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第242話 前兆

 「んっ」


 「どうかしましたか?主様」


 「死んだ。今ジューローが死んだ。」


 「えっ………そうですか…。」

 「なに?なに?どしたのミカ。」

 

 「ジューローが死んだそうよ、ミチ。」

 「えっ…そうかぁ…死んじゃったのか…。」


 2人のツインテール少女はそう言って肩を落とすジェスチャーをして姿を変える。今度は男か女かもわからない…いや、人ではない何かの形に…。


 「いいやつだったのになぁ~…ジューロー。ねえミカ」

 「そう?わたしは別に…。だけどあのツッコミがもう聞けないとなると少し寂しい気もするわね…といっても少しよ、ほんの少し…本当よミチ。」


 「またまた~ミカは素直じゃないな~~」



 二人のやりとりを眺めながら主はコロニアル洋式のようなアンティークな椅子に腰掛けアゴに手を置き、考える振りをした。


 しばらく考えた振りをした後、1言つぶやく。


 「人に殺められし有資格者は、資格者どころかすべてを失う。彼はこれから漂い続けるのだろう。」


 「…悠久の時を待つ身としては…残念だ……。」

 そして静かに目を閉じてまた考える振りをする。



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==============プッ===============

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二人のやりとりを眺めながら主はコロニアル洋式のようなアンティークな椅子に腰掛けアゴに手を置き、考える振りをした。


 しばらく考えた振りをした後、1言つぶやく。


 「人に殺められし有資格者は資格者どころかすべてを失う。彼はこれから漂い……」




 「なに!まさか…」

 主は勢い良く立ち上がり、その衝撃で座っていた椅子が横倒しになる。


 ミチとミカはお互いの顔を見合わせてキョトーンとした顔をする。

 主様があのように狼狽した姿を一度も見た事がないからだ。


 生まれて…そもそも私たちに生まれがあったのかどうか定かではないが、生まれて初めて見たのだ。このような主様を。


 そんな2人をよそに主は立ち上がったまま考えるふりをする。


 「この俺の領域まで犯すとは…いったい…奴は…」


 そうつぶやいた主はオランウータン村の位置をみやる…




※※※※



〈スペード目線〉


 あっけいないものだーーーーーーー

 いざ実行するとあっけないほど、すぐに終わった。


 何事も実行に移す前、計画の段階が一番楽しいものだなと思う。

 ああしてやろう、こうすればいいのではなどと頭の中で想像するのだ。

 想像ならばたいていの事はできる。


 何でもできる。


 多少の罪悪感があるかなとも思ったが、特になにもなかった。


 目の前に…この激しい雨の中泥だらけの水たまり、血だまりに伏せて背中から金属の棒が突き刺さっている男を見ても…


 何の感慨もわかなかった。


 「こんなものか…」

 だれもいない中1人つぶやいた。


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==============プッ===============

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 「打つ手なしですね…。じゃあもう殺しますね。」


 おれはにっこり笑って指をパチンと鳴らした。


 するとジューローはその場で放心したように惚ける…。

 心ここにあらずといった感じだ。


 これは俺の能力“幻想偏頗げんそうへんぱ”だ。


 ある環境においてのみ発動する能力で、強い幻覚を見せる事によって自己のもつ思い込みの力を増幅させるだけの能力。催眠術とかではない。


 これが俺がモベを受け入れた事によって得た能力だった。初めは俺はハズレな能力ぐらいに思っていなかったが、モベが興奮気味で俺に教えてくれた。


 「使いようによってはとんでもない能力になる」

 と言っていた。


 人間の思い込む力というのは凄まじいものがある。

 それは人間の生死を左右することも可能だとモベは言っていた。


 モベから聞いた一例では、熱く熱した金属を背中にあてると言って、実際には冷たい金属を当てただけなのに火傷をするという例や、この植物を触るとかぶれると言って無害な植物を触らせてかぶれたりしたなど思い込みの症例を色々と聞いたが、


 その中で一番興味が惹かれたのは思い込みによって死んだ男の話だった。


 ある医師が目隠しをして横たわった死刑囚の手首と足首にメスをあてがって、実際には切ってはいないのだが、傷口にあたる場所にはゆっくりと水滴を落とした。

 しかし死刑囚はそれを血だと思い込み、数時間後、多量の血が流れていると思いこんで死亡したという。


 他にもモベは俺に色々な力の使い方を教えてくれた。


 そんなモベは今では俺に取り込まれてしまっているが(笑)


 まあ、かっこ良く言うなら俺の中で永遠に生き続けるであろう彼は(笑)


 そんな能力を今、目の前にいる男、ジューロにかけた。


 今頃彼は幻をみているであろう。オランウータン村が燃える中、次々と家が燃え、崩れ、消し炭となり、そして最後はーーーーーー


 大切な人が奪われる。


 目の前で自分の大切な人が奪われる。

 

 それで少しは俺の気持ちが晴れるのだろうか。

 オレだけでなく、ジューロー…いや、この国すべての奴にその思いを味合わせてやって俺の気持ちが晴れるのだろうか。


 わからない…。

 わからないが、どんな気持ちになるのかもうすぐわかるであろう。

 目の前のジューローを殺せば。


 俺はあらかじめ特別に作っておいた金属の棒を手に握る。

 この棒の中は血が流れやすいように空洞にしてある。

 より殺傷能力を高めた構造だとモベは言っていたな…


 もう1度ジューローの顔を見る。


 惚けた顔をしているが…今頃俺のかけた幻で大切な人を殺されている所であろう。今度は本当に自分が殺されるとも知らず…


 金属の棒を頭上に抱え上げ、無表情でジューローの背中から胸、心臓のあたりにおもいっきり尖った先端を振り下ろす。




 ドガガガガガーーーーーーッッッッ




 「ぐわっ!!!」

 一瞬何が起ったのか理解できなかった。

 

 雷が落ちたかのような激しい光と轟音が自分を包み込む。

 一瞬にして俺の視覚、聴覚を奪っていったのだ…

 まだ耳鳴りが響き、目も光でやられよく見えない状態だ。


 そんな状況のなか金属の棒を持つ手を後ろからぐいっと引っ張られ、強い握力により手がぐしゃっと握り潰され、持っていた棒をその場に落とす。


 「ぐっがああ…だ、誰だ…。」


 見えないながらも激しく抵抗する。


 すると俺の後ろから声がした。

 俺の耳元ーーすぐ後ろから声がした…


 「ジューロじゃ。お前さんの殺したがっていたジューローじゃ。」


 いままでのような年寄り…しわがれたような声ではなく、まるで青年のような低く重厚な声で俺の耳元でささやいた。

 




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