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第249話 回想

ラストまで残り10話!

 救われたスペードはその後3年は何もせずに過ごす。


 王族として王城で生活をすることは許されなかったが、城下町の一等地の家で護衛兼従者としての使用人3人と生活をする。


 生活の面倒などの費用は王が全てみてくれたので、3年は何もせずに過ごせた。というより何もする気などおこらなかった。


 毎日、1日中庭でひなたぼっこをし夜は早く床につくだけの生活。


 一応世間体には、地方の大富豪の息子が病気療養の為に過ごす館だと説明してはいたが、城下町の口が悪い人達は王様の隠し子だと噂しあった。


 スペードは地下を好んだ。季節、昼夜問わず石畳の部屋は暗くヒンヤリとして、ジメジメとした懐かしい感覚。奴隷として過ごした7年間をそうやすやすとは変えれない。地下室でゴロンと寝転がり、冷たい石畳で体を冷やすととても気持ちが落ち着く。毎日のように地下室へと籠る時もあった。


 周りには常にボーッとしているようにみえていたようだが、ひなたぼっこしている時も、食事中も、地下室に籠る時も頭に浮かぶのは疑問だけだった。


 “どうして自分は生きているのだろう”

 “どうして自分は生かされているのだろう” 

 ということだけだった。


 王族だった母親のおかげで何不自由なく暮らせてはいるが、母親が王族だったせいで狙われ、蹂躙され長い事地獄を味わったのだ…。


 そしていつも頭に思い浮かぶのは、あの父や母を自分の目の前で殺した盗賊の男…。その男は母親の弟である王子が探し出し、まっ先に殺してくれたらしいが、できれば自分がその男を、この手で弄びながら殺したかった。

 

 長い間苦しめられたこの思いを、その男を殺す事で晴らしたかった…。


 いや、晴れるのだろうか…。本当にその男を殺せばこの心のわだかまりは晴れるのだろうか…。

 すべてを諦めていた時には何も感じなかった思いが命を助けられて、地獄から解放された今ふつふつと沸き上がる…心の底から憎悪というマグマが沸いて吹き出してきているのだ…


 その男だけではなく、盗賊仲間達、娼館で働く者達、それを買う人達、町を行き交う人達、城下町で過ごす人達、王城で過ごす人達、そして王族ーーーーすべての者達に沸いてくるこの感情。ドス黒い自分が、自分でなくなる感情が溢れてくる。


 “自分は自分以外の人すべてを嫌悪する。”

 “自分は自分以外の人すべてを憎悪する。”

 “自分は自分以外の人すべてを厭悪する。”


 “そうだ、自分以外の人すべてを自分がされたと同じように蹂躙しよう!”




 4年目に自分は外へ出る。

 積極的に外へ出て、世の中の仕組みを勉強し、あらゆる人達と交流を持った。


 それは皮肉にも奴隷時代に生き残る為に身についた処世術を使ってーー

 決して自分の気持ちを出さずに、表情を変えずに、明るく清廉で誰からも好かれる道化を演じきる力を使ってーー


 少しづつ少しづつ力を蓄えていった。


 一度ネズミという、いかにも小猾い顔をした小物の商人にもの珍しさと好奇心から森の民の村に付いていった…。


 そこで自分は母親にそっくりな女性に出会った。

 それがセイムさんだった。


 すぐその場で交際を申し込んだが、小汚いジジイが邪魔をしてなかなかセイムさんとは会話できなかった。


 もちろん目的は忘れてはいなかったが、世界を蹂躙する前にこの女性と結ばれたいとも思ったのだが…


 森を離れた4日後、我が家の地下室であの男と出会った。

 ラ・メーンことモベだ。


 奴は言葉巧みに俺に近づいて力を引き出そうとする…意識を貸せと。


 だが、俺は拒み続けた。

 確かに能力は魅力だが、奴に意識を乗っ取られてまで復讐を遂げようとは思わない…。俺の手で成し遂げてこその復讐なのだ。


 モベは諦めるかとおもったのだが、それからはなりを潜めジューローというジジイがいかに恵まれた奴なのかをポツリポツリと俺に語りかけるようになった。


 話の内容は信じがたい様な話ばかりだった…転移、生まれ変わり、チート能力などなど。しかし俺は次第にそのジジイに興味を持ち接近することにした。


 商会を立ち上げ、アルゴス二世に頼みネズミ失脚後の森の民との交易の専売を頼み、つながりを持ち交易と同時にジジイをつぶさに監視させた。どんなささいな行動も包み隠さず報告させた。


 そして出来たのが、ジジイ交換日記だ。

 俺と監視している裏部隊の当番とのやりとりが書かれた日記だ。

 そのほんの1部、ある日の日記を公開しよう。


 ーーーー監視35日目

 夜ジューローはまた夢遊病者のように月明かりの広場でたたずむ。

 こんな真夜中にたたずむジイさんを、監視するオレっていったい。

 本当にこんな事をしていてもいいのか?と悩む今日この頃。


 しばらくして、その場に倒れる。じっと監視する。

 すっと起き上がり、何事もなく家へと戻る。

 

 …このように、たまに月明かりの夜に寝ぼけて外に出る時があるが、

 夜は縄で縛っておいたほうが家族は安心だと思うよ。


 ーーーーーーーーーーーーーーー

 今日も1日監視ご苦労様。

 毎日ごめんね、夜遅くまで。

 これからも体に気をつけて仕事頑張ってください!

 スペードより


 …………………………………………

 ジューローじゃ…。

 今、スペードの深淵にいるジューローじゃ。


 あまりにもマジメな話ばかりだとつまらんから

 最後にちょっとかましてみたのじゃ…


 日記の内容もたまに監視者の愚痴や悩みなんかも書いてあってなかなか読み応えのある日記じゃった。それに1つ1つ丁寧に応えるスペード…


 優しいのか非道なのか…いや、もしも目的を達成する為にはそういった部下のケアなどの細かいところまで目が届いておるとしたら…恐るべき執念を感じる。


 他にもあんな事やこんな事が書かれておったのじゃが…それはまた次の機会にでも…。


 そんな機会はない!


 というわけであと少しだけスペードの回想編はつづくのじゃ。

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