第226話 王と宴会
それは豪華絢爛だった。
招待客が300人は入れるであろう部屋に、天井から差し込むブルーの月明かりは宗教画のようなステンドガラスを通して、優しい色合いが大きな広間に華やかな明かりを落とす。
天井からはシャンデリアに灯されたろうそくの暖かみのある灯りが10対以上もぶら下げられていて、石造りの部屋の床には、一体編むのに何年かかるのだろうかと思うほどの細かい刺繍がほどこしてある豪華な絨毯が部屋にまんべんなく敷き詰められ、宴会に花を添える。
机の上に並べられた見たこともない珍しい果物や食べ物は、全国から集められたであろう、選び抜かれた食材をふんだんに使って、これまた王の食事の為に全国から腕を競って選ばれたシェフが腕によりをかけて作った細工の細かい、見るも楽しい、味わってもも美味しい絶品料理の数々だ。
そんなオシャレな…
そんなオシャレな…。そんなオシャレな要素全く無い!
これっぽ~~~~ちも無いわ!
何この冒頭から今までの嘘八百は?
何でこんなに何行も嘘書いてるの?
本当は…
控え室から準備ができたとの知らせがあり、わし達…カーン、マブシ、リューゴス、シスパが案内人に連れられ廊下を進む。案内人が、廊下の突き当たりの豪華なドアを開きわしら5人を中に導き入れる。
その開かれたドアの中はーーーーーー
…6畳くらいの窓もない部屋だった。
そこには机もなく料理らしきものや飲み物が地べたに置かれていた。
そこで待っていたのは、先ほどの気品のあるショーンコネ…ではなく、上下とも庶民が着るようなぺらぺらの肌着のような服を着て寝転がっていたおっさんが1人。
スルメのような乾きものを口でクチャクチャ言わせながら話しかける。
「おー!来たか~~!先に飲んでるよ、まあここに座れや。」
「………おい、おっさん!めっちゃくだけてるな…くだけすぎじゃないのか?王だけどもタメ口で言うよ、わし!」
マブシやカーンはあまりのことに驚いて呆然として立ち尽くしている。そりゃあそうじゃろう…先ほどの謁見の間での威厳と尊厳の固まりじゃった王様が、今は沖に打ち上げられた丘サーファーのように寝転がって、だらけきった姿をさらしておるのじゃから……
……全然例え、うまくねーーーーwww
丘サーファーって最初っから打ち上げられてるっていうか、海にすら入ってないからね。などと一人ツッコミをしつつ…
「誰、このおっさん?えっまじで?うそー」
マブシなどは王様だと言ってもわからなかったぐらいなのじゃ。王様に似たおっさん、親戚かなーぐらい。いや、それでも王族じゃろうけどな。
そこでわしは、
「あれ、豪華な宴会…歓迎会じゃなかったのか?ジジイ寂しい…」
と王様に哀愁を漂わせて言ってみる。
「えっ、そっちのほうがよかった?でも俺が嫌なんだよな~みんな王様ってことで上っ面だけの宴会で全然酒がうまくないんだよな~。
ほら、こういう形式の宴会の方がみんなくだけて腹を割って話せるだろ。まあ俺の腹はこんなんだけどな、がはははははは」
とメタボ気味…いやメタボな太鼓腹をさすりながら豪快に笑う。
確かにそうじゃな、心理的にも王様の位置が近いこういった宴会の方がお互いを寄りよくわかりあえるか…。
まあ、それにしても初めからはありえなくね?2回目、3回目なら全然問題ないと思うんじゃけど…。
「それでも、よく大臣や、他の貴族がこんな形式OKしてくれたのう。わしらのような得体のしれない森の民なんぞと1国の王様が…。ありえんじゃろう?」
「いや、村の民の事は事前にシスパ、リューゴスからの報告で聞いていたからその辺は全然問題ないぞ。」
「…どんな報告じゃ?」
「森に住む仙人ジューローは人畜無害。年寄りの体裁を保っているが、中身は虎視眈々と若い女性をねらう肉食系ぶってはいるが、本当はヘタレな奥手のシャイな60歳だとな。」
……わしはキッとシスパ、リューゴスを睨むとシスパが目をそらす…。
こいつだな…あとで折檻じゃ!シスパ折檻じゃ!
「……ちょっと挨拶してくる」
リューゴスはわしらに断りを入れ部屋を出る。どうやら母親、兄弟に会ってくるらしい。しかしなぜこのタイミングで?
「照れくさいのだろう。リューゴスのジューローに対する報告はそれはもう、親であるわしが嫉妬するぐらいの心酔ぶりだったからな…」
「本当か?いや、今さらだが、王様にタメ口じゃけどいいか?もう面倒くさいから無礼講でいいか?」
「それは目上の者が言うセリフだろ!ジューローの方が年上だけども…いや、そういう事じゃなくて、一応俺が王様だから、国で一番えらいんだよ、俺。」
「…いや、そんな寝転がって威張られても…まあ無礼講でいこうな、なっ」
「うむ、許すぞ!きりり」
「…口で言ってるし!全然りりしくないし!」
「わしも初めは王様に恐れ多くておっかなびっくりだったが、もう慣れたぞ!」
シスパが上半身裸でくつろいで口を出す。
「くつろぎ過ぎじゃね?遠慮なしかお前!」
「よいよい、それでよいぞ!」
王様がいきなりお殿様言葉で肯定する。
うむ、わかった。わしも覚悟を決めよう。王様、ひいては皆と腹を割って話し合うためにそっとズボンを脱いだ。わざわざ王様の目の前でそっと脱いだ。
ちょっとほほを染めながら…恥ずかしさを演出して脱いだのじゃ……。
「……死刑!」
王様が真顔で宣告した。




