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第229話 リーン様

 私は今王宮にいる。夜も更けきり、月がほぼ真上に位置するこんな時間に呼ばれるなんて…いつもならもう私は寝ている時間だ。


 家族で夕食を取っていると、彼からの使いが来てどうしても今すぐ渡したい物があるというので呼び出されたのだ。一体どうしたのかしら。


 わたしの家は城下町の西地区でNo.2の商会だ。

 しかし、両親は私の血の繋がった両親ではない。

 2人の弟も血の繋がった弟ではない。


 わたしは小さい頃に川に流され、気を失っている所をその頃かけ出しの商人だった両親がちょうど通りがかり、倒れていた私を見つけ、そのまま養女にしてくれたのだ。


 それから両親は寝る間も惜しんで働き、城下町ではかなりでかい商会を築きあげた。もちろんわたしも毎日両親の手伝いをして頑張った。

 その後両親に弟が2人産まれ、歳の離れた弟達を私も溺愛し、忙しい両親に変わって面倒を見たりもした。


 そんな生活の毎日、私も大きくなり年頃になった時に転機が訪れた。


 王様の第二王子センテス様に見初められたのだ。

 あるパーティーに両親の付き添いとして出席した時に、王子とお会いして一言二言話しただけだが、気に入られ次の日に結婚を申し込まれたのだ。


 正直困惑した。私のどこにという感じだった。

 両親は私の意思を尊重し無理強いはしなかった。


 わたしが王室と結びつくことがどんなに商会に有利で、利益を産み出すことであろうかわかっているだろうに…。血の繋がらない私をそこまで思ってくれる両親には本当に感謝をしてもしたりない。ありがとう。


 取りあえず結婚は置いておいて、センテス様とお付き合いから始める事にした。第二王子といえば、王位継承権2位という事だ。しかしセンテス様は全然王位には興味ないようで、次に王となる兄を支えるために政治を勉強しているのだと話しておられた。


 性格も穏やかで全然偉ぶるところもないので、私も付き合っているうちに段々と彼に惹かれていった。


 そんな彼と結婚する決意をした私は、つい2カ月前にセンテス様からまた、プロポーズを受け婚約をした。

 最近は結婚の準備で頻繁に王城と行き来する毎日だが、こんな夜更けに呼ばれたのは初めてだ。


 もちろん夜の王城の出入りは禁止されているのだが、王子の使いの方と一緒なのですんなりと中に入れた。今はその使いの方と王子の部屋へと向かっているところだ。


 部屋に向かっている途中にある部屋から、男衆4人が出てきた。


 1人はシスパ兵士長だった。1人は60歳ぐらいのお歳をめされた方、もう2人は若そうだが…暗くて顔はよくみえなかった。しかしなぜか気になって、急いでいるというのに立ち止まってその若い男の人を凝視してしまう。


 向こうはわいわい話をして盛り上がっているので、私に気づいていないようだ。本当にわずかな時間だがボーっと立ち尽くしてしていたようで、


 「リーン様どうしました?お早く」

 と使いの人に急かされて、部屋へと向かう。

 

 今の方達は、森に住む民の服装を着ていた。

 あの出てきた部屋は王様、アルゴス様の親しい、気のおけない人しか入れないという部屋だ。森の民で…一体どういう人達なのだろうか?と不思議に思っているうちに、センテス様の部屋の前に来てしまった。


 使いの方とノックをして中に入ると、センテス様が待ちきれなかったのかドアの前で待ち構えていたので、こちらがビックリした!

 

 「こんな夜遅くにごめん、しかし、いてもたってもいられなくなって呼び出したんだ。僕から出ていくことはできないから。」


 「どうしたの?」


 「実は、今日来た森の民から珍しい薬を手に入れる事ができたんだ。これ」

 と、見せられたものは小さい樽になみなみと注がれている黒い液体。


 「……何か…こう、毒々しいわね。」

 と正直に言ってしまう。


 「これは“ちょこれーと”という薬らしい。少しの量でも様々な栄養素を兼ね備えて病弱な体質改善や滋養など、飲み続けると体が元気になるらしい。だからこれを君の弟レオに。」


 「えっ?弟に?」

 「うん、少しでも早くと思ってね。」

 

 私の弟…レオは今年で10歳になるが、産まれた時から病弱なのだ。色々な薬を試してもみたがあまり改善されない。最近では咳も止まらない事もあり、辛そうだ。そんな弟を見ると自分も悲しくなるのだ。


 私だけでなく、そんな家族を気にかけてくれる優しいセンテスに感激し、少し涙ぐみながらセンテスの首に手をかけ、涙声でお礼を言う


 「ありがとう、センテス。弟の事まで気にかけてくれて。」

 「何いっているんだ、君の家族は僕の家族でもあるんだ。さっ早くこれを弟に飲ませてあげて。苦いから少量を水でうすめて砂糖を入れても良いらしいが、とにかく毎日適量飲ませる事が大事らしい。」


 私は“ちょこれーと”の入った樽を受け取る。


 「大丈夫だって、これは森の民の仙人様と言われている人が作られた薬らしいから、見た目は毒毒しいけど効き目は保証付だよ。」


 森の仙人様…量はすくないが、森の仙人様が直に作っている良く効く薬草がスペード商会という小規模の商会で扱われているという噂を聞いた事がある。

 ひょっとして、先程すれちがった森の民の老人が仙人様なのだろうか?


 とにかくセンテスにお礼を言い、また明日結婚の打ち合わせで会う約束をし、またお付きの人に付き添われ暗い夜道を送ってもらう。


 私の事を実の娘のように愛情を注いでくれる両親。

 私の事を実の姉のように慕ってくれる弟達。 

 私の事を愛してくれるセンテス。


 たくさんの愛情に囲まれ、私はこんなに幸せでいいのかと自問自答しつつも感謝する毎日。


 しかし、そんな私には1つだけ大きなわだかまりがある。


 小さい頃に離ればなれになった兄というわだかまりが…。

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