第223話 スペードとの対話
そのお店は暗い店内にミラーボールが満点の星空の様に輝いていた…すんごいチカチカしていて目もチカチカ眩しい。
長椅子の真ん中にわしが、その両隣には露出度の高い西洋人風な顔だちの綺麗なお姉さんがわしをちやほやしてくれる。
「シャチョーさん果物頼んでいい?」
「ボトル入りま~~~す」
…全然ちやほやされておらん…むしろ絞り取られておる。
そんな事もおかまいなしにわしは綺麗なお姉さんに問いかける
「ちょっと揺らしてもらっていいかな?」
紳士に真摯に言ってみた。
きりり!
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はっ!……………………………目が覚めた。
夢じゃった…
まさかの夢オチじゃったか…じゃが、楽しい一時よありがとう!
わしは夢に感謝した。
目が覚めたとはいえ、暗闇でしばらく何もみえなかった。しだいに目が慣れてくると薄らと、暗いながらも室内が見えてきた。
どうやらわしは長椅子に寝かされておったようじゃ。わしの他には誰もいないようで、起き上がって近くのドアから外に出る。
廊下に出るとわしが出てきた以外の部屋もあるようじゃ。階段が下に降りているので、どうやらわしは2階にいたようじゃ。
1階も静まりかえって物音1つしない。誰かおるかと思って声をかけようとすると、階段わきの部屋の戸が少し開いていて、中が見えた。
その部屋の中には、地下に降りる階段のようなものがみえた。
なぜ部屋の中に地下へと続く階段が?と疑問に思い、もっと近くで見ようと半開きの部屋のノブに手をかけようとした時、
「ジューロー様?」
後ろから声をかけられ心臓が飛び出しそうなぐらいビビった。いや、チビッた。
振り返るとそこには全く気配も感じさせずに明かりを持って、立っていたスペードじゃった。
「スペード…か?」
「はい、起きられましたか?ジューロー様。まだ夜も明けてないですが部屋を見に行きましたらおられなかったので…。」
「いや、すまん。さっきおしっこに起きてトイレを探していたのじゃが、その必要はなくなったようじゃ…今さっき。」
「は?ま、まあそれは置いておいて…もう起きて大丈夫ですか?外でジューロー様に声をかけられてそのまま崩れ落ちるように寝てしまわれたので私の家に運びこんだのですが…」
ああ、そうじゃったスペードに用があったので、外まで追いかけて話かけたのじゃった。なぜかあの後の記憶がなかったな…。そんな状況じゃったのか…。
「そうか、ちょっとスペードに聞きたい事があったのじゃが…面倒をかけたな。」
「いえ、それでは先程の部屋で待っていてください。今準備をしてきますので。」
わしは漏らしたズボンを履いたまま元の部屋に戻ってスペードを待つ。
ちょっと濡れて気持ち悪いが、我慢して長椅子腰掛けスペードを待つ。
しばらくするとスペードが灯りと共に温かい飲み物を一緒に持ってきてくれた。
それをわしは、漏らしたズボンを履いたまま受け取る。
ズズズ~~~~んっ麦茶のような味がするな。
「香ばしくておいしいな、これ?初めて飲んだのじゃ。」
「これはナル地方で自生している植物の葉を乾燥させて煎った飲み物です。まだポピュラーではありませんが、わが商会がこれから押していこうという商品です。」
「これはいい!流行ると思うぞ。とても飲みやすいしな。」
「ジューロー様に褒めていただけるは、自信がつきました。」
などと、仕事の話や、日常の生活などたわいもない話をした。
しばらくすると、スペードの方から話を切り出してきた。
「それで私に話があるとの事だったのですが…何でしたか?」
うむ…そうじゃった、スペードに聞きたい事というのは…
「ちょっと揺らしてもらっていいかな?」
紳士に真摯に言ってみた。きりり!
「は?」
スペードが困惑顔じゃ。
…よし、スベちらかしてしもうたが掴みはOKじゃ!本題に入ろう。
「実はこの間ある部隊と戦ったんじゃ。なかなか手強い相手だったのじゃが…
そいつはスペード商会の裏部隊と名乗っておってな…本当か?」
スペードは黙ってわしの顔をジッと見つめる。少しの沈黙の後、口を開く。
「…本当です。」
わしは黙ってスペードの話を聞く。
「私の私設部隊で、ゴスンはもちろん、スペード商会で働く者で誰一人として知っている者はいません。あくまでも守る為の裏部隊です。」
「しかし、スペード商会の事を聞いて回っていただけのセイムさんとエメリさんが襲われたぞ。それはどういう事だ。」
「…その報告は聞きました。お二人には怖い思いをさせ、本当に申し訳なく思います。失礼をお詫びしておいてください…会わせる顔もないので。」
と言いその場で頭を下げる。
「裏部隊には私の指示を仰がずともスペード商会に探りを入れてくる者を排除しろと言ってあったものですから…。」
「そうか…。」
しばらくの沈黙の後、スペードがわしに聞く
「ジューロー様は私を責めないのですね…お二人を襲ったこともそうですが、裏部隊を使って何をしているのかもお聞きにならない…。」
「まあ、なんとなく想像はつく。ゴスンに聞いたが、この城下町で一番大きい西地区は大手商会No.1~3が市場を占めていて、他の中小の商会はどこかしらかの大手の傘下に入っていかなければやっていけないそうじゃが、スペード商会はどこにも属していないと。さっきの守る為と言っておったのはそういうことじゃろう?」
「…はい、連日大手からの嫌がらせは日常茶飯事ですが、さらにひどいのは裏から無法者を雇い入れての襲撃です。だから従業員の安全を確保するためにできる限りのの体勢を強いているつもりでが…。」
「ところで、お主は王族ではないか?という噂は本当か?それが関係しておるのか?」
「…どこでそんな噂を…。ジューロー様には本当の事を…。私は王族ではありません。元王族でした。詳しくは話せませんが、スペード商会を立ち上げたのも大手の傘下に入らないのもそれが関係しています。」
「そうじゃったか…。わかった、その事はわしから他言はせん。もちろん紙に書いて言ってない!などという屁理屈を言う事も。ましてや…」
「ありがとうございます。」
……わしのボケにかぶせてきよおった。
わしのギャグがくどくなる前に潰しにきよおった。
せっかくのわしの3段ボケをオチを聞く前に無にするとわ…
スペードやるな!
外に眼をやると夕日のような黄昏色の朝日が昇っていた。
「おお、もう夜が明けてきたのう。長い事話し込んでいたな。今日は腹を割って色々と話せてよかった。これからもよろしく頼むなスペード。」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
わしはスペードに見送られ、皆が待つ…といっても寝ておるであろう商館に向かって歩く。朝帰りか…どんなモテモテな嘘をついてやろうかと考える。
※※※※
スペードはジューローが見えなくなるのを確認した後、家の中に入る。
そして階段横の部屋のドアを開け、その部屋の隅にある地下へと続く階段をゆっくり1歩ずつ確かめるように降りて行った……。




