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第230話 シモベ

 ここは陽が差さぬ真っ暗な地下室だ。

 床も壁も石を積み上げられた何の装飾も無い部屋。

 部屋の隅でピチャーンと一定の感覚で水滴の弾む音が聞こえる。

 

 「昨日の夜半に降った雨か…」


 寝転がって石のひんやりとした感覚を感じながら、真っ暗で何の色彩もない空間の中でそんな事を考える。

 

 すると自分の頭の中から声が聞こえる

 

 〈やっと、起きたかよ。チッ、いつまで寝てるんだ〉

 「…なんだ?何か用か?俺に」


 〈いつになったら行動に移すんだ…〉

 …聞こえているが俺は無視をしてまた暗闇の中、目をつぶる。


 〈ふん、無視かよ。お前と俺はもう運命共同体だっていうのによ〉


 「ふふふ、運命共同体?俺を乗っ取るどころか、吸収されたくせによく言うよ」


 〈…ああ、その通り。乗っ取ろうとしたが、逆に取り込まれたマヌケだよ、俺は。〉


 「素直に認めるんだな…。」


 〈ああ、認めてやるよ。俺以上の狂った奴だってな…。〉


 「お前に認められても全然嬉しくないな…」


 〈俺だってお前に取り込まれて大人しくしてやっているんだ、お前も少しは俺に遠慮しろよ。〉


 ふふふと笑い、またお互いにしばらく沈黙する。




 〈……この間ジューローにお前の能力の片鱗を見せちまったがよかったのか?〉


 「俺の能力がジューローに効くってわかったんだ、たいした事ない。予定通りだよ。」


 〈そうか、それならいい。楽しみだ…お前の能力を知ったジューローの驚く顔がみたい。その前にお前が立ちふさがった時の顔も見物だがな…くっくくく〉


 「それよりも何だ最近のラ・メーンとやらは…ついこの間も城下町に来る前に襲ったがやられたそうじゃないか。」


 〈ふん、アイツは俺の絞りカスみたいなもんだ。本当のラ・メーンーーモベはお前とほとんど同化しちまってるんだからな。〉


 「…今までどんな能力で戦ったんだったけ?」


 〈…ジューローには、身体能力1.5倍、分身能力、体力全回復、心眼で当たったがダメだったな。あとは…〉

 

 「まだあった?」


 〈2m瞬間移動、右腕が刃物、息を止めている間無敵、全身臭い男、触った物を腐らせると色々あったが…〉


 「ああっジューローと当たる前にリューゴスに敗れてたな、そう言えば…」


 〈チッ、夜にジューローを襲おうと近づくとリューゴスの奴が見張ってやがるんだよな。あいつにことごとく敗れたぜ。〉


 「たぶんジューローはリューゴスが露払いをしてくれている事すら気づいていないだろうがな…」


 〈ああ、強さだけで言ったらリューゴスの方が上だろう。〉


 「…第3王子で権力も強さも兼ね備えるか…ぶち壊してやりたいな。」


 〈お前の欲しい物を持っているから憎いのか?〉


 「憎いよ…ただし生きとし生ける者全て分け隔てなくな…ふふふ」

 暗闇の中、乾いた笑いが響く…

 

 「優しいだろ、俺は。博愛主義なんだよ。全員平等に愛してやるよ、俺の憎悪でな…。全員焼き付くしてやるよ…俺の狂気でな。くっっくくくくく」

 暗闇の中、気が狂ったかのような笑い声が地下室に長い事響きわたる。


 モベはこの男の深淵を覗きみたい衝動にかられたが実行しようとは思わない。

 多分帰ってこれないであろう…深い暗い闇に捕われて。


 自分が自分のままでいられる自信がない。

 この男の憎悪をあびせられて…


 「もうすぐだよ…。」


 〈は?〉


 「まず手始めにジューローだ」


 〈………〉


 「次に王を殺して、この国をめちゃめちゃにしてやる。」


 〈くっくくく、とうとう動くかよ。〉


 「俺の能力は無敵だよ…」


 〈そうだ、お前の能力は今までのカスみたいな能力とは違う〉


 「さあ、もうそろそろ行くか。ジューロー達が森に帰る前までに全部燃やし尽くしてあげたいからね。」


 そういうと男は暗闇の部屋で立ち上がり、階段に向かって歩き出す。


 「あっそうだ、もう君いらないよね? 君の存在ごと僕の中で飼ってあげるよ。もちろん自我が無くなるから、これから俺に話かけることもできなくなるけどね?いい?」


 〈なっ……〉


 

 激しく抗うが、そんなのはこれっぽっち意味のない事だった。

 次第に俺の意識が遠のく…何か黒くておぞましい物にのまれる…感覚だ。


 無資格者としての高見に上り詰めたこの俺が、どこだか知らないちっぽけな星に住まう、たかだか20年ぐらいしか生きていないような若造にいいようにやられて…一体俺の存在は何だったんだと考える…。


 まさか…おれの存在全てがこのために…

 無資格者としての役目がこの為だとしたら…


 考えてもどうしようもない…

 すべてはあの方のみぞ知る事だ…


 得体のしれない何かにのみこまれながらオレは最後の言葉を発する。


 みんな…あの方のための…………シモベ(・・)なのだか…ら…


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