振り向くとそこには…
「ジジイ・・・何でここに」
「セコス見〜〜つけたのじゃ」
窓から入る青い月明かりに照らされた顔下半分、口元がニヤリと笑う。
夜目に慣れ、部屋をよく見ると、妻の両隣には母さんとセイムが付き添っている。
部屋の隅にはレイク、リイナがすやすやと寝息をたてて寝ていた。俺は久しぶりに帰ってきた高揚感と、疲れで頭が回っていなかったようだ。妻との話声が、知らない男との1対1の会話に聞こえて冷静さを失ってしまったようだ。
「セコスさんがまだ帰ってきてないと聞いてのう、わしとの勝手な勝負で奥さんを一人寂しく待たせるのは申し訳ないという事で、奥さんに頼んで一緒に楽しく過ごさせていただいてもらってたのじゃ。」
驚いた顔をしていたセコスは、話を聞き終わって疲れた顔でため息をついた。
「結局おれはジジイを出し抜いてやろうとあれこれ手を回したが、最初っからジジイの手の上で踊らされていただけという事か。」
「いや、あんたは予想以上に用心深く、そして思慮深い。今回はたまたま、わしの作戦勝ちだっただけじゃ」
「はっ、俺がジジイを試してやるつもりが、おれが試されていたのかよ。食えねえジジイだ、今回はおれの負けだ。認めてやるよジジイ。」
家族全員が安堵の顔を浮かべる。
「いろいろ言いたいこと、聞きたい事はあるんだが…とりあえず眠たいので寝ていいか?」
と聞く前に妻の横にごろんとなっていびきをかいて寝てしまった。狩りのリーダーとはいえ、まだあどけなさが残った可愛い寝顔だった。
セコスを起こさないように寝ていたレイク、リイナは預かってもらいわしらは族長の家に帰って寝る。
※※※※
次の日の朝わしが寝ている倉庫の扉が勢いよく開け放たれる。残念なことに、跳ね返った扉が開け放った者の後頭部を強打し、地面に食い込み気味に突っ伏した…
その男は、何事もなかったように立ち上がり服装を正すと、
「わざわざ来てやったぞ、ジジイ!」
セコスじゃった。
…おいセコス!右から鼻血出てんじゃね〜か。父親の登場シーンと一緒じゃし…全然かっこよくないぞ!
その後、族長の家でセコスの奥さんも一緒に家族全員で朝食をとる。
そこでわしはセコスに、セイムさん達と知り合ったいきさつ、副族長を引く受けた話、ヌル族の族長ゲタンの話などを説明した。
「ふーん、それでジジイ何も覚えてないのかよ。名前以外。」
「そうなんじゃ、ジューローさんと呼んでいいぞ。」
「んでジジイあと4日後に迫ったヌル族の族長ゲタンの提案どうするんだよ。」
「そうなんじゃ、ジューローさんと呼ばしてやろう。」
「あのゲタンの親父は強いからな〜俺でも全然かなわねえよ、力では。」
「そうなんじゃ、ジューローさんと呼べ。」
「ジジイなんか策はあるの…」
「ジューローさんと呼べや〜!」
わしは今までずっとスルーされてきた怒りをぶつける。
「しつこいな、ジジイでいいじゃね〜かよ。おれはまだ全部は認めてないんだよ。これでも大分譲歩しただろ。」
「呼んでくれないんじゃ…だれも…」
「えっなにが?」
「みんなワシの事を仙人さまって呼んで、ジューローって呼んでくれないんじゃ…」
「いや、仙人さまの方が敬ってくれてる感じがしていいんじゃないの?」
「距離感じゃ…距離が離れている感じがひしひしと感じられてジジイ寂しい…」
上目使いで見る。
「気持ち悪いんだよ、何が寂しいだ」
「ジジイ寂しい…」
上目使いで言う。
セコスが目をそらすと奥にいた父親と目が合う。上目使いで
「族長も寂しい…」
とボソッって言ってたのが聞こえたが無視した。
しばらくすると根負けだというように両手を広げてすくめてみせたセコスが
「それでジューローは何か策はあるのか?」
「その事についてみんなにいくつか提案があるんじゃが…意見を聞かせてもらってよいかのう。」
みんなを一度見渡し、最後にセコスの顔を見て勝ち誇ったような顔でニヤリと笑う。
それが、なぜか自分が負けたような気がしてイラッとしたセコスが舌打ちをする。




