第239話 黒幕
わしは激しい雨の中1晩中ダチョウを走らせ村へと急いだ。
村まであと3kmというところでダチョウが疲労の為にスピードが落ち、とうとう止まってしまった。所々で休憩をとったとはいえ、ものすごい強行軍でむしろよく我慢して走ってくれたものだと思う。
わしはありがとうと感謝の言葉をかけ、そのままダチョウを放置して走る。
地面はぬかるみ、所々に大きな水たまり…いや沼のようになっておる所もある。激しい雨に打たれ、水面には波紋が広がる暇もなく、雨粒がとめどもなく跳ね上がる。
足音はベチョベチョなどではなく、ベヌチョ、ベヌチョ、みたいな粘度を増したような音がする。わしの足もその泥のような土にとられ、次第に疲れで重くなる…。
いつもと違い視界は狭いが、段々見慣れた景色が見えて来て体がエライが安堵する。
あと200mぐらいでオランウータン村の入口じゃ…
息が切れる…次第に雨音が小さくなり気にならなくなる…
反対にわしの心音が…激しく動くわしの体に呼応するように響く…
あと50m…わしの体は20代じゃが、最近は運動不足か…もう足ががくがくして息も絶え絶えじゃ…何事もなく、雨が止めば明日からにでもランニングでも始めるか!セイムさんや、エメリさんを誘って。
ふふふっと自分も知らぬ間に笑みがこぼれておった。いかんいかん、こんな所をゲタンに見られたら何を言われるか…ジューローも歳を取ったな~~などとバカにされかねん!
みんな、いま帰ったぞ!
出発してから10日前後…もうそんなに経っておったのか、早いのう。
マブシとカーンは後から帰って来る。リューゴスはその後、王城から帰ってくるが、わしは…ジューローは今帰ったぞ!
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なんで、誰も迎えに来ていないんじゃ。
あっそうか、今日帰るとは言うてなかったからじゃな…。
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本当はわかっていたのじゃ。
村の入口に近づく度に気づいていたのじゃ…。
わしの嫌な予感が…わしの不安が的中するのが怖くて目をそらしていたが…
ザアアアアアアアアザアアアアアアアアザアアアアアアアア
ザアアアアアアアアザアアアアアアアアザアアアアアアアア
ザアアアアアアアアザアアアアアアアアザアアアアアアアア
ザアアアアアアアアザアアアアアアアアザアアアアアアアア
急に激しい雨音がわしの頭に流れ込んでくる。
今まで無意識にシャットアウトしていた外音がわしの頭に流れ込んでくる。
わしは激しい雨の中うす暗い森の家々を…ゆっくり1軒1軒家を見てまわる。
もう陽がくれて19時を過ぎたのに…灯り1つついていない家々をわしは見てまわる。
まず一番入口から近い家じゃ。
「おい、ジョコおるか。怖い嫁さんと一緒か? おい、どこに行ったのじゃ!」
………………………………………返事はない。
次の家へと向かう
「スブム夫妻もどこに行ったのじゃ!セイムさんもいないのか?
レイク、リイナ。」
………………………………………返事はない。
次の家へと向かう
「エメリさんいるか?両親もどこ行った?まさかまたオムツプレイじゃないだろうな、しょうがないな…開けるぞ!扉開けるぞ!」
………………………………………返事はない。
本当はわかっておるのじゃ…
「おい!セコスお前のツッコミの出番じゃぞ!出て来い」
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みんないない…オランウータン村には誰一人もいない…
わしは最後の家を訪れ、入口の扉を開ける。
しかし家の中はシーンと静まりかえり人の気配はない。
「ゲタン…お前までおらんのか?さすがにお前はおるじゃろう?隠れているのじゃろう。」
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森の民はここには誰もいない。
ここにいるのはーーーーーーーーーーー
「お待ちしていましたよ。ジューロー様」
わしは声が聞こえた方に体ごとゆっくりと振り向く。
そこには激しい雨が降り注ぐ中ーーーーー
いつもの優しい笑顔をわしに向けて
全く濡れずに立っている
スペードの姿があった。




