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第228話 銅像どうぞ

 「お待たせしました~~それではわしの銅像をどうぞ~~~~なんつって。」


 ……誰も笑わん。今までの雰囲気を台無しにする王のダジャレ……。

 この冷えきった空気をどうするのじゃ?と思いつつも、当の本人は全く気にせずにカーテンで仕切られた隣の部屋から部下に2体の王の銅像を運ばせてきた。


 その2体の王の銅像のうち1つは王そっくりじゃ。今、目の前にいるこのおっさんの謁見の間で会ったりりしい顔にそっくりじゃ。


 もう1つはーーーー不細工じゃ…。


 というか小学校4年生の夏休みの宿題でお父さんの顔を粘土で作ったような顔といえばイメージがわきやすいかのう…。

 明らかにこっちの不細工な方が王が自作したほうじゃろうな…。


 そうなのじゃ、本当は王様の銅像なんぞこれっぽっちも欲しくないのじゃが、たぶんシスパが調子の良い事を言って王様の気分を良くしたのじゃろう。ぜひ王様の銅像が欲しい!オランウータン村の家宝として代々語り続けたいから、王様直々に製作された像が欲しいだとか…。


 言ったんじゃろ?シスパという目で見るとわしと目を反らし、顔を下に向け気まずそうにしておる。


 「さて問題です。どちらの銅像が俺が直々に忙しい公務の合間をぬって、睡眠時間を5時間も削って、ついでに命まで削っちゃって(笑)、森の民の繁栄の為に作った製作期間丸2ヵ月の力作でしょう~か?

 外したらあげないぞ~~~~~」


 …めっちゃハイテンションじゃん、王…なんか言い方めっちゃムカつくわ~~~。こっちが欲しくて欲しくてしょうがない!みたいな体だな…。本当はいらなくていらなくてしょうがないのに…。


 マブシがおちゃらけて

 「えーそんなのこっちの…」

 と多分本当の王室おかかえの芸術家が作ったと思う王様そっくりの芸術的な銅像を指さそうとしたら…


 バシッッとすりこぎのような太い棒で王に手を叩かれた。顔を見ると口角は上がって、かろうじて笑顔の体を装っておるが眉間に皺を寄せするどい目でマブシを睨む。


 あきらかに不機嫌そうじゃ…今までのハイテンションはどこに…

 「は?お前マジで?」

 王がマブシの顔2mmに近づき、とげとげしい声で聞く。


 「なっ、なーんちゃって!あれ?手が勝手に…」

とマブシが怖じ気付いたのじゃろうあいまいに声をにごした。


 すると王がまたハイテンションで話かける

 「いや~もう考えなくてもパッと見ただけでこの芸術性は分かると思うけどな~」

 …この笑顔が怖い。


 皆絶対によけいな事を言わないでおこうと心に決めたのか王と目を合わさないようにあさっての方向を見ながら酒を飲む振りをする。


 あっ王がわしにターゲットを合わした。ロックオンじゃ…わし一人を狙いうちじゃ。

 「ジューローはどうかな?芸術性がわかるかな?」


 …しょうがない。わしが言うか。


 「こっちじゃろう?王が製作したのは。」

 と言い、不細工な出来の銅像を指差す。


 王は嬉しそうに

 「いや~やっぱりわかる?この芸術的な…」


 「全然不細工じゃ!この銅像は不細工の中の不細工、ブサイクチャンピオンじゃ!」

 わしの言葉に周りの皆が凍り付く。


 言われた王も最初はポカーンとした顔をしていたが、次第に顔が鬼の形相に…。

 「おい、それは誰に向かって…」

 

 わしは王の怒りの声を遮って続けた。

 「この銅像は子供が作ったような稚拙な出来じゃ。デコボコで、顔も似ておらず、銅像とも呼べん代物じゃ…だが、それが良い。」


 「えっ」

 王の顔が鬼の形相から驚きの顔に変化する。


 「所々にみえる悩んだ跡、不揃いなバランス、見ていて吐き気のするようなイビツな配置。そのどれもが王の人柄を表しているような温かみのある像になっておる。他の誰が何と言おうとわしはこっちの銅像の方が好きじゃな。」


 …他の誰が何と言おうって…。

 あんたが一番失礼な事ばかり言っているよ!と周りの皆は心の中でツッコんだ!同時にツッコんだ!


 意外な誉め言葉に王は顔がほころんだ。あのままジューローが、王の会心の出来の銅像をけなし続ければ、ジューローは荒井注のような生きたまま銅像として飾られていただろう…


 ドリフか!シスパは心の中で一人ノリツッコみをした。


 …ごめん荒井注のくだりは、わしが勝手に足したのじゃ。


 「そ、そこまで俺の作品を評価してくれているとは…」


 王の喜びのコメントにわしは続ける。

 「だから、この銅像は受けとれん!受け取れるわけがなかろう。この銅像はしかるべき場所、そう、この城下町にこそふさわしいとおもうのじゃ。森の民であるわしらよりも王のお膝元である城下町の民にこそ必要じゃとおもうのじゃ。だからわしらは辞退するのじゃ。」


 わしは下にうつむきながら、王から見えない角度でニヤリと笑う。

 チラリと横をみるとシスパが(うまいこと断りやがったな)という顔をしていた。


 わしは後ろにやった手でカーンとマブシに合図をすると2人とも残念な顔の演技をする。よしよし、打ち合わせなんぞせんでも以心伝心じゃな。


 王はそんなわしらを見て

 「なんて正直者でしょう。正直なあなたにはこの金の銅像と銀の銅像2つをあげましょう。」

 と昔話金のオノと銀のオノのようなノリで銅像を1つならず2つともくれるという…。


 「えっ?あの?いらないです。」

 わしは正直に打ち明けた。


 「遠慮するな、俺とジューローの仲ではないか。」

 王がぐいぐいくる。


 「どんな仲じゃ!だが断る!いらん!」


 負けじと断るが、笑顔の王はカーテンでしきられていた部屋を空け放つと…そこには…大小合わせて10個以上の銅像が…しかもヘタクソな方が。


 どんだけ作ってるねん王様…暇なの?王様暇なの?とツッコまずにはいられないくらいの量じゃ。


 「まだ城下町に配置する分はあるから遠慮するな!2体じゃ足りないか?もっと持っていっていいぞ、ほれほれ!」

 王は無理矢理持っていかそうとする。


 わしはシスパに言った。

 「おい、兵士長…この暴挙を止めなくてもよいのか…。」

 

 「…止められん。…俺には止められん!」

 

 申し訳なさそうに言うシスパを見て、もしこの銅像が城下町に配置されたら…

 暴動がおこるじゃろな…と王にもらった不細工な銅像をあっ、ついうっかりという体で地面に落としながら「粉々に砕け散れ!」と、心の中で思うジューローであった…。


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