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第241話 死

 「どういう…ことじゃ…。」


 わしは動揺を隠しきれない。

 今までどしゃぶりの雨じゃったのに、スペードがパチンと指を鳴らすと同時にすべてが火に包まれた。


 森…オランウータン村全てが火に焼かれておるのじゃ。


 最初は幻、幻覚かとも思ったのじゃが…目の前で焼けるゲタンの家からは木の焼ける焦げ臭い匂いが立ちこめておるし、離れた場所にいても火の熱量が感じられるのじゃ…熱い…。


 燃え盛る村の真ん中で立ち尽くすわし。


 いつの間にかスペードの姿はいない。


 わしは目の前の道を歩き出す。明らかに罠だとは思うが、燃え盛る火の海の中避難する道はその1本道しかないのじゃ。


 先は見えないが歩き続ける。


 歩きながらも燃え盛る家々を見る。

 ジョコの家、エメリさんの家、セコスの家…………見覚えのある家々の横を歩きながら楽しくも平凡な日々を思い出す。


 わしが前世の知識と検索能力のおかげで、森の民に恩恵を与えていた体だったが、実際にはわしがこの森からたくさんの恩恵を受けていたのじゃ。


 仙人様という事でチヤホヤされる事もあったが、例えわしが仙人でなくても森の民はわしを…わしの全てを受け入れてくれたじゃろう。


 小林十朗として死んですぐに飛ばされた星がここで本当に良かった。


 飛ばされた場所がこの森で本当に良かった。


 飛ばされた時にセイムさんに会えて本当に良かった。




 みんなに会えて本当に良かった。





 どうやら1本道も終わりに近づく。

 わしの家が盛大に燃え盛っておる。


 炎が生き物のように、今にもわしに襲いかかってくるかのような勢いじゃ。しばらく我が家にじっと魅入る。しばらくすると家が崩れ落ちた。雷のような轟音を響かせて家が崩れ落ちた………


 その崩れ落ちた先には、晴れた日のように上空から陽が刺し、明るく照らし出された広場のような場所には、スペードとーーーーーーーー


 セイムさんとエメリさんが柱にくくり付けられていた。

 その足下には木がくべてある。


 少し離れた場所だからなのか、スペードの口が動いてはいるのだが、声が自分には聞こえない…。


 聞こえないながらも口の動きを読む。


 ショ・タ・イ・ム・の・じ・か・ん・で・す…


 ショータイムの時間です…

 とスペードの口を読んだのと同時に…


 セイムさんとエメリさんの足下の木に火がつき、次第にその炎が大きくなる。だんだんと大きくなる。大きくなった炎はすっぽりと2人の全身を包み込む業火へと変わる。


 わしは今自分が何を叫んだかはわからない。


 叫んだのか嘆いたのかはわからない。


 悲しい顔なのか、怒った顔なのかもわからない。

 

 とにかく必至で2人を助けようとあがいた…

 目の前には透明な何かがあって阻まれ近づけないのじゃが、わしはあがいた…


 あがいたが2人を救うことはできなかった…。


 いつの間にかスペードがわしの傍らにいた。

 わしが、無力感で地面に座り込んでいる傍らにいた。


 わしの横から…触れ合うぐらいの間近から顔を覗き込むように言ったのじゃ。


 「私はあなたの悲しむ顔がみたいのです。苦しむ顔も、泣き顔も。」

 

 今まで紳士的に話しかけてきたスペードはここで笑いだす。

 気の狂ったかのように大声で…人目をはばからず笑い出す。


 「そうです、そうです。いやーあなたの怒った顔なんかも最高ですかね。ジューロー様。」


 そうか、今わしは怒った顔をしておるのか…


 多分それはスペードにではなく、自分自身のふがいなさに怒っていたのじゃろう。


 わしが憤怒に支配され、我を失い気が狂ったような奇声を上げ、スペードに拳を振り上げて襲いかかった……………………………が、




ドスッ




 ニブイ音と共に、わしの体が上から何かで押し付けられように激しく弾む。


 一体何が起ったのが全く分からなかった。


 目の前の金属の棒を見るまでは…


 わしの胸には金属の棒が突き刺さっておった。


 「くっはあああっ…」

 口から血が溢れ出し地面の土を赤く染める。


 金属の先端は地面に深く突き刺さり、わしの体から伝う血で血だまりがどんどん大きくなっていくのが見える。


 先程までの炎に包まれた風景は消え、今は前と同じように激しい雨が降っている。

 ………雨音しか聞こえない。

 

 それも次第に無音に近くなっていく、

 だんだん視界がかすみ暗くなってくる。


 懐かしい感覚じゃ。

 小林十朗としての最後を迎えた時以来か…


 目の前のスペードがわしに一言

 「最後のお別れです。」


 もう耳は聞こえていなかったが、口の動きでそう言っているのがわかった。 

 にっこりと笑ったスペードの顔が最後の記憶じゃった。


 

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