第248話 潜る
1人1人に刺して繋がっている、細く縄のように伸ばした神素をスペードの胸に突き刺す。
「グアッ…ググググっっっ」
わしは思わずうめき声をあげたが、歯を食いしばって踏ん張る。
まるで電撃をくらったかのような衝撃をうけたのじゃ…。
先程までの村人達でも静電気くらいの衝撃はあったのじゃが、スペードのは桁が違う…。
あくまでもイメージで感じないはずなのにこれは…。
スペードに突き刺した神素からどんどん流れだす記憶はーーーーーー
それは、濁流でさえ飲み込みような大きな波がわしに襲いかかる。
黒よりも深い黒い闇に飲まれていく……。
リイナがわしを呼ぶ声もだんだんと遠ざかって、次第に聞こえなくなる。
深く深く底の無い沼のようなヌプっとした感覚で落ちていく。
暗い闇に…。
落ち続けていく…。
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スペードは城下町から遠く離れた町にある個人商店を営む父と、リンクスという母親の間に生まれた。
幼い時から、端正な顔立ちで町でも評判の美少年だった。
家族3人笑って日常を過ごしていた。
平凡な毎日だった。
悲劇は彼が5歳の時に起る。
父親が営む商店とその町のトップの商会がトラブルをおこしたのだ。その商会が雇った盗賊くずれのならずもの達にスペード一家は蹂躙される。
それは…ここでは書き表せないほどの蹂躙。
R15指定ではないから書けないほどの蹂躙。
父親と母親はスペードの前でなぶられ、いたぶられ殺された。
その後スペードは…ならずもの達に肉体的にも精神的にも犯され、慰み者として奴隷として身を落とし12歳まで過ごす。生き地獄を味わう。
スペードはその時にはもう、すべての希望は捨てていた。
スペードはその時にはもう、すべての感情は捨てていた。
スペードはその時にはもう、生きる事を諦めていた。
その時には……。
地獄を抜け出す日は突然きた。
ずっとたらい回しにされてきた娼館、その娼館は着いてから2カ月くらいしか経っていなかったのだが、国の兵士に皆殺しにされたのだ。娼館で働くすべての者達が皆殺しにされた。
スペード以外殺された……………。
そこでスペードに手を差し伸べた男が、現ペラスゴス国の王、アルゴス二世だった。
当時はまだ王に就任する前の王子だった。
アルゴス二世は呆然と空を眺める虚ろな目をしたスペードに手を差し伸べながら
「生きろ」と言った。
「今日からすべてをやり直す日だ」とも…。
そう言ってスペードを地獄から救い出したのだ。
スペードの母親リンクスはアルゴス二世の5つ歳の離れた姉だった。
城下町で知り合った男と恋に落ち、駆け落ちしたのじゃった…王族の身分を捨てて。
父親である王は娘の事を気にかけてはいたが、無理矢理には引き戻そうとはしなかった。
しかし、それが災いの元になるとは思いもしなかった。
反王国の一味にリンクスの素性がバレて、王国に半旗を翻すコマとしてその身柄を確保される計画だったのだが…確保を命じられた商会が雇った者達が暴走…蹂躙して殺してしまう。
それを伝え聞いた王が激怒し、その計画に携わった者達、一族すべて法にて裁かせずに裏で処理させる。王子であるアルゴス二世はその作戦に志願し、姉の仇を射つために奔走する。
作戦中に姉の忘れ形見であるスペードが生きている事を知り、必至に捜索するもなかなかと手がかりが掴めず、事件のあった日から7年もの歳月が過ぎてしまう。
スペードを見つけた娼館は、反王国一味が隠れ蓑にしていた娼館だった。
だから皆殺しにしたのだ…。姉が殺されて7年、自分の怒りはまだ鎮まらぬ…。
何百、何千の者達を殺したが、まだ鎮まらぬ…。
この怒りは、悲しみは鎮まる時がくるのだろうか…。
そう思っていた時にスペードと出会った。
全てを失い、感情を失い、生きる気力も失ったスペードに。
初めて見た時からずっと思っていた。
スペードは死にたがっていると…そんな彼にかけた言葉が…
「生きろ」だった…
まだ幼い容姿にほんのわずかに姉の面影を残すこの子供と共に自分も今日から一緒にやり直そう…そう誓ったのだった。
スペードから流れて来る映像に溺れながら、いつのまにかわしは王様であるアルゴス二世に感情移入してしまっていた。スペードの視点だけではなく、王様の視点で…
…っておかしくね?途中から王様の視点が入ってたんですけど…。
ひょっとしてさっき繋いだ兵士達の中に王様も潜んでた?
タマちゃん?




