第231話 渡したいもの
「おい、この串食ってみろ!うまいぞ~~俺のイチオシだ!遠慮すんな、俺のおごりだから!」
…わしらは今城下町をブラブラしておった。明日森へ帰るのじゃが、最後に色々観光をしに行こうという事になってわしとマブシ、そしてゴスンの3人で見て回っておるのだ。
カーンは妹を探しに1人で、リューゴスは今日1日王城で過ごすとの事。
そんなブラブラ見て回っておった昼さがり、何やら前方が騒がし。
ちょっとした人だかりができている。何事かと思って野次馬根性で見てみると、そこには…
シスパとおっさんが…人だかりの中心に。
そのおっさんは服こそ庶民の服をきておるが、頭にはほっかむりのように布を巻いていて、逆に人目をひく…変装した国王アルゴス二世だった。
一応人をかきわけて、シスパに声をかける…
「シスパお前も来てたのか。ところで何じゃこの人だかりは?」
「おお、ジュ、ジューローか、紹介しよう!こちらは俺の友達タマちゃんだ。」
「タマちゃん?いや、どうみても王様じゃ…」
「うおおっっっっほんん、んんーーーんー」
シスパがいきなり大声で咳き込む振りをして、わしに目配せを。眼をパチパチしておった。その目配せはモールス信号のように、ツートンツーツートンとわしに信号を送る。
あーはいはいはい、遠山の金さん的な?水戸黄門的なあれか?内緒なのか。
…なぜ通じるのじゃわし。
シスパを捕まえ、小声で話す。
「んで、そのタマちゃんは何をしておるのだ?こんなところで」
「まあ、国民の視察ってところだな。仕事の合間に城下町におりて直に声を聞き、改善できるところは改善する。ああ見えて民思いで人気もあるんだぜ。」
そうか…こんなに人が集まるのも王の人柄かな…と思っていると、
「あれ、王様じゃん。何やってんの」
「アイツまた仕事さぼって遊んでやがんな」
「シーッ、見ちゃいけません。知らんぷりして!」
お母さんが子どもに言い聞かせておるのが聞こえた……
「王じゃないか、うちの店にも呼んで何か買ってもらおうか。気前がいいからな。」
「本当だ王だ。みんな呼んで来るよ、カモが来たって」
………おい、王! がっつりバレてますがな!大人から子どもまで
しかもカモにされてますよ~~~~~~逃げて~~~~~~!
「しっ、本人はバレてないつもりなんだから…あのままでいいんだ。」
シスパも気づいていたようじゃな、バレバレだという事が…。
そんなタマちゃんに声をかけると冒頭のようにおごってくれたのじゃ。
結構気前がいいみたいじゃな、誰にでも。
まあ、税金じゃけどね。
大盤振る舞いはみんなの血税で賄われていますけどね。
だが、奢ってもらった串は確かに旨い!つくねのような味わいで酒が飲みたくなるな…。酒と言えば…………………
昨日の夜、王様との宴会が終わった後 わしはもう1度王様と会ったのじゃ。
と、いうより王城の夜間用の入口を通って城下町へ出ようとした時にシスパに呼び止められた。
「王様がジューローに渡し忘れた物があるから、もう1度きてくれないかと」
わしに渡したいもの…だと。何か不穏な空気を感じたが、わしは了承し、他の者に先に帰るように促した。
「あと、下着は新しいのに換えるようにと…」
シスパがバツが悪そうにわしに一言添える。
…まさか…まさか…王が? 王がわしの体目当てだったのか?
渡したい物は、まさかの王自身なのでは…背筋がゾクゾクした。
ってもうそのネタはわしがゴスンにやったから、まさか同じネタはないじゃろうと安心して指示のあった部屋に案内されるとそこは…
さきほどの6帖程の狭い部屋とは比べ物にならないぐらいの大きな部屋に通された。暗いながらも辺りを見渡すと何か防具や、剣などが整然と並べられておる。するとシスパが、ここは兵士の室内の訓練所だと教えてくれる。
などと思っていたら部屋の隅から王が走ってきた。
「ごめんごめん、待った~~~~」
と先程まで一緒に楽しく宴会をしていた王が、お気軽にやってきたが、なぜそんな遠くから走ってくるのじゃと思った時、シスパがわしをがっちり羽交い締めにしだした。
「なっ!なんじゃどうした?」
驚きと共にその力に抗ったのじゃがシスパの強い力で締め付けられてほどけない。
そこに王様のパンチが…わしの顔をかすめる。
わざとはずしたようじゃ。
「何?なんで?王がわしに渡したいものがあると聞いてきたのじゃが…。」
「そうそう、渡したいものがあるんだ…ジューローに。」
今までヘラヘラ笑っていた王が真顔になって言い放つ…
「……引導をな。」




