第247話 繋ぐ
わしは最後の戦いに向かう。
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「で、わしはどうすればいいのじゃ?」
〈ズコーーーーーっ〉
「おっわかりやすい擬音じゃな。こけたのか?こけてくれたのか。」
〈そうよ、先人の知恵よ。感謝しなくちゃね☆てへっ〉
「☆てへっじゃなくて、どうすればいいのじゃ、わし?」
〈…指先から糸を出すイメージで神素を出してくれる。〉
「えっ?」
〈その糸を黒い憎悪に覆われている人達1人1人を通して最後にスペードを通してジューローの胸に繋がるイメージで!〉
「地味!なんか地味!もっとこう…あの空に溜まっておる憎悪が濃い濃度になって人形になって戦うだとか、黒く覆われた森の民が操られてわしに襲いかかってくるが、わしが葛藤と共に涙をのんでみんなやっつけるっていう最後の戦いじゃないの?派手に?」
〈知らないわよ、地味とか…。〉
「前回の終わりからわし、“最後の戦いに向かう”…とかいっちゃてるのに、今から一人一人に糸を通すの?わし……地味!」
〈…いいわよ!じゃああの空の憎悪に向かってかめは○波みたいいに打ちなさいよ!打ってもいいわよ、別に。すぐに霧散しちゃうだけで何の効果もないけど…だけれども確実に訪れるわよ、ジューローに死が…〉
「よし出そう、すぐ出そう!わし糸みたいにすぐ出すからのう!」
〈最初からつべこべ言わずに出せばいいのよ。はよっ!〉
「何かリイナのイメージとはほど遠くなってしもうたのう…お前さん…。」
文句を言いながらも、細い糸をイメージして指先を倒れているマブシに向けると…
おおっなにかぼやけて光る線のようなものがわしの人差し指の先から出てきた。神々しいな…これが神素か…。それを伸ばすイメージでマブシに突き刺す。
すると…
【まったく、役にたたねえ無駄飯食らいが!】
【毎日毎日ブラブラして!ちょっとは働きなさい!】
【肩身の狭い思いをするのは母さんなんだよ!】
「うおっ!」
わしは思わず声を上げる…。
マブシに神素を突き刺すと同時に電気に打たれたようなビリッとした感覚が…そして何だこれは……。
〈たぶん、マブシの負の感情が表に現れているのね。憎悪まではいかないけど〉
マジか…黒い憎悪の固まりがそれぞれにまとわり付いて、今までの負の感情を増幅しておるらしい。その断片がわしの中に流れ込んできている…。しかも映像付で…。
先程の映像はマブシがわしらと戦う前…森のはみ出し者同士でたむろっておった時に両親に言われて落ち込んだり傷ついた時の負の感情じゃった。
…これはキツイのう。わし今からここにいる全員分、体感しないといけないんじゃろうか?こんなに負の感情をあじあわなくてはいけないんじゃろうか…。
〈そうだよ☆大丈夫大丈夫!〉
「…軽く言いおって…。わしナンセンスなんじゃぞ!」
〈………それを言うならセンチメンタル《感傷的》でしょ…。なによナンセンスって………耳まっっか。まさかのマジ間違いなの?www〉
「…軽く言いおって…。わしセンテンススプリングなんじゃぞ!」
〈…あくまでもボケで押し通すつもりね。センしか合ってないけどね。センしか〉
そうボケつつもわしは次々と倒れている者達へと神素を繋げていく。
その度に体に電流が流れているような感覚と共に頭には映像が流れてくる。もちろんフルカラーで音声はドルビーサラウンドで臨場感抜群じゃ!
…いい内容ならいくらでもOKなのじゃが、さすがに悪い感情のみのオンパレードじゃと堪える…。心臓が締め付けられるようじゃ…。
〈普通の人ならとっくに発狂しているでしょうね。だけれどもジューローは今、超越した状態なのよ。気のせいよそれは。その感覚・感情は全て気のせい。〉
「気のせいって…実際に苦しいのじゃけど…。」
〈ジューローがそう思いたいだけなのよ。人としての感情を失ったわけではないけれど人としてこう有るべき…いや、こうでなくてはならないと思い込んでいるだけよ。ほら…力を抜いて…何も考えないように…無に…〉
リイナの言うように、わしは体の力を抜いてすべての感情を受け入れる。
するとどうだろう、今までわしの中に入ってきた情報は濁流のように荒々しくわしの体を通り過ぎていたのが、今では川のせせらぎくらいのように感じられる。
〈ねっ言ったでしょ。そのまま受け入れて…すべてを。〉
わしは神素をどんどん倒れている者たちに繋げていった。
今はせせらぎくらいに感じる負の感情は、人によって違うように思う。
人の感じ方によって同じ出来事でも傷の深さが違っているのじゃ。こんな時に不謹慎じゃが実におもしろい。
わしは地球で78歳で亡くなった。もちろん楽しいことも、悲しい事も、辛い事もたくさんたくさんあったのじゃ。
だが、今思うと全て同じだったと思う。すべて平等じゃったと思う。
例え本当はうれしい事、悲しい事に隔たりがあろうとも、
日常の出来事を楽しくするも楽しくなくするも機会はすべて平等じゃったと思う。
すべて自分次第じゃったと思う。
自分の考え方1つで良くもなり、悪くもなる事がたくさんあったと思う。
この異国…異世界にきてそんな事に気づかさせられるとはのう…。
ふふふっおもしろい。実におもしろい…。
〈何笑っているの?こんな時に〉
「いかんいかん笑い声が漏れておったか…いや何…人間という生き物はどこの世界でも一緒じゃなと思ってな。」
とうとう最後に残るのはスペードだけとなった。
わしは少し躊躇した。今この場で生きているか、死んでいるかわからんスペードに神素を繋げる事を躊躇した。こんな騒ぎを起こすまでに増大したスペードの憎悪…胸中は果たして…。
わしは意を決して神素をスペードの胸に突き刺した。




