第254話 眠り
残り5話
「ぎゃあああああああああああ~~~~~~~~」
その静かな広場に獣の咆哮のような叫び声が響き渡る。
「なに…なぜ…。」
短剣を振り下ろし、突き刺した王様は驚いた。
なぜなら…
突き刺されたのはわしじゃったから…てへっ☆
わしは王様がスペードの胸めがけて振り下ろした短剣を、とっさに右腕で防ごうとして伸ばしたのじゃったが…ここで誤算が。
さっきまでのわしは神素に覆われて物理攻撃はすべて効かない状態だったのじゃが、今は…元のジジイの姿に戻っておる。ショック!まあジジイに戻っているショックももちろんあるのじゃが、刺さっておるのじゃ!わしの腕にブッスリと短剣が!……グロっ!
〈さっきの憎悪を散らすために神素全部つかっちゃたから、ジジイに戻ってるよ〉
リイナがさらっと言い流す。…もっと早く言って欲しかった。
「ジジイ…なぜ庇う…どうして…」
王はそんなわしの行動に驚き、わしに問いかけようとしてたのじゃが、途中で止める…なぜなら…
「いたたったたたたたたたた~~~~痛い痛いよ~~~痛いのじゃ~~。」
わしがあまりの痛さに七転八倒、転げて転げてのたうち回っておるのじゃ。
いや、シャレにならんよこれ…痛いなんてもんじゃないよ。
普段のわしなら、紙で切った傷程度でも世の中をぬっ殺したくなるぐらいの痛がりなのじゃ…それがもう突き刺さっておるのじゃよ…腕に…垂直に…。
ぐおおおお、わしは恨む…この世をこの世界の全ての人を~~~~山田卓許すまじ!
〈おまえが黒幕張ってどうする!ドス黒くなってどうする!〉
とリイナがツッコム。
「だって痛過ぎるのじゃよほら…こんなに血が血が~~~~~」
〈うるさいな~、もう痛くないでしょ。ほら、わずかに残った神素の絞りカスで傷口を直しておいたから大丈夫でしょ!〉
「カス言うな…カスって…。あれっ本当じゃ!傷が治ってる!痛くないぞ~~!」
と年甲斐もなくはしゃいでいると王がポカーンと口を開けてみておる。
そうじゃった、リイナと脳内でしゃべっておったから他の人からみたら単なるボケ老人の一人芝居にみえるのじゃった…どうしよう…。
しょうがない、あのギャグしかない!いくぞ!!
「なぜ…なぜスペードを殺そうとしたのじゃ…きりり!」
男前な表情で凛として王に問いかける。
必殺なかった事にする作戦じゃ!さあ、華麗にスルーしてくれい!
「いや、ごまかせてないよジジイ。自分でキリリって言っちゃってるし…ボケちゃってるの?」
あっすんごい哀れみの表情じゃ…。
※※※※
王はわしにスペードの事を語りだした。
王城を飛び出し普通の商人と駆け落ちした自分の姉の息子の事を。
盗賊に襲われ不遇の少年時代を送った事を。
12歳になった時にやっと見つけ、自ら助けた忘れ形見の事を。
その後ずっと忙しくて構ってやれなかった事を。
今までの後悔を一介のジジイにすべての心情を語ってくれたのじゃ。
うん、知ってた……
スペードの深層心理ですべて映像付で見てました。
しかも王様側、スペード側の心情もすべて。2方向から。
すべてを聞き終わった後、わしは王に声をかける。
「それで殺すのか、せっかく救った命を。お前の手で…。」
「俺だからだろう。こいつの命を救った俺だからここで決着をつけるんだ。俺はこの国の王だ。スペードだけでなく、この国で生きるすべての民の父でもあるんだ。だから殺す。この国の敵となったこの男を俺は私情をはさまず殺す。」
王は眉間に皺を寄せ、苦しげな表情で語る。
しばらくの沈黙後わしは王に声をかけた。
「お父さん……。」
「だれがお父さんだ!ジジイお前俺より年上だろう!」
「いや、さっき国民すべての父って言ってたじゃろ?だから言ったのに」
「ジジイは断る!断固として断る!」
若干寂しい思いをしつつも話を進める。
「このスペードの事はわしに一任してくれんか。今コイツはすべての体中の膿を全て出し尽くしてものけの空じゃ、この体は抜け殻なのじゃよ。
殺さずとも死んだも同然じゃ。」
「殺さないというなら、どうする気だ?」
「うむ、わしはこいつを仙人にしようと思う。」
「仙人にだと?」
オカタ山に住むと言われている仙人は会おうと思っても会えないという。霧が立ちこめて元の場所に戻ってしまうという。実は前に調べた時にアイ=リイナさんが言っていたのじゃが、そこにエネルギー溜まりがあり普通の人では入れない歪みの様なものがあるのじゃ。そこをスペードの居場所にしようと思う。
スペードの体は抜け殻じゃが、深層には生きたいという小さな願望があった。それが残っていたのじゃ。歪みの中でならそのエネルギーを使って普通に過ごせる。そして意識だけならわしらの世界にも飛ばせるのじゃ。つまりその歪みに入っておけば、例えまた邪な考えを起こしても、物理的な危害は及ぼせないというメリットもある。
「しかし…意識だけとは…」
「今までスペードは人間の裏側、嫌な部分ばかりを見て生きてきた。今度はもっと人間らしい喜びや悲しみを感じて欲しいのじゃ。意識だけとはいえ、人を近くからいままでとは違った視点で感じて欲しいのじゃ。そして生きたいという思いが高まればスペードは目ざめるじゃろう。
今度は何者でもない1人の人間としてな。」
「…わかった、待とう。スペードが再び俺達の元へと帰ってくるのをいつまでも。」
王は横たわるスペードを見て少しだけ重荷が取れた様な笑顔を見せたのだった。
次は23時投下します




